煩悩まみれなのが推しに駄々漏れで聖女失格です?

カギカッコ「」

文字の大きさ
2 / 56
第一章

第2話 ある日の絶望

 あはは、いやいやいや、ガチで人の思考を読めるなんて偉大な魔法使いでもない限り無理でしょー。精神関係の魔法なんて特に。彼はそこまで細かいのは得意じゃないはずよね。どっちかって言うとダイレクトに物理攻撃をするような魔法がメインで、剣にそれを付与って言うか纏わせる。彼はソードマスター、剣聖として有名だから。

「さすがは私をよく知っているな。確かに精神系の魔法は得意不得意以前に使えない」

 ……っ、誰かこれは夢だと言って!

「残念ながら現実だよ。そなたの聖女の力の一環なのかはわからないがな。少なくとも私の力じゃあない」

 ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!

 心の絶叫に彼はビクッとなった。
 なら聖女の仮面の下から盗み見ていた誰にも言えない破廉恥な欲求が、よりにもよって本人に知られていたってわけ?
 蒼い顔で耐えるように目を閉じたセオ様はしかと頷く。

「頼むから私での妄想はもうやめてくれ。今日はそれを言うためにわざわざそなたに来てもらったんだ。こっちもそろそろ精神衛生上我慢の限界だった」

 道理であたしの気配に敏感なわけだ。納得。
 これまでの自分を思い返すととてもじゃないけど平然とすまして彼の前に座ってなんていられない。
 前世の夫の前でだってここまでの羞恥を感じた記憶はないのにいーっ。うう、今すぐ穴を掘って入りたい。

「……夫?」

 セオ様が不可解そうに眉をひそめた。そんな事には気が回らずにあたしは頭を抱える。

 煩悩まみれの腐れ聖女なんて前代未聞。

 ……ううん、違う。もしかしたら密かに煩悩まみれだった聖女は過去にもいたかもだけど、露見するのが前代未聞なんだわ。
 不適格として聖女の称号を剥奪されかねない。そうなれば不埒な教会の面汚しめってほっぽり出されて、故郷に帰ったって家族に迷惑がかかるから帰れず、路頭に迷うしかなくなる。
 更には国王陛下が女性不信になってたらあたしのせいだわごめんなさい全国民の皆様っ。

 そしたら跡継ぎできなくて国の将来が暗黒になって……そんなそんなそんなどうしよう~っっ!

「勝手に決めるな」

 あ、聞こえてらっしゃいますよね。うふふふふ。
 あたしは無駄と知りつつおしとやかに微笑してみたけど、セオ様は冷静至極にも大層残念な人を見る目をなさってた。
 あ~、詰んだ……。




 あたしアリエル・ベルは正真正銘、聖女。

 でも生まれながらに聖女だったわけじゃない。

 そして生まれながらに自分が異世界転生者だって知っていたわけでもない。

 平民の娘アリエルとしてこの世界の他の住人と同じく自分の人生を普通に生きてきて、ある時突然力の覚醒と一緒に前世も思い出したの。

 因みに聖女は生まれを問われない。
 その力ゆえに聖女は聖女だからだ。
 貴族だろうと平民だろうと奴隷だろうと、存在が露見し教会に入った時点で一切のしがらみは断ち切られる。
 無私の存在となり親族との繋がりもなくなる。その代わり衣食住に何不自由はなく、清潔で安全な環境を約束されるってわけ。
 ただ、大抵が幼くしてその力が発覚し聖女教育に放り込まれる。

 あたしと違って。

 そう、当代の聖女アリエル・ベルが長年空席だった聖女の椅子に座ったのは物心が付きまくって煩悩もたっぷり育った花の十六歳の頃なの。

 この前十七歳になったばかりで、聖女歴は実質まだ一年にも満たないひよっこ聖女。

 だけど、治癒魔法能力は歴代随一なんだって。イェイ!

 そんなあたしだけど、さっき言ったようにある日突然その聖なる力に目覚めた。それまでは一切魔法も使えず何も聖女たる片鱗はなかった。
 あたしみたいな田舎の農家の娘は毎日が忙しく、くたくたになるまで土にまみれて働いていた。
 しかも縁がないというのもあって、名前を知ってはいても若き新国王の顔さえ知らなかった。巷のレディ達、特に都市部では彼の即位と同時に新聞記事や雑誌、ブロマイドが連日当たり前のように出回っていたので彼の顔を知らないなんて到底あり得なかったようだけど。
 あたしの暮らす村でもさすがに新聞はあったけど、その頃は不運にも両親が同時期に怪我と病に臥せってしまったばかりで、まだ幼い弟妹を養うために一人で家のあれこれに専念しないといけなかったから冗談抜きに見る暇がなかったのよね。
 更には、それから一年と両親は二人共本調子じゃなかったからあたしがメインで家の事をしていたのもあって、やっぱり記事を読む余裕なんてなかった。

 とは言え、いくら国王の顔を知る機会がなくとも、また、恋人を作る暇さえもなくてもあたしだって乙女、普通に恋愛願望はあったのよ。

 美男を見れば心がときめく。

 だからある時、生まれて初めて見たとんでもない美男子に一目惚れだってするわ。

 そして、その美男子こそが奇しくも村を訪れていたセオドア陛下だった。

 彼は即位一年を区切りとして地方視察を開始していて、その流れで訪れたという次第だった。村では広場で村人総出で国王一行を出迎え歓待して、だけどそこで野生の熊よりも質が悪い魔物熊が現れたの。鳴き声はベアァーベアァーだったとか。
 野生種と異なり魔物は眼が赤いのですぐにそれとわかる。加えて人を好んで襲う。
 逃げ惑う村人達を背に庇い陛下と彼の護衛達は応戦し、その最中、彼は怪我を負った。
 一人の村の子が意図せずも魔物の近くに寄っちゃって襲われそうになったの。だけどあわやというところで陛下が咄嗟に庇って無事だった。討伐それ自体は陛下と彼の優秀な兵士達のおかげで完了したみたい。

 あたしはちょうど陛下の止血をと皆が騒いでいた所に畑仕事から戻って来たのよね。

 村人総出でとは言ったけど、あたしと弟は遅れたの。
 先に戻っていた弟はあたしを見るなり抱き付いてきて大泣きし始めたから、どこか怪我でもしたのかと慌てたのを覚えている。

 弟はこう言ったわ。魔物からあのお兄ちゃんが助けてくれたって。

 あのお兄ちゃん、と弟が指差したのがまさにセオドア陛下だった。

 ただ、当時まだ国王陛下の顔を知らなかったあたしは恩人を見やって、まあその、大変な状況なのに不謹慎にも恋に落ちたってわけでしたー。

 とは言えうっとり見つめている暇はなく、すぐにも彼を手当てしなければと我に返った。
 村には王都にあるような即効性のある高価な薬はない。教会に属する治癒魔法の使い手もいない。言っておくと、教会の聖職者は聖女レベルとはいかないまでも微力ながら治癒魔法が使えるの。
 案外深い肩の傷から滲む赤と彼の苦しそうな表情に胸が潰される思いのしたあたしは、弟の恩人をどうか治したいと切に願った。

 自分に治す力があったならいいのに、と。

 刹那、辺りに天から光が降り注いだ。

 あたかも一人の人間にスポットライトを当てるみたいに。

 そしてあたしは覚醒した。

 怪我人は陛下以外にもいたけど、あたしが悟ったように両手の指を組んで願うと、あたしを中心に白い光が出現し広い範囲をその柔らかな光で満たした。
 眩しさに閉じてしまった両目を全員が開けた時、何と光を浴びた皆の怪我が快癒していた。偶然範囲内にいたあたしの両親の不調もね。

 聖なる癒しの魔法光は、教会の書物に伝えられている聖女の力そのものだった。

 誰もが信じられない面持ちであたしを見つめ、あたし自身も嘘でしょって信じられない思いで一杯だった――前世を思い出していて。

 この世界が推しのいる小説世界と全く同じなんだって悟って、治癒魔法云々よりもその驚きの方が圧倒的に勝っていた。天にも昇る気持ちよ。

 最っ高ーーーー!!

 直後、あたしは色々とキャパオーバーでぶっ倒れた。三日間目が覚めなかったらしい。





 その後のあたしは、こんな田舎に置いてはおけない逸材だとして王都にお連れされた。畑はすっかり健康になった両親に任せたわ。

 王都入りすると教会に連れて行かれてそこで改めて力の精査をした。その結果、晴れて聖女認定に至ったのでした。大聖堂で聖女就任の儀式もやったりして、まさにトントン拍子であたしは王都に来て正味一月も経たないうちに正式に聖女になった。

 そうして王都で暮らして約一年。今に至るわけだ。
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

元・聖女ですが、旦那様の言動が謎すぎて毎日が試練です

おてんば松尾
恋愛
かつて“奇跡の聖女”と呼ばれたステファニー・シュタインは、光の魔力で人々を癒す使命を背負い、王命によって公爵レイモンドと政略結婚を果たす。だが、奉仕の日々に心はすり減り、愛なき結婚生活はすれ違いの連続だった。 彼女は忘れられた灯台で不思議な灯台守と出会う。彼の魔法によって、ステファニーは聖女としての力と記憶を失うことを選ぶ。過去も夫も忘れた彼女は、まるで別人のように新しい人生を歩み始めるが―― 他サイトで完結している作品を上げます。 よろしければお読みください。

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

誰も信じてくれないので、森の獣達と暮らすことにしました。その結果、国が大変なことになっているようですが、私には関係ありません。

木山楽斗
恋愛
エルドー王国の聖女ミレイナは、予知夢で王国が龍に襲われるという事実を知った。 それを国の人々に伝えるものの、誰にも信じられず、それ所か虚言癖と避難されることになってしまう。 誰にも信じてもらえず、罵倒される。 そんな状況に疲弊した彼女は、国から出て行くことを決意した。 実はミレイナはエルドー王国で生まれ育ったという訳ではなかった。 彼女は、精霊の森という森で生まれ育ったのである。 故郷に戻った彼女は、兄弟のような関係の狼シャルピードと再会した。 彼はミレイナを快く受け入れてくれた。 こうして、彼女はシャルピードを含む森の獣達と平和に暮らすようになった。 そんな彼女の元に、ある時知らせが入ってくる。エルドー王国が、予知夢の通りに龍に襲われていると。 しかし、彼女は王国を助けようという気にはならなかった。 むしろ、散々忠告したのに、何も準備をしていなかった王国への失望が、強まるばかりだったのだ。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。

和泉鷹央
恋愛
 聖女は十年しか生きられない。  この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。  それは期間満了後に始まる約束だったけど――  一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。  二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。  ライラはこの契約を承諾する。  十年後。  あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。  そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。  こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。  そう思い、ライラは聖女をやめることにした。  他の投稿サイトでも掲載しています。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。