異世界転生したけど神様のスマホを駆使して生きていきます

颯来千亜紀

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第2章・新たな拠点

16.冒険者ギルド・セイレン支部

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  既に日は沈んでいるが、セイレンの街は民家や屋台、街灯の明かりで昼間のような明るさを保っている。所々にある酒場では客たちが1日の疲れを酒で流している。とても楽しそうなその笑顔は見てるこっちまで楽しくなる。

「えーと、ギルドは……」

  如何せん大きな街だ、エンハ村とは違って目的地に行くにしても場所が分からない。そのためか街の中の数箇所に街の全体図が書かれた案内板があり、その中にギルド支部の場所も書かれていた。

ーーーこの道を真っ直ぐ行って左、でそこの突き当たりか。

  道も分かったことだし、さあ行こうと歩き出したその時。

「おう嬢ちゃん、暇か?」

「俺たちと遊ぼうぜ」

  レイアスがナンパに遭った。声を掛けてきた2人はどうやら同業者のようで、2人とも背中に大きめの剣を背負い、体には多くの傷跡を残していた。
  この街では有名なのか、周りの人達もヒソヒソと話をしながら少しずつ距離を取っていく。

「すまない、私たちは今から行くところがあるんだ」

  予想に反してレイアスの対応は冷静沈着だった。というよりはすごくどうでもよさそうだ。ふわぁ、と欠伸をしながら俺の方に寄ってくる。

「適当だなぁお前」

「あんな奴らに興味は無いよ。ギルドの場所は分かったか?」

「ああ。真っ直ぐ行って左だ」

  軽くあしらわれる様子を見物人たちがクスクスと笑う。それが聞こえたのか、2人は憤慨して俺たちに詰め寄ってきた。

「ちょっと待てや!」

「俺達を誰だと思ってんだ! B級の冒険者様だぞ!」

  胸ぐらを掴まれた。ダメージなどあるはずもないが、だからといって何も思わないわけじゃない。正直イラッとする。

「じゃあ一緒にギルドに来いよ。俺たちもギルドに用があるんだ」

  この街のギルドのどこまで俺の話が通っているかは分からないが、少なくともコイツらに釘を刺す程度のことはしてくれるだろう。そうでもなきゃ俺かレイアスがどうにかするハメになるが、こっちが手を出した時点で間違いなく面倒なことにはなる。

「上等じゃねえか。お前みてえなガキに冒険者が務まるか俺が判断してやる」

  いちいち癇に障る言い方をする奴だ。ギルド側が認めた時点で冒険者であることは正式に認められてるってのに。

  この街で最初に知り合う冒険者がこんなヤツらだというのは不服だが、今はさっさとギルドに行って必要な登録を済ませたい。この街の冒険者がこんなヤツらばかりではないことを祈るばかりだ。


ーーーーーーーーーーーーーーー


  街の中心部からやや北西に位置する場所に、冒険者ギルドのセイレン支部はある。周りよりも遥かに豪勢な造りのそれはこの時代の冒険者という職業の華々しさを示しているようだった。
  建物内部の1階部分はエンハ村と同じように酒場となっているが、その規模や賑わい具合は比べ物にならない。多種多様な冒険者たちが各々の時間を楽しんでいる。

「おお~……」

  まさに異世界。アニメの中のような世界に思わず驚嘆の声が出た。憧れ続けた光景は今、現実となって俺の目の前に存在している。

「この程度で驚いてるような素人が俺たちに因縁付けたこと後悔すんなよ?」

「ここじゃ俺たちに逆らえる奴なんざ居ねぇからよ!」

  唾を飛ばしながら喚き散らす2人を無視して、今にも飛びかかりそうなレイアスを引っ張ってカウンターに向かう。さすがは大都市のギルドだ、受付嬢も3人いて担当ごとに分かれている。
  俺の場合は……冒険者登録の担当さんでいいのか?

「こんばんは」

「こんばんは、冒険者ギルド・セイレン支部へようこそ! 本日はどのような御用ですか?」

  綺麗な笑顔にこれでもかという定型接客文。まるで大企業の受付のようだ。

「エンハ村のギルドから来たツキシタユウスケです。連絡はしてあると思うんですが」

「ああ、あなたがエリーの言っていた! ギルドマスターをお呼びしますので少々お待ちください!」

  俺の名前を出すと受付嬢の顔は分かりやすく明るくなった。営業スマイルじゃない、素の笑顔だ。
  それを見て絡んできた冒険者2人が少し驚く。

  そんなことはどうでもいいと言わんばかりに、レイアスはyamazonで買った日本製の飴を味わっている。
  この世界の食べ物も美味いが、科学より魔法が進歩しているためか保存のきくお菓子類がかなり少ない。クッキー程度ならあるだろうが、複雑なもの、それこそ飴やグミなんてのは全く見ない。
  物は試しにとレイアスにフルーツ飴を渡すと、案の定ハマったようだ。さっきから色々な味を舐め比べている。

  そんなこんなで少しすると、ギルドの奥から1人の女性が現れた。ギルド内の雰囲気が少し変わる。

「ああ、アンタが例のか。話は聞いてる、とりあえず応接室に来な」

  茶髪を短く切り揃え、軽装に身を包んだ彼女は明らかに周りとは違う雰囲気を放っていた。

ーーーあれは魔力だ。間違いない。

  スティアに手を握ってもらった時のあの感覚に少し似ている。けどあの時みたいな暖かさは感じない。

  不要な警戒をしながら後ろをついていこうとすると、彼女を呼びに行っていた受付嬢が一声かけてくれた。

「怖がらないでくださいね? マスターさん、あんな風に見た目とか口は悪いですけど、とても良い人なんですよ」

  気を利かされてしまったようだ。こういう所があるあたり、俺はまだまだ若いんだろうな。

「大丈夫です。お気遣いありがとうございます」

  軽く頭を下げ、奥の部屋に入る。

「ほら、座りな。茶だ」

  勧められるがままにお茶を啜る。

ーーーあ、緑茶だこれ。

  懐かしい味がする。さっきまで甘い飴を舐めていたレイアスは余計に苦く感じたのか、顔を引き攣らせていた。けど俺はよく覚えているこの味をまた飲むことが出来て少し嬉しかった。

「さてと、話はフィザから聞いてるよ。あたしはギルドマスターのセリーナ・ティムレットだ。ユウスケだっけ? とりあえず手ぇ出しな」

「手ですか?」

  言われた通りに右手を差し出すと、セリーナさんは両手でそれを握った。セリーナさんの不思議な魔力を感じる。

「あたしには相手の魔力を分析する能力がある。アンタが良けりゃ見て参考にしたいんだけど」

「ああ、なるほど。構わないです」

「他言はしないと約束するよ。それじゃ行くよ」

  握る力が少し強まる。すると、手からセリーナさんの魔力が伝わってきた。段々と手元で俺の魔力と混ざり合うような感覚だ。

  少しすると、セリーナさんは手を離した。

「ふう」

  小さく息をつく。

「こりゃまた凄いやつが来たもんだ」

「今ので何が分かったんですか?」

「まあ大体は分かったさ。アンタの魔力量が飛び抜けてるってのも、創造神と星神と森の加護を受けてることも。それにその子、ブラッディウルフとは驚いたね」

  驚いたのはこちらも同じだ。まさか少し手を握られただけでここまで情報が伝わるとは思わなかった。

「アンタ、名前は?」 

  質問の対象はレイアスに移る。

「レイアスだ」

「コイツと従魔契約を?」

「ああ、その通りだ」

「ふむふむ。大体のことは分かった」

  一通りの問答を紙にメモしたかと思うと、セリーナさんはその紙を右手に出した炎で燃やしてしまった。

「これがあたしのもうひとつの能力。こうやって紙に書いて魔法の炎で燃やせば忘れなくなる」

「そいつは凄い……」

「フィザのバカ野郎は勢いでS級の功績を残せなんて言ったらしいが気にしなくていい。アンタほどの逸材が冒険者としてギルドにいるだけでウチらとしては十分得してるんだよ」

  その言い分も理解は出来る。どうやら俺は俺が思っている以上に飛び抜けた存在みたいだから。

「ま、とりあえずそんなところだ。ここなら依頼に事欠くことはないだろうし、何かあったらあたしのとこに来な」

「助かります。あ、良かったらこれどうぞ」

  このまま礼だけ言って帰るのも申し訳ない。そう思うほどにこの人は親切だった。口は悪いけど。

  渡したのはフルーツ飴だ。それも某企業の大人気炭酸ジュースとコラボしたやつ。俺も好き。

「なんだこりゃ」

「食べ物です。硬いので口の中で転がしながら舐めてると味がします」

  セリーナさんはサイダー味のそれをひとつ取り出し、じっと見つめた後に口の中に放り込んだ。するとその表情はみるみるうちに笑顔になっていく。

「何これうっま!」

  初めて見たこの人の笑顔に思わずこちらも笑顔になる。やっぱり美味いものは万国共通、人を幸せにしてくれる。

「俺の祖国の食べ物です。また持ってきますよ」

「絶対! 絶対持ってきて!」

「あはは、分かりました」

  急に元気になったセリーナさんに手を振り、レイアスにももう1袋渡しながら俺は思った。

ーーーこれは渡す相手をよく選ばないと、ポイントが枯渇する……!

  1袋は大した値段ではない。だが無闇やたらと配れば噂が広がり、噂が広がればまたさらに求める人が増える。そうなったら俺のポイントは終わり、借金生活スタートだ。そんな事態だけは避けなければならない。

 
  俺は密かに心に強く誓い、応接室を後にした。
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