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第2章・新たな拠点
17.Cランク
しおりを挟む酒場は相変わらず喧騒に包まれている。セリーナさんが現れた時は少しザワついたが、俺たちのことは全く気にしている様子はなかった。
「あ、ユウスケさん! おかえりなさい、お話は終わりましたか?」
声をかけてきたのは最初に言葉を交わした冒険者登録担当の受付嬢だった。どうやら今日の営業は終了したらしく、給仕人たちと共に料理を運んでいる。
「はい、お陰様で」
「それは良かったです! あ、私はエマ・ジュークと言います、以後お見知りおきを。よろしければこのギルドの簡単な説明とか出来ますけど、どうしましょうか?」
「ああ、お願いしたいです」
ウィキでもある程度の情報収集は出来る。ただ実際に現場で動いている人から聞く話というのは必ず何かしら参考になる。ましてや受付嬢というギルドを管理している側の人間だ、聞いておいて損は無いだろう。
レイアスを連れて受付カウンターの前へ。
「分かりました、それではまずランクから説明致しますね」
エマさんはそう言うと何枚かの書類を広げた。
「冒険者にはその実力に見合ったランクが付きます。付くと言っても最初は皆さんGランクから始まって、各ランクで大きな功績を残すことでギルド側で昇格が吟味されます」
まあ一般的だな。よくあるシステムだ。
「現時点での最高ランクはSSで、王都の賢者と呼ばれている魔法使いの冒険者がそれにあたります」
賢者。そういえばエリューシャさんが賢者より魔力がどうこう言ってた気もするが、そいつのことだろうか。
「次は依頼の受け方についてですが、あちらにあるクエストボードに登録が完了した依頼が貼ってあります。ですのであの中から自分が達成出来ると思う依頼をよく調べてから、あちらのクエスト登録カウンターまで依頼書をお持ちください。クエストが終わって証拠品などを持ち帰る時もあちらへ」
エマさんが座っている場所から少し右には、これまた綺麗な受付嬢さんが。その上のボードには『クエスト関連手続き』と書かれており、受付嬢さんはたくさんの書類の処理に追われているように見えた。
「それとあちらのボードはパーティメンバーの募集要項になります。1人での達成が困難とされている依頼は個人の判断でパーティメンバーを募集することが出来るんです。パーティメンバーを募集する場合には1度カウンターで募集用紙を受け取ってから、メンバーが集まったらその冒険者さんの名前を書いて再びカウンターに用紙を提出して貰います。それが終わってから、初めてクエストにパーティで出発できます」
ここまで聞いた感想は『思いのほか面倒』だ。必要な手続きも思っていたよりも多い。とはいえ、不要なものだとは思わない。むしろどのシステムもよく冒険者のことを考えてある。冒険者が行方が分からないまま命を落とすなんてことにならないためのシステムなのだろう。
「最後は個人戦闘訓練ですね。あちらのカウンターで受け付けを行っています」
指差した先、クエスト関連手続きの更に奥のカウンター。ボードには『個人戦闘訓練受付』とある。そこにも受付嬢はいるが、何やらカウンターに突っ伏している。
「すみません、彼女はその、精神的な疲れが溜まってるみたいで……」
エマさんは申し訳なさそうに言った。
確かに冒険者同士の個人戦闘なんて穏やかではない。こういったシステムを設ける必要性が出てくる理由があるのだろう。それを想像すればあの受付嬢の精神的疲労も理解出来る。
「冒険者同士の私闘は原則禁止されています。ですがギルドの職員立会いの元で手続きを踏んだ場合は戦闘訓練として戦うことができます。ここでは基本的に金銭のやりとりは発生しません。怪我も武器の破損も自己責任になりますのでご注意ください」
まあ俺が利用することはないはず。この街にはおそらくある程度の期間定住することになるだろうが、あまり特定の誰かに深入りする気もない。
「と、ここまでがおおよそのこのギルドの説明になります。何かご質問などはございますか?」
「ふむ……従魔契約してるコイツは、パーティを組む場合は俺と合わせて2人ってカウントされるんですか?」
「いえ、されません。レイアスさんは人型ですがあくまでもユウスケさんの従魔という形で登録してありますので、2人で1人というカウントになります。ただレイアスさんがご自身で冒険者登録をされれば、それは変わります」
「なるほど……」
レイアスが人型ってことに目が向きがちだったが、そういえばコイツは元はオオカミだったな。たぶん従魔を『〇人』なんて数えることの方が少ないんだろう。人型になれる魔物はかなり少ないらしいし、それは納得出来る。
「あ、そういえば俺のランクって今どうなってます?」
ギルドカードにはランクは表示されない。されていないように見えるだけかもしれないが、とりあえず今が何なのか知っておかないと自分で把握が出来ない。
「ええと、ユウスケさんは……Cランク!?」
エマさんが自分で答えながら驚く。その声に若干注目も集まる。
そしてなぜ俺はCランクスタートなのか。まだ依頼といえばヒナミ草の採集しかしてないが、アレだけでGからCランクまで上がるなんて思えない。
「ユウスケさん、エリーのところで何かしました……?」
まあ心当たりはある。
「いえ、特には……」
けどここで正直に答えるつもりは無い。
「ランクは、その街のギルド側が独自に判断できるんです。ええと、各街のギルドはランク付けに関しては独立して行っているって言い方になりますね」
「つまり、エリューシャさんとフィザさんが俺をCランクにしたと」
「そうなります。あの村はとても平和ですから、依頼もEランクより上のものは無かったはずなんですけど……」
困ったような驚いたような顔。俺の情報が伝わっていたとはいえ、やはり半信半疑だったんだろう。
すると、そこに都合よくアイツらが現れた。
「おい」
「ああ、アンタらか。まだ何か用か?」
レイアスをナンパした2人組だ。当のレイアスは説明の途中からカウンターで寝てるが。
「何がCランクだインチキ野郎が」
「いや決めたの俺じゃないんだけどな」
ふとエマさんの方を見ると、だいぶコイツらに萎縮しているようだった。別段強いようには見えないが、何か隠し球でもあるのか、それともこのギルドの戦力が本当に低いのか。
「来い。お前のインチキを暴いてやる」
そういうと、2人組は個人戦闘訓練のカウンターへと歩いていった。寝ていた受付嬢に怒鳴り散らしている。
「ユウスケさん、どうにかしてあの2人を説得してください……! 戦ったらユウスケさんでもどうなるか……!」
意外や意外、奴らはそれなりに強いらしい。だとしたら、俺の実力を試す良い機会だ。本気は出さないが、魔法の出力調整くらいには使えるだろう。
「大丈夫です、心配いりません。あのバカ2人をしっかり矯正しますよ」
レイアスを起こし、カウンターへ。受付嬢は涙目で登録を急いでいる。
「だ、ダメですよぅジーンさん。怪我制限無しの戦闘訓練はマスターの許可が無いと……」
「うるせぇ! やれって言ってんだろうが!」
「ひぃ……!」
いややっちゃうんかい。
受付嬢はオドオドしながら必要事項を記入していく。その手は震えていた。
ギルド内の喧騒もすっかり消え、コイツらのご機嫌伺いをしているかのようだった。
「怪我制限無しってのはどういうルールなんですか?」
受付嬢に出来るだけ穏やかな声色で尋ねる。同類視されなければいいのだが。
「えっと、そのままの意味です……こちらの職員が本当に危ないと思うまで、怪我をしても勝負は終わりません……」
「そういうことだ。今更逃げようとするんじゃねえぞ」
「まあ今逃げたら自分で嘘を認めるようなもんだけどな」
基本的に煽りは無視。相手にするだけ無駄だ。
結局受付嬢は無理やり登録を済ませたようだった。ギルドの職員に案内され、戦闘待機室へ。
高校の部室のようなその部屋にはいくつかの注意書きとたくさんの武器が。まあ武器は持ってるしルールも特に読む必要は無いだろう。殺さない程度にお灸を据えてやればいいのだ。
俺は戦いたがるレイアスを宥めながら訓練場に歩を進めた。
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