短編中編マーブル(大体恋愛)

カギカッコ「」

文字の大きさ
24 / 98

ハニーハニャーダーリン

しおりを挟む
 彼を見かけたのはほんの偶然だった。
 低木と低木のちょうどあった隙間に隠れるようにして途方に暮れたように座り込んでいた。
 近道だからと通りかかった夕方の公園で、私とばっちり目が合った彼はけれど、特に恐れるような素振りは見せなかった。
 誰かから見つからないように隠れているけれど、それは私じゃないからだろう。
 もう全力で喧嘩をしたのかボロボロで全身砂で汚れていたけれど、男の子って時々こんな危ういやんちゃをしでかすもんね、なんて思ってゆっくりと傍を通りすぎた。
 彼の目は青く、透き通っていて南海のサンゴ礁の海を彷彿とさせた。とてもきれいだった。思わず足を止めてじっと見つめてしまうほどに。
 さすがに動きを止めて注意を向けられたのは気になったのか、彼は少したじろいだ。
 その様子が私の心を惹き付けて、無意識に一歩二歩と近づいていた。
 見知らぬ人間の接近に、しかし向こうは特に不審がる素振りは見せなかった。
 座り込んだまま無言で私を見上げてくるだけ。
 後に彼は少し目が悪く、その上極端な無口だってわかるけれど、単に目付き悪いなってこの時は思った。
 たまたまコンビニ帰りの私はおやつを持っていた。
 何か草臥れてるし、お腹空いてそう。
「た、食べる……?」
 お菓子の袋をつまむようにして差し出して振ってみせた。彼は返事をしなかったけれど。
 その目が怪訝そうにしているのを悟った私は少し気まずい気分で、ビリビリと自分で袋を開けて中身を頬ばった。
「大丈夫、変な物は入ってないから」
 それだけ言うと、この場に留まるのが居た堪れず袋を押し付けるように置いて早足で公園を後にした。最後に振り返った時、彼がおずおずとして袋に手を伸ばすのが見えていた。
 夕食後、公園の彼はさすがに家に帰っただろうと思ったけれど、砂まみれの薄汚れた姿の中の唯一に輝く彼の薄青の瞳は、どこか悲しそうだった。思い詰めていたと言ってもいい。
 不安が膨らんだ。
 夜中は雨だって予報が言っていたっけ。
 だけど雨は既に降り出していた。
 結構強めな窓の外に気付いたら居ても立ってもいられなくて、傘を手に家を飛び出していた。このご時世に物騒にも鍵もかけずに。
 公園までこんなに息を切らして走ったのは初めてだった。
 入口で少し足を緩めただけで止まらずに私は彼がいた低木ら辺まで進んでいった。水溜まりを踏んでも泥はねしても頓着せずに。いるわけないかと半分諦めながらもケータイのライトを頼りに彼を見た場所まで行った。
 暗い闇をライトが照らす。
「は、そりゃいないか。こんな所に座ってたらずぶ濡れになるしね」
 どこか帰ったに違いない。空になったお菓子の袋だけが残されていた。
 少しのがっかりと大きな安堵を胸にふと近くのベンチを照らした。ライトはその下までを薄ら照らす。
 ぎらりと下の方で何かが反射した。
 まるで目のようなそれが。
 いや、目だった。彼の。
「まだ居た、んだ」
 私はしゃがみ込んで手を伸ばした。
「おいで。うちに」
 傘の下、私は濡れるのも構わずに彼を抱く。震えていた彼は僅かに身を固くしたけど、私を引っ掻く気力もなかったのか、大人しくしていた。
 じわりじわりと濡れた服ごしに熱が伝わった。お互いの。
「良ければ一緒に暮らそっか」
 私の言葉に彼は初めてないた。
「みゃあ」
 と。
 まだ寒さに震えた声で。
 それでも、意味を理解し安心したかのように。
 その夜、私にはとても愛する彼ができた。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...