星から落ちた王子さま

梅川 ノン

文字の大きさ
19 / 49
1部

19話 運命の人を求めて

しおりを挟む
「お兄さま、また重臣達がお兄さまのお妃問題を話題にしたそうですわよ」
「全く、困ったものだ。わたしの妃は自分で決める。押し付けられるのは絶対に願い下げだ」
「そうですわよね。わたくしも自分のお相手は自分で決めたいですわ」
 ハーデスとヘスティアの兄妹はとてもよく気が合った。結婚観も同じであった。
 王族の結婚に自由は原則ない。様々な制約があり、慣習がある。それに沿った相手は自ずと限られ、その限られた相手から選ぶ、ほんの少しの自由だった。
 ハーデスの場合、特に相手は王太子妃になり、将来の王妃。その候補ともなれば僅かになる。ハーデス自身、その者たちの名前、そして顔も知っている。
 だが、その中に意中の人はいない。否、意中の人は今のところどこにもいなかった。

「お兄さま、心に決めたお方はまだですの?」
「ああ……残念ながらね」
「でも……どこかに必ずいらっしゃいますわよ」
「ああ、わたしもそう思っている。わたしの運命の人は必ずいる。どこにいるのかさえ分からないが、一つ分かっていることはある」
 一つ分かっていること、その兄の言葉にヘスティアの目が輝く。
「分かっていること! なんですの?」
「オメガだよ」
「オ、オメガ……」
 ヘスティアには、兄の言葉が意外で目を見開いて兄を見る。
 オメガは蔑まれ、卑しまれた。ために、上層部は無論のこと、王宮に仕える者にもオメガはいない。発情期が嫌われるためだ。
 オメガは、その発情期のために、アルファの性の欲望を解消するための存在とされたので、オメガを番にして囲うアルファ珍しくない。国王もその一人であった。
 通常、オメガは側室とも認められず、一段低い妾の扱いであった。その子供の扱いも低い。ウラノスが、自分の扱いの低さをひがみ、母を疎んじるのもそこに訳はあった。
 兄の運命の人がオメガ……ヘスティアには信じがたいことだ。兄の運命の人、それは将来の王妃。星の国の国母となる人がオメガ……。

「お兄さま、オメガって……どっ、どうして……」
 理解の追いつかないヘスティアは、兄にその視線で説明を促す。
「少なくないアルファがオメガと番うだろ。それは、単に性の解消のためが多いけど、運命の結びつきが時折存在するんだよ。それこそ、アルファの運命の人だよ」
「運命の人……?」
「そうだよ、運命の番って言うのかな……通常の番よりも強固な絆で結ばれる。ただし、その相手が存在するのは稀だし、存在しても出会えるかは分からない。つまり、とても希少な存在なんだよ」
「運命の人……何かしら、とても素敵な存在なのね……わたくしにも運命の相手いるのかしら?」
「それはわたしには分からない。運命の相手が存在する人の方が少ないからね。そして、それを自分で感じて確信したら、自分で探さないといけない」
「お兄さまは、ご自分の運命の相手が存在すると確信なさっているの?」
「そうだよ、わたしには存在すると確信している。その人を見つけたい。何としてでも探し出したい」
 ヘスティアには、兄の話す運命の存在に、凄くロマンティックな響きを感じる。とても素敵だ。兄の運命の相手とはどんな人なんだろう……。素敵な人に違いない。
「お兄さまの運命の方、どんな方かしら……とても素敵な方なんでしょうね」
「ああ、わたしもそう思っている。早く見つけたい」
「何か手がかりはありますの?」
「今は全くない。ただ、星の国ではないような気がしている。確信は持てないが」
「それは……もし地の国でしたら、見つけるのはとても困難ですわね」
「ああ、だからこそ運命なのではとも感じるんだよ」
 そうなのか……そうであればなおさら、兄には運命の相手と出会って欲しいし、自分も出会いたい。
 ヘスティアは、夢心地のうっとりした表情になる。その妹の表情を見て、ハーデスは微笑ましい思いを抱くも、まだ幼いなあと思う。
 実際、運命の相手を見つけても、当然相手はオメガ。オメガを番にするのは簡単だ。どのアルファもしている。現に父国王にもオメガの番はいる。
 だが、妃にすることは大変な困難が伴う。前例が全くないからだ。確実に猛反対が起こるのは火を見るよりも明らかだ。
 しかし、それで諦めるわけにはいかない。絶対に自分は、運命の相手を見つけ出し、そして番にし、王太子妃将来の王妃にする。それでこそ運命の相手だからだ。
 それが、己の幸せになり、この星の国も栄えることに繋がる。そう、ハーデスは確信している。どんな大きな障壁でも乗り越えて見せよう。

 ハーデスは王宮を出て、森を散策しながら物思いにふける。とても良い天気で、爽やかな風が心地良い。
 我が運命の相手はどこにいるのだろう……これだけ何も感じないのは、この星にはいないのか?

 その時、きらりと光り輝くものが見えた。あれは? あの光の輝きは? その光に向かって歩み寄る。
 運命の光だ! あれこそわたしの、わたしの運命の輝きだ!
 しかし、その輝きは遥かに遠い、手は届かない――。漸く見つけた運命にあきらめるわけにはいかない。どうにかして掴みたい。
 必死に手を伸ばしたハーデス――「あっ! あーっ――」
 叫びと共に地へと落ちていくハーデス――側近のヘパイストスが気付いて駆け付けた時には、その姿は消えていた。

「ハーデス殿下! ハーデス殿下!」
 ヘパイストスは必死にハーデスの姿を探すが見つからない。何処に行かれたのか?
 すぐさま大々的に王太子の捜索がなされたが、杳として分からない。星の国の王太子が忽然と消えることなど、今まであっただろうか?
 様々な噂が飛び交った。
 その中で、ヘスティアが「お兄さまは、ひょっとしたら地の国へ行かれたかも」とつぶやいた。それが耳に入ったヘパイストスは、そうだ! うかつだったと思った。
 ハーデスが、運命の人を求め、ひょっとしたらその人は地の国の人かもしれないと考えていたことを知っていたのを思い出したのだ。
 ハーデスの失踪が、余りに突然で、しかも気も通じないことに動転していて、思い至らなかった。
 そうか、こんなに急に消えたのはそれだ! ヘパイストスは直ぐに地の国へとやって来た。
 この時、早急にハーデスを見つけて、星の国へと連れ帰らねばならない切迫した事情が起きていたのだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

塔の上のカミーユ~幽囚の王子は亜人の国で愛される~【本編完結】

蕾白
BL
国境近くにあるその白い石の塔には一人の美しい姫君が幽閉されている。 けれど、幽閉されていたのはある事情から王女として育てられたカミーユ王子だった。彼は父王の罪によって十三年間を塔の中で過ごしてきた。 そんな彼の前に一人の男、冒険者のアレクが現れる。 自分の世界を変えてくれるアレクにカミーユは心惹かれていくけれど、彼の不安定な立場を危うくする事態が近づいてきていた……というお話になります。 2024/4/22 完結しました。ありがとうございました。 

ヒメ様が賊にさらわれました!

はやしかわともえ
BL
BLです。 11月のBL大賞用の作品です。 10/31に全話公開予定です。 宜しくお願いします。

目撃者、モブ

みけねこ
BL
平凡で生きてきた一般人主人公、ところがある日学園の催し物で事件が起き……⁈

りんご成金のご令息

けい
BL
 ノアには前世の記憶はあったがあまり役には立っていなかった。そもそもあまりにもあいまい過ぎた。魔力も身体能力も平凡で何か才能があるわけでもない。幸いにも裕福な商家の末っ子に生まれた彼は、真面目に学んで身を立てようとコツコツと勉強する。おかげで王都の学園で教育を受けられるようになったが、在学中に両親と兄が死に、店も乗っ取られ、残された姉と彼女の息子を育てるために学園を出て冒険者として生きていくことになる。  それから二年がたち、冒険者としていろいろあった後、ノアは学園の寮で同室だった同級生、ロイと再会する。彼が手を貸してくれたおかげで、生活に余裕が出て、目標に向けて頑張る時間もとれて、このまま姉と甥っ子と静かに暮らしていければいいと思っていたところ、姉が再婚して家を出て、ノアは一人になってしまう。新しい住処を探そうとするノアに、ロイは同居を持ち掛ける。ロイ×ノア。ふんわりした異世界転生もの。 他サイトにも投稿しています。

貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~

倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」 大陸を2つに分けた戦争は終結した。 終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。 一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。 互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。 純愛のお話です。 主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。 全3話完結。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

愛しの妻は黒の魔王!?

ごいち
BL
「グレウスよ、我が弟を妻として娶るがいい」 ――ある日、平民出身の近衛騎士グレウスは皇帝に呼び出されて、皇弟オルガを妻とするよう命じられる。 皇弟オルガはゾッとするような美貌の持ち主で、貴族の間では『黒の魔王』と怖れられている人物だ。 身分違いの政略結婚に絶望したグレウスだが、いざ結婚してみるとオルガは見事なデレ寄りのツンデレで、しかもその正体は…。 魔法の国アスファロスで、熊のようなマッチョ騎士とツンデレな『魔王』がイチャイチャしたり無双したりするお話です。 表紙は豚子さん(https://twitter.com/M_buibui)に描いていただきました。ありがとうございます! 11/28番外編2本と、終話『なべて世は事もなし』に挿絵をいただいております! ありがとうございます!

【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる

ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。 ・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。 ・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。 ・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。

処理中です...