星から落ちた王子さま

梅川 ノン

文字の大きさ
26 / 49
2部

3話 ハーデス即位

しおりを挟む
 ハーデスは直ちに即位し星の国の国王になった。
 
 新国王の最初の仕事は、父である亡き前国王の葬送の儀式である。
 ハーデスは悲しみを抑え、滞りなく儀式を執り行い、残るは崩御から一年後に行う埋葬の儀式だけとなった。

 父の葬送を厳かに終え、幾分安堵したのも束の間、俎上に上がったのは、ウラノスの処遇である。
 王になる目前の王太子の命を狙ったのは、紛れもなく反逆罪。身分に関係なく、処刑が決まりである。
 ただ、ハーデスにとっては兄弟として親しんだわけではないが、亡き父の血を引く弟。処刑することはためらわれた。自分が失踪していた負い目もある。命だけは許してやりたい。
 ハーデスの意向を知った重臣たちもそれぞれ意見が分かれたが、最終的には終身牢獄暮らしで決定した。

 懸案事項が解決すれば、次は当然のごとくハーデスの妃問題であった。今や、ハーデスは国王である。国王にはやはり王妃がいなければならない。国王を支え、国民の母ともなる王妃がいつまでも不在ではいけない。
 一年後、亡き前国王の埋葬の儀式が終われば、華やかに即位の式典が執り行われる。その時には、必ずや王の隣には王妃がいなければならない。それは、全ての者の共通認識ではあった。

「ウラノスの処遇が決まれば、いよいよお妃問題。そなた、心構えは出来ていますか?」
 前王の側室、エキドナの母が娘に聞くと、エキドナは当然とばかりに頷いた。
「もちろんですわ、お母さま。できれば、お兄さまが王太子の間に妃となり、即位を見守りたかったですが、即位の式典は王妃として迎えたいと思っていますの」
「式典の前までには、必ず王妃を迎えると、王太后陛下も仰っておられた。そなたを王妃にするのはわたくしの長年の悲願。これからがまさに正念場。そなたも心してかからねばならない。よいな」
 エキドナが王妃になるのは、母の長年の願い。異母姉は王妃なのに自分は側室。王妃の子は誉れの御子なのに、自分の子はただの王女。それに長年臍を嚙む思いでいたのだ。
 その無念を晴らすには、自分の子エキドナが王妃になるしかない。エキドナが王妃になれば、自分の孫が王になる。無論、それは姉の孫でもあるが、それでも良かった。
 エキドナはエキドナで、母の長年の無念は、自分の無念でもあった。同じ王女でありながら、王妃の子ヘスティアとの差は歴然としていた。ヘスティアを追い越し、見返すには王妃になるしかない。王妃になれば女性で自分に並ぶものは王太后しかいない。王太后はいずれ身罷る。そうなれば、自分が一番になる。
「お母さま、王太后さまのご意向は大丈夫ですの?」
「大丈夫じゃ、姉上も妃はそなたが良いとお考えじゃ。ご自身の姪だからな。よいか、姉上のお気に召すように振る舞うのじゃぞ」
 ハーデスの妃問題に、母である王太后の意向は大きくものを言う。ゆえに、この母子は細心の注意を払っているのだった。

「お兄さま、ヘパイストスに聞きましたわ。とてもおきれいな方だと」
 ヘスティアの言葉に、ハーデスは微笑む。
「そうだよ、そしてとても優しい方だ」
「ええ、その方のおかげでお兄さまの命は助かったと……やはり運命のお方なのですね」
「ああ、そう思っている」
「では、お妃さまはそのお方を?」
「勿論だよ」
 ヘスティアもかっては、運命の相手と結ばれお妃に迎えるとは、なんと素敵なことと単純に思っていた。しかし、ここ最近の宮中の動きを見ていると、ことはそう単純には運ばないと分かってきた。
 その中で、ヘスティアは断然兄の味方だ。星から落ちてまで求めた人なのだ、必ずやその思いを成就させて欲しいと思っている。
「お母さまがエキドナを推してらっしゃるのよ」
「母上が……」
 それは、ハーデスにも分かった。前々からそういう動きはあった。しかし、エキドナは妃の器ではないと、やんわりではあるが言ってきたのだが……。母には伝わっていなかった。
 ハーデスはエキドナの人となりを見抜いていた。自分には媚びるが、下の者には冷たい人柄。到底国母になる人格ではない。母は見抜けぬのだなあと、残念に思う。
 しかし、王太后である母が具体的に動き始めると厄介だとは思う。
「母上にあまり動かれると困るな……」
「わたくしもそう思いますわ。今はまだ小さな動きですから、今のうちにお母さまには話しておかれたほうがよろしいかと」

 実際、エキドナには人望が無く、強力に推しているのは王太后だけではあった。しかし、王妃待望論から、いつそれが大勢になるかしれない。
 ハーデスは早速に、母へセティのことを打ち明けることにする。先ずは母にセティのことを認めてもらわねばならない。

「なんと、地の国の王子!?」
「はい、そうでございます」
「おっ、王子では……子を産めないではないか!?」
「いえ、オメガですから大丈夫でございます」
「おっ、オメガ!?」
 母である王太后には二重の驚きである。まさに驚愕といってよい。妃を、地の国から、しかもオメガなど冗談じゃない!
「卑しい国のオメガの王子を王妃になど、とても許せぬ」
「卑しい国ではありません。温暖で肥沃な土地柄。人々も穏やかな性質の素敵な国でございます。その国のセティは正嫡の王子なのです」
「そなたが気にいったのなら、妾として迎えればよかろう。前の陛下にもオメガの妾はいた」
「正嫡の王子を妾になど、とんでもございません。それにわたくしの正妃は、セティより他は考えられません」
 ハーデスの断固とした物言いに王太后は息をのむ。そして忌々しい気持ちになる。正嫡の王子だが知らんけど、大事な息子をたぶらかしおってと……。
 それだからオメガはいけない。そのフェロモンでアルファをたぶらかす。それを求めるのはいいが、密かにしなければならない。オメガは、密かに妾として囲うもの。
 前の陛下もそうだった。公然の事実ではあったが離宮で密かに囲っていた。オメガの妾に公の立場はない。側室にもなれないのだった。
 そもそもオメガが、正嫡の王子!? 何故、オメガを王子と認める? 卑しい国だからか!?
 王太后には、何もかもが理解できないし、到底受け入れることはできない。

 何を言っても全く話が通じない。むしろ、ハーデスが何かを言うたびに、母の反論にあう。
 母の頑な態度に、ハーデスは暗雲とする。自分の見通しの甘さを認めないわけにはいかない。
 どうすれば分かってもらえるのだろうか……。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

塔の上のカミーユ~幽囚の王子は亜人の国で愛される~【本編完結】

蕾白
BL
国境近くにあるその白い石の塔には一人の美しい姫君が幽閉されている。 けれど、幽閉されていたのはある事情から王女として育てられたカミーユ王子だった。彼は父王の罪によって十三年間を塔の中で過ごしてきた。 そんな彼の前に一人の男、冒険者のアレクが現れる。 自分の世界を変えてくれるアレクにカミーユは心惹かれていくけれど、彼の不安定な立場を危うくする事態が近づいてきていた……というお話になります。 2024/4/22 完結しました。ありがとうございました。 

ヒメ様が賊にさらわれました!

はやしかわともえ
BL
BLです。 11月のBL大賞用の作品です。 10/31に全話公開予定です。 宜しくお願いします。

目撃者、モブ

みけねこ
BL
平凡で生きてきた一般人主人公、ところがある日学園の催し物で事件が起き……⁈

りんご成金のご令息

けい
BL
 ノアには前世の記憶はあったがあまり役には立っていなかった。そもそもあまりにもあいまい過ぎた。魔力も身体能力も平凡で何か才能があるわけでもない。幸いにも裕福な商家の末っ子に生まれた彼は、真面目に学んで身を立てようとコツコツと勉強する。おかげで王都の学園で教育を受けられるようになったが、在学中に両親と兄が死に、店も乗っ取られ、残された姉と彼女の息子を育てるために学園を出て冒険者として生きていくことになる。  それから二年がたち、冒険者としていろいろあった後、ノアは学園の寮で同室だった同級生、ロイと再会する。彼が手を貸してくれたおかげで、生活に余裕が出て、目標に向けて頑張る時間もとれて、このまま姉と甥っ子と静かに暮らしていければいいと思っていたところ、姉が再婚して家を出て、ノアは一人になってしまう。新しい住処を探そうとするノアに、ロイは同居を持ち掛ける。ロイ×ノア。ふんわりした異世界転生もの。 他サイトにも投稿しています。

貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~

倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」 大陸を2つに分けた戦争は終結した。 終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。 一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。 互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。 純愛のお話です。 主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。 全3話完結。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

愛しの妻は黒の魔王!?

ごいち
BL
「グレウスよ、我が弟を妻として娶るがいい」 ――ある日、平民出身の近衛騎士グレウスは皇帝に呼び出されて、皇弟オルガを妻とするよう命じられる。 皇弟オルガはゾッとするような美貌の持ち主で、貴族の間では『黒の魔王』と怖れられている人物だ。 身分違いの政略結婚に絶望したグレウスだが、いざ結婚してみるとオルガは見事なデレ寄りのツンデレで、しかもその正体は…。 魔法の国アスファロスで、熊のようなマッチョ騎士とツンデレな『魔王』がイチャイチャしたり無双したりするお話です。 表紙は豚子さん(https://twitter.com/M_buibui)に描いていただきました。ありがとうございます! 11/28番外編2本と、終話『なべて世は事もなし』に挿絵をいただいております! ありがとうございます!

【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる

ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。 ・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。 ・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。 ・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。

処理中です...