星から落ちた王子さま

梅川 ノン

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2部

3話 ハーデス即位

 ハーデスは直ちに即位し星の国の国王になった。
 
 新国王の最初の仕事は、父である亡き前国王の葬送の儀式である。
 ハーデスは悲しみを抑え、滞りなく儀式を執り行い、残るは崩御から一年後に行う埋葬の儀式だけとなった。

 父の葬送を厳かに終え、幾分安堵したのも束の間、俎上に上がったのは、ウラノスの処遇である。
 王になる目前の王太子の命を狙ったのは、紛れもなく反逆罪。身分に関係なく、処刑が決まりである。
 ただ、ハーデスにとっては兄弟として親しんだわけではないが、亡き父の血を引く弟。処刑することはためらわれた。自分が失踪していた負い目もある。命だけは許してやりたい。
 ハーデスの意向を知った重臣たちもそれぞれ意見が分かれたが、最終的には終身牢獄暮らしで決定した。

 懸案事項が解決すれば、次は当然のごとくハーデスの妃問題であった。今や、ハーデスは国王である。国王にはやはり王妃がいなければならない。国王を支え、国民の母ともなる王妃がいつまでも不在ではいけない。
 一年後、亡き前国王の埋葬の儀式が終われば、華やかに即位の式典が執り行われる。その時には、必ずや王の隣には王妃がいなければならない。それは、全ての者の共通認識ではあった。

「ウラノスの処遇が決まれば、いよいよお妃問題。そなた、心構えは出来ていますか?」
 前王の側室、エキドナの母が娘に聞くと、エキドナは当然とばかりに頷いた。
「もちろんですわ、お母さま。できれば、お兄さまが王太子の間に妃となり、即位を見守りたかったですが、即位の式典は王妃として迎えたいと思っていますの」
「式典の前までには、必ず王妃を迎えると、王太后陛下も仰っておられた。そなたを王妃にするのはわたくしの長年の悲願。これからがまさに正念場。そなたも心してかからねばならない。よいな」
 エキドナが王妃になるのは、母の長年の願い。異母姉は王妃なのに自分は側室。王妃の子は誉れの御子なのに、自分の子はただの王女。それに長年臍を嚙む思いでいたのだ。
 その無念を晴らすには、自分の子エキドナが王妃になるしかない。エキドナが王妃になれば、自分の孫が王になる。無論、それは姉の孫でもあるが、それでも良かった。
 エキドナはエキドナで、母の長年の無念は、自分の無念でもあった。同じ王女でありながら、王妃の子ヘスティアとの差は歴然としていた。ヘスティアを追い越し、見返すには王妃になるしかない。王妃になれば女性で自分に並ぶものは王太后しかいない。王太后はいずれ身罷る。そうなれば、自分が一番になる。
「お母さま、王太后さまのご意向は大丈夫ですの?」
「大丈夫じゃ、姉上も妃はそなたが良いとお考えじゃ。ご自身の姪だからな。よいか、姉上のお気に召すように振る舞うのじゃぞ」
 ハーデスの妃問題に、母である王太后の意向は大きくものを言う。ゆえに、この母子は細心の注意を払っているのだった。

「お兄さま、ヘパイストスに聞きましたわ。とてもおきれいな方だと」
 ヘスティアの言葉に、ハーデスは微笑む。
「そうだよ、そしてとても優しい方だ」
「ええ、その方のおかげでお兄さまの命は助かったと……やはり運命のお方なのですね」
「ああ、そう思っている」
「では、お妃さまはそのお方を?」
「勿論だよ」
 ヘスティアもかっては、運命の相手と結ばれお妃に迎えるとは、なんと素敵なことと単純に思っていた。しかし、ここ最近の宮中の動きを見ていると、ことはそう単純には運ばないと分かってきた。
 その中で、ヘスティアは断然兄の味方だ。星から落ちてまで求めた人なのだ、必ずやその思いを成就させて欲しいと思っている。
「お母さまがエキドナを推してらっしゃるのよ」
「母上が……」
 それは、ハーデスにも分かった。前々からそういう動きはあった。しかし、エキドナは妃の器ではないと、やんわりではあるが言ってきたのだが……。母には伝わっていなかった。
 ハーデスはエキドナの人となりを見抜いていた。自分には媚びるが、下の者には冷たい人柄。到底国母になる人格ではない。母は見抜けぬのだなあと、残念に思う。
 しかし、王太后である母が具体的に動き始めると厄介だとは思う。
「母上にあまり動かれると困るな……」
「わたくしもそう思いますわ。今はまだ小さな動きですから、今のうちにお母さまには話しておかれたほうがよろしいかと」

 実際、エキドナには人望が無く、強力に推しているのは王太后だけではあった。しかし、王妃待望論から、いつそれが大勢になるかしれない。
 ハーデスは早速に、母へセティのことを打ち明けることにする。先ずは母にセティのことを認めてもらわねばならない。

「なんと、地の国の王子!?」
「はい、そうでございます」
「おっ、王子では……子を産めないではないか!?」
「いえ、オメガですから大丈夫でございます」
「おっ、オメガ!?」
 母である王太后には二重の驚きである。まさに驚愕といってよい。妃を、地の国から、しかもオメガなど冗談じゃない!
「卑しい国のオメガの王子を王妃になど、とても許せぬ」
「卑しい国ではありません。温暖で肥沃な土地柄。人々も穏やかな性質の素敵な国でございます。その国のセティは正嫡の王子なのです」
「そなたが気にいったのなら、妾として迎えればよかろう。前の陛下にもオメガの妾はいた」
「正嫡の王子を妾になど、とんでもございません。それにわたくしの正妃は、セティより他は考えられません」
 ハーデスの断固とした物言いに王太后は息をのむ。そして忌々しい気持ちになる。正嫡の王子だが知らんけど、大事な息子をたぶらかしおってと……。
 それだからオメガはいけない。そのフェロモンでアルファをたぶらかす。それを求めるのはいいが、密かにしなければならない。オメガは、密かに妾として囲うもの。
 前の陛下もそうだった。公然の事実ではあったが離宮で密かに囲っていた。オメガの妾に公の立場はない。側室にもなれないのだった。
 そもそもオメガが、正嫡の王子!? 何故、オメガを王子と認める? 卑しい国だからか!?
 王太后には、何もかもが理解できないし、到底受け入れることはできない。

 何を言っても全く話が通じない。むしろ、ハーデスが何かを言うたびに、母の反論にあう。
 母の頑な態度に、ハーデスは暗雲とする。自分の見通しの甘さを認めないわけにはいかない。
 どうすれば分かってもらえるのだろうか……。

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