お待たせ皇子様、出前です!

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38 後日談・肖子偉のプロポーズ(前)

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 それは第二皇子肖子偉が、諸州巡行の報告のため皇都に一時帰還していたとある夜の事。
 肖子偉本人の希望で皇城ではなく雷浩然の屋敷に世話になる彼の元に、滞在の報せを聞いた凛風が父親と彼の分の夕食を差し入れに持ってきた晩の話だ。

 巡行の旅に出る前まで使わせてもらっていた母屋の肖子偉のための書斎はそのままだったので、彼は以前と同じようにその部屋で寝食している。
 弾んだノックの音と恋人の凛風の声が聞こえて、彼は喜々として部屋の戸を開けたものだった。
 やはり男装で岡持ちを手にする凛風は、肖子偉の姿を認めるとどこか不思議そうに庭向かいの軒続きの建物を振り返る。
 中庭を挟んだ肖子偉の部屋の向かいには雷浩然の書斎があるのだ。

「今日は父さんはいないの? 書斎の灯りがないけど」
「ああ、お義父さ……コホン、雷浩然は急遽決まった礼部の宴席だとかで遅くなると言っていた。そなたが来る事はわかっていたから余計に随分と気が乗らない様子だったし、早めに帰ってくるとは思う」
「そうなんだ」

 岡持ちは二つあり、ノックのために地面に置いていた方を肖子偉がさりげなく手に持って部屋に招けば、凛風は父親不在にさして残念がってもいない様子であっさり応じた。
 晩餉ばんげの時間にもちょうど良く、彼女は肖子偉が食事用にしている方形の卓子に岡持ちを置いて手際よく中身を広げ始めた。

「凛風、こっちはどうするのだ?」

 肖子偉が自分が持っている方の岡持ちをちょっと掲げて示した。

「ああそれ、実は黒蛇の分の包子なの。ここには泊まってないって聞いてたけど、もしかしたらいるかもって思って一応持って来たんだ。出前じゃなくてたまには差し入れと思って。ほらあの人もうちの包子が好物でしょ。まあでも父さんの分同様に無駄になっちゃったけど」

 肖子偉の同行者の黒蛇も当然共に皇都に戻っていた。
 彼は彼で、下町に留め置いた一部の義賊仲間の元へ久しぶりに土産を手に顔を見せに行っている。寝泊まりも向こうでするらしかった。
 義賊をやっていた黒蛇の手下たちの大半も雇われの身となっていたが、所帯や持病の関係で各地へは同行を断念した者たちも当然いたのだ。そういう者たちは皇都やその近隣での情報収集や、それこそ山憂炎からの小さな任務をこなすのを主な仕事としていた。
 今頃は飲めや食えやの大盤振る舞いで酒を酌み交わしている事だろう。
 凛風も肖子偉も黒蛇の泥酔姿を見た事はないが、もしかしたら気の置けない仲間たちの前でなら羽目を外してべろんべろんにもなるかもしれない。

「無駄ではないのだ。私が全て――食す!」

 自身の手にある未開封の岡持ちをじっと見下ろした肖子偉が頷くように言った。

「え、そこは別に無理しなくていいよ。山公子にでも持って行くし。あの人見かけによらずよく食べるから二人前もぺろっといけると思う」
「えっ、さ、山太師は駄目だ」
「駄目ってどうして? 彼は店にもよく来てくれるし、たまにはこっちから差し入れしてあげても罰は当たらないと思うけど」
「も、もう夜でもあるし、折角のそなたの手作り包子を他の男になどやりたくない」
「……で、一番の本音は?」

 肖子偉はしばらく無言になって唇を窄めた。

「…………いつ見ても何故かキラキラしい男になど近付いて欲しくない。こんがりした焼き餅が焼ける」

 素直に心情を吐露した肖子偉に、凛風は苦笑した。
 彼のこういう所がまた凛風にとっての萌えポイントだったりするのだ。

「嫉妬する必要なんてないじゃない。私はいつでも子偉一筋なんだし?」

 凛風が頼もしく言い切れば、肖子偉は言葉に詰まったように照れた。
 それにも萌えつつ、蒸籠は勿論大小の皿を出し終えた凛風は、座りもせず方卓の傍に佇んでいた肖子偉へと近付くと、彼がまだ下ろさず手に持ったままの岡持ちを受け取って壁際の別の卓子に置いた。

「本当に無理は駄目だよ。食べ過ぎてお腹を下したら大変でしょう? でもわかった、山公子には持って行かないから」
「……残すのは勿体ない」
「まさか。そんな勿体ない事しません。この屋敷で働いてくれてる皆に回すつもりだよ」
「ああ、なるほど、彼らがいたのだな」
「そ。いつも父さんのために職務以上に色々と良くしてくれてるみたいだし」

 比較的広いこの屋敷一つを維持するのには、やはり人出が掛かるのだ。
 それでも高官の大層な屋敷と比べればここはかなり少ない方で、季節や日にもよるが三人もしくは四人程だ。その人数で庭の手入れから屋敷内の掃除や炊事洗濯、必需品の買い出しまでをこなしてくれている。
 話を聞けば、よく彼らの故郷の料理や点心を作って父親を喜ばせてくれているという。
 基本白家の店では一人分は包子二つなので現在四つ余っている。
 今日は三人か四人か今夜来たばかりの凛風もまだ把握していないが、一つずつは行き渡るだろう。
 因みに、今更ながら凛風は雪露宮のあの広い庭には、どのくらいの庭師が投入されていたのだろうかと考えてしまった。定期清掃に訪れていたという人員は少なくとも二十人以上はいたと聞く。

「そう言えば雪露宮の蓮は回復したみたいだよ」
「そうか。それは良かった」
「あの騒動で茎をブチブチ切っちゃった責任を感じて、仙人秘伝の生育術だとかで山公子が手入れしていたみたい。今度時間がある時にでも見せてもらいに行こうよ」
「うん、是非とも」
「ところで、座らない?」

 ついつい突っ立ったまま会話をしていたと気付いた凛風は肖子偉に着席を促して、自分も向かいに腰を下ろした。

「今だから言うけど、子偉もちゃんと父さんと会話できてるみたいで良かった」
「それは……私もそう思う」

 凛風との交際当初は雷浩然との関係がかなりギクシャクしていた肖子偉だったが、今は何とか平穏を取り戻している。
 それも彼が皇都に戻る度、逃げずにこの屋敷に滞在し、何故か使用人と一緒になって炊事洗濯や庭掃除、裁縫までしたりしながら甲斐甲斐しく雷浩然の身の周りの世話をこなし、凛風への気持ちは真剣なのだと誠意を見せたからにほかならない。
 凛風としてはその話を聞き、一時的に主夫(しかも父親の)になった恋人に、もっと他にやりようはなかったのかと突っ込みたかったが堪えた。
 肖子偉が旅で身に付けた炊事や洗濯などのスキルを十二分に発揮した結果なのでまあ喜ばしくはあったが。

 本音を言えば雷凛風限定・護りたくなる皇子ナンバーワンの彼の、その意外な程の意思の強さには凛風自身驚いたものだった。

 めげずにきちんと父親と向き合ってくれた彼の姿勢がとても嬉しかったし誇らしかった。

 未だに世間からは駄目皇子というレッテルは消えないが、凛風は誰が相手だろうと彼は最高の恋人だと紹介できる。

 とは言え、出会った頃と比べればだいぶ誤解は解けていて、本当の彼の姿をわかってくれている人々は沢山増えた。
 とりわけ朝廷の官吏や兵士の一部は、あの皇太后の生誕祭で凛風と肖子偉が雪露宮上空で繰り広げた光景を目撃していたために、それまでの悪い印象を払拭するある強烈な印象を植え付けられたらしかった。

 第二皇子は花も恥じらう乙女皇子だと。

 ごく一部の凛風が女だと知らない者たちからは、肖子偉の断袖だんしゅう疑惑が持ち上がっていたようだがそれも今はどうなっている事やらだ。
 ともかく、その彼らの口から新たな噂が朝廷に広まり、そして市井にも広まっているのだ。
 肖子偉が入牢までしたそれまでの真相を知る知らないにかかわらず、良からぬ噂を上書きしてくれているというわけだった。
 素直に喜んだ凛風がその話をした時の肖子偉は、同意を示しつつもどこか複雑そうな顔をしていたが……。

「さてと、いつ帰宅するかわからない父さんを待っているわけにもいかないし、遠慮しないでちゃっちゃと食べてね」
「……ちゃっちゃとは食べない。なるべくゆっくり食べてそなたとの時間を増やしたい」
「ゆっくり過ぎたら冷めちゃうよ? いいから温かいうちに食べる事。今日は食後まで一緒にゆっくりするつもりだし、敢えて言わせてもらえば時間の長短より質だよ?」
「むむむ……そなたは逆に早食い過ぎるのだ。前々からよくよく噛んで呑み込むように言っているのに」

 まるで母親が子供に言うような凛風の台詞に、対抗するような台詞を口に肖子偉はどこか不服気にしたが、それは凛風の気遣いでもあるのをわかっている。

「ところで、これは雷浩然の分も出したのか? 一人分には些か量が多い気が」
「うん、だって二人分だもの」

 そう頷いた彼女が手に持ったのは一膳の赤い箸だ。
 箸の根元部分に螺鈿を施された漆塗りの決して安くはない一品だ。

「凛風それは……」
「そう、マイ箸」

 言われて初めて肖子偉はハッとした。

「今夜は一緒に食事ができるのだな!」
「ふっふっふっそういうこと。店の方は大丈夫だって言われたから」

 凛風がちょっとおどければ、肖子偉は輝かせた笑みを深くした。

 出前に行ってもそれほど長居はせず、滞在先での深刻なトラブルでもない限り凛風はあっさり帰ってきていた。
 それを本人よりもむしろ母親が気にしてくれていて、今夜の行き先は皇都金波でもあるしで、久しぶりに一緒に食べてくるように言われたのだ。
 とは言え、実際は出前日のおよそ半分で何かしら事件が起きていたので、凛風と肖子偉の逢瀬の時間は決して少なくはなかったりする。
 それでも、母親の気遣いを有り難く頂戴した凛風は、気持ちを改め再度卓上を示す。

「ほらほら皇子様、早く箸を手に持って」

 そう発言したものの、凛風は何かを思案するように少しの間黙り込んだ。

「凛風?」
「……ふふっ」
「何か心配事が? ま、まさか前言撤回で即帰る、とか?」

 急に心配になったらしい肖子偉が不安を見せれば、凛風は楽しげな面持ちで顔を上げた。そしてやや大きく息を吸い込んで椅子を勧める。

「――旦那様、お食事をどうぞ?」

 旦 那 様。

 その究極の響きに、肖子偉は脳天に雷が落ちたかのような衝撃を受けた。
 彼は身に余る幸福と感激に涙ぐみそうにさえなった。
 何かの悟りさえ開けそうになった。

「え、あのちょっと聞いてる? 子偉? ねえ?」

 嬉し過ぎて反応出来なかったせいで傍からは無反応に見えていた肖子偉に、凛風は焦ったような戸惑いを浮かべる。

「ごめん嫌だった?」
「ま、まさか! もっとそう呼んでほしい。とてもここの辺がくすぐったい」
「……そ、そう?」

 うっかり照れてしまえば、肖子偉の方も胸に手を添えて恥じらうように視線をやや逸らしている。
 想定以上に「旦那様」呼びは破壊力抜群だったようで、凛風は予期せぬカウンターさえ食らった。
 しばらく二人でもじもじし合って、それでも辛うじて常のように主導権を握る凛風はぎこちなくも行動を促した。

「え、ええと、冷めないうちに食べようか」
「うん」

 伏し目がちにそう答える肖子偉の目に密かな炎が宿ったが、生憎凛風は気が付かなかった。
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