星から落ちた王子さま

梅川 ノン

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1部

18話 星の国の王太子

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 ここはセティたち地上の国の人たちが見上げる星の国。
 地上にはケトメ王国以外にも多くの国が存在するが、この星は一つの国で成り立っている。
 外敵が無いため平和ではあるが、その分噂好きで、内輪もめも様々にある。

 当代の王は、クロノス。先代の王の嫡子として順当に王位を継いだ。
 妃には従姉妹を迎えた。正室は異母妹、従姉妹など王族から迎えるのが不文律であった。

 若き国王クロノスと王妃レイアに望まれたのは、当然のように世継ぎの誕生だった。
 王妃から生まれる子は、誉れの御子と言われ、重んじられた。同じ王となるにしても、父が王太子や王子の立場の時に生まれるよりも、王と王妃の子として生まれた事実は大きいのだ。
 誉れの御子の国王時代は栄える――伝説ではなく、事実であった。
 国王王妃のお子として生まれる王子は誉れの御子。皆が、期待した。

 王妃の懐妊が分かると、星中が喜びに沸き、皆、王子を待ち望み、準備が進められた。

 喜びと活気に満ちた中、自身も身籠り子の誕生を心待ちにしていたクレティスは、突然の夫の死に呆然としていた。夫は生来あまり丈夫でなかったが、それにしても急な病で、あっという間の出来事であった。
 亡夫は実直な官吏で、贅沢は出来ないが堅実な生活を送っていた。それが急に身重の身で一人になった。子供を一人で育てられるだろうか……不安はあるが、しっかりせねばと自分を奮い立たせた。先ずは、子を無事に産まなければならない。
 クレティスは、無事に元気な男の子を出産し、ヘパイストスと名付ける。
 夫の生まれ変わりのようでいて、亡き夫よりも元気な子。乳もこくこくと飲み、泣き声も元気だった。

 王妃が産み月に入り、最も大事な選考とされた、乳母が決められた。
 クレティスが選ばれたのだ。赤子を産んだばかりで、乳の出が良い、それが決め手になった。
 余りの栄誉にクレティスは涙を流して感激した。そして、生活の心配がなくなったことにも感謝した。
 クレティスは生まれてくる御子に生涯かけて仕えることを心に誓った。
 いよいよ王妃の陣痛が始まり、王妃の産室である誉れの産室に入った。ここは王妃専用の産室、故に誉れの産室と言われた。ここで産まれるのが誉れの御子だ。
 クレティスは産室で御子の誕生を待った。産まれたら直ちに産湯を使わせ、初めての乳も与えるために……。

 御子が産まれた。元気な産声。待ち望み、期待通り、元気な男の御子だ。
 感激の中、クレティスは慎重に産湯を使わした。王子様だ! 改めて一生涯の忠誠を誓うのだった。
 
 すぐさま国王クロノスは赤子と対面した。
「レイアでかした! 我が世継ぎの王子! ハーデスと名付けよう! ハーデス王太子であるぞ」

 生まれながらの王太子の誕生に、星中が喜びに沸いた。

 ハーデスは、ヘパイストスとクレティスの乳を分け合うようにして育った。主従ではあるが、双子のように成長する。ハーデスの傍らには常にヘパイストスがいる。その絆は深く、強い。
 だからだろうか、二人の間に言葉はなくとも、そして物理的距離があっても、気で会話が出来た。意思の疎通が容易にできたのだった。
 それはハーデスにとって、心強いことであり、ヘパイストスにとっては、何よりの誇りであった。
 
 ハーデスには、一歳下にウラノスという異母弟がいる。ウラノスは、国王が手を付けた下働きのオメガを母にして生まれた。
 下働きの出のため正式な側室とは認められず、単に国王が手を付けた妾の扱いだった。そのためウラノスは王子とは認められていない。誉れの御子の王太子であるハーデスとでは、その待遇に雲泥の差があり、彼はそれが常に不満であった。
 その不満は自身の母親にも向かい、疎んじるばかりであった。それを、ハーデスが度々指摘し、改めるように言ったが、全く聞く耳を持たなかった。ゆえにハーデスはウラノスの母を哀れみ、心遣いをしたが、それもウラノスには気に障ることであった。

 ハーデスが二歳の時にエキドナ王女、そして三歳の時にヘスティア王女が誕生した。
 エキドの母は、王妃の異母妹で正式な側室であるため、エキドナは王女と遇された。
 しかし、ハーデスと同じで母が王妃のため誉れの御子であるヘスティアとは、やはり扱いが大きく違った。エキドナにはそれが常に不満であったが、彼女には大いなる野望があった。
 ハーデスの妃になる事である。
 星の国では、同母の妹を妃にすることは出来ないが、異母なら良かった。むしろ、王家の血を尊び、異母妹を妃にすることは珍しくなかった。
 今はヘスティアと厳然たる差があるが、王太子妃、ひいては王妃になれば、その立場は逆転する。
 エキドナの母もそれを強く望んでいる。正室腹の姉は王妃。自分は側室腹ゆえに、やはり側室。それは仕方ないとはいえ、忸怩たる思いは常にあった。
 それが、娘が王妃になれば姉だけでなく、自分の血も王家に残る。ならば、満足できる……そう思ったのだ。

 ハーデスにとって、三人いる弟妹の中で、親しく思うのはやはり同母妹であるヘスティア。
 他の二人は、それぞれの母の元で生活しているため、会うのは時折。それでだけではなく、二人とは気質的に合うことが無かった。抱えている不満、野望、そして狡猾さも見え隠れする。そういったところに、ハーデスには親しめないのだった。

 ヘスティアとは、母の王妃の宮で仲良く育った。三歳年下の妹をハーデスは可愛がったし、ヘスティアもよく懐いた。
 幼い頃は、ハーデスをにーにと呼び、それがお兄ちゃまになり、今はお兄さまと呼んでいる。
 仲の良い兄と妹に憂い事はない。あるのは夢だけだった。

 ハーデスは、今年二十歳になった。十七歳の時に成人の儀も終えた。その頃から、星の国の関心事はハーデスのお妃だった。
 王太子妃に迎えられるのは誰か? 皆の関心は、その一点であった。
 誉れの王太子が妃を迎え、そして世継ぎを儲けて欲しい。それが、国中の願いであった。
 その中で、ハーデスが妃を迎えたら、王が退位するとの見方もあった。
 ハーデスが即位して王になれば、生まれてくる子は、誉れの御子になるからだ。二代続けて誉れの御子が王太子になる。だが、それはハーデスにとっては父王への不敬だった。その為に父の退位があってはならない。
 ハーデスは、父に国王のまま生涯を全うして欲しいと思っている。子供が誉れの御子であるかは拘らない。それよりも拘るのは、妃に迎える人の事。ハーデスの心の中では、強い思いがあった。
 絶対に譲れない、強い思い。
 皆、ハーデスの胸中を様々に噂した。多くの候補がささやかれ、エキドナも有力な候補であった。

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