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3部
4話 王子として
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父の諭しを重く受け止めたセティは、兄のウシルスに会うため、太子の宮へ行く。
「兄上……」
兄の穏やかな顔を見て、自分の情けなさに、セティは言葉に詰まる。
「どうしたのじゃ、セティ」
「すみません……王子として情けなくて……もっと、しゃんとしなければならないのに……」
「セティが情けないなどと思うことはない。泣いて良いのだ。王子とて泣きたい時はあるだろう。しかし、人がいる時はいけない。わたしだけの時は良い。いくらでも泣いて良いのだ」
兄の言葉にセティは、少しの涙を零した。しかし、長くは泣かない。それは、やはり情けないと思うから。
「兄上、メンフィスへ同行したように、これからもわたくしがご一緒できる所へは、連れていってくださいますか?」
「ああ、勿論だ。セティにとっても学びが多かろうからな」
「はい、父上にもそう言われました。兄上のもとで王子としての様々を学びたいと思います。到底兄上の助けにはなりますまいが……」
「そんなことはないぞ。セティの存在自体が、この兄のためになっている。メンフィスでも、わたしが一人で行く時より歓迎された。そなたには、人を魅了する力を持っている。これは天賦の才だ」
これは事実。この才能でセティは、生まれた時から周囲の者たちを魅了してきた。天から与えられた才能だった。
オメガとい性を補って余りある才能といえた。
この時から、ウシルスの視察にはセティが同行するようになる。
どこへ行っても、歓迎された。大歓迎と言ってよい熱狂で迎えられた。
ウシルス一人だけの時も、若き王太子の視察は歓迎されたが、それをはるかに超えた歓迎ぶりだった。それはどこへ行っても同じなのだ。
「セティ様への歓迎ぶりは、大したものでございますな。行く先々で、皆を魅了されて熱狂しております」
「そうだ。正に妃に相応しいと思わぬか」
「ええ、ケトメ王国の! です」
メニ候は、ケトメ王国のを、強調する。そう、相応しいのは星の国の妃ではない、ケトメ王国の妃だからとの思い。
思わぬ状況で、セティが星の国へ招待されたが、今はもうそれに触れる者はいない。半ばなかった扱いだ。
つまり、ハーデスの思いは本気でも、セティを正妃として迎えることはない。それが、ある意味ケトメ王国の公式見解ではある。
そしてここまで、ことは二人の思惑通り進んでいる。
国王の諭しもあり、ウシルスの視察へは、セティが同行するようになる。最近では、ウシルスの傍らにセティが控えているのは当たり前の光景になっている。どころか、視察だけではなく、王宮での催しでも、常にセティはウシルスの傍らにいる。まるで、妃のように――。
これこそが、王太子ウシルスとメニ候、この主従二人の狙い通りなのだ。
ウシルスとセティ。二人が揃っていることが、自然である事。今は、兄弟としてだが、将来は――。
セティに対する呼びかけだけが変わる。そのように、自然に受け入れられることを望んでいる。
ウシルスのセティへの思いは弟に対するものを超えている。
それがいつからなのかは記憶にない。いつからか、己の妃はセティと決めていた。ゆえに、数多の妃候補を、全く相手にしてこなかった。
立太子する頃より、今に至るまで、お妃待望論は根強い。それは、実際に妃を迎えるまでやむことはないだろう。王太子が妃を迎え、世継ぎを儲けることは責務なのだ。一番重要な責任ではある。
だからなおさらウシルスは思っている。相手はセティだと。
ただし、それには大きな障壁がある。セティが同母の弟である事実。
同母。弟。
どちらも前例にない。
異母の姉妹を王妃にすることは珍しくない。むしろ、側室腹とはいえ、王女が王妃になるのは歓迎される。しかし、同母の姉妹は禁忌とされた。
しかし、それ以上に大きな障壁。それは弟だろう。
弟は無論、男が王妃になったことも皆無。
男は子を産めない。産めるのはオメガだけだからだ。
オメガは日陰の存在。公に存在が認められているのはセティただ一人。未だに、そうだった。
セティはオメガであるが、その存在は誰もが認めている。その魅力に、皆が魅せられている。
ならば良いではないか。オメガが妃になっても。オメガは子を産める。王妃としての責任も果たせる。
「前例は作ればよろしいのですよ」
「そなたらしい言葉だな」
「全ての前例に、最初の例がございます。一番最初は、前例無きことにございましょう。ただし、そのためのお膳立てが重要ではございますが」
「確かにそうだ。わたしが前例を作るのだな」
「はい。その機は熟しつつあります」
そう、外堀は埋めた。残るは内堀――くらいには進んでいる。あと少しではある。
セティは、王子として充実はしていた。
行く先々で歓迎されるのは嬉しいし、知らない土地で見聞すること全てが珍しく、そして楽しい。
同時に兄の仕事ぶりの重要度もうかがい知れて、王子と言うよりは、王太子の大変さも分かってきた。兄への尊敬は確実に増した。
自分には、王子は務まっても、王太子は無理だとおもうから。
王子として充実してはいたが、ハーデスを忘れたわけではない。むしろ、その思いは増している。
指に光る贈られた指輪。そして、夜になると、見上げる星。
その二つの光と輝きで、日々愛しい人ハーデスを思った。
会いたい、会いたい、会いたい……。
なぜ、なぜ、なぜ愛しいお方は、あんなに遠くにいるの……。
ハーデスへの不信は全くない。セティは、心から信じている。
ハーデスは必ず、セティに求婚し、星の国の妃として迎えてくれると。あの日、星の国で誓ったことに、噓偽りはないと。
そのためにも、今は王子として、その責任を果たすことが大切なこと。それは、いずれ愛する人の妃になった時にも、役立つと思うから。
ハーデスの妃として、国王であるハーデスを助けられるようにはなりたい。ただ、お飾りの妃では情けない。
そうではないと、星の国でケトメ王国が馬鹿にされる。そうなれば、ケトメ王国の王子として悲しいし、何よりここまで育んでくれた、祖国に申し訳ない。
ケトメ王国は、セティにとって誇るべき祖国だった。
各地へ視察に行くと、この国の素晴らしさがよく分かった。肥沃で、温暖。人々の気質も穏やかで、優しい。この国の王子として生まれた幸せに心から感謝した。
セティはそんな心境で、穏やかに日々を過ごしていた。
当然、兄ウシルスの思惑には全く気付いていない。
「兄上……」
兄の穏やかな顔を見て、自分の情けなさに、セティは言葉に詰まる。
「どうしたのじゃ、セティ」
「すみません……王子として情けなくて……もっと、しゃんとしなければならないのに……」
「セティが情けないなどと思うことはない。泣いて良いのだ。王子とて泣きたい時はあるだろう。しかし、人がいる時はいけない。わたしだけの時は良い。いくらでも泣いて良いのだ」
兄の言葉にセティは、少しの涙を零した。しかし、長くは泣かない。それは、やはり情けないと思うから。
「兄上、メンフィスへ同行したように、これからもわたくしがご一緒できる所へは、連れていってくださいますか?」
「ああ、勿論だ。セティにとっても学びが多かろうからな」
「はい、父上にもそう言われました。兄上のもとで王子としての様々を学びたいと思います。到底兄上の助けにはなりますまいが……」
「そんなことはないぞ。セティの存在自体が、この兄のためになっている。メンフィスでも、わたしが一人で行く時より歓迎された。そなたには、人を魅了する力を持っている。これは天賦の才だ」
これは事実。この才能でセティは、生まれた時から周囲の者たちを魅了してきた。天から与えられた才能だった。
オメガとい性を補って余りある才能といえた。
この時から、ウシルスの視察にはセティが同行するようになる。
どこへ行っても、歓迎された。大歓迎と言ってよい熱狂で迎えられた。
ウシルス一人だけの時も、若き王太子の視察は歓迎されたが、それをはるかに超えた歓迎ぶりだった。それはどこへ行っても同じなのだ。
「セティ様への歓迎ぶりは、大したものでございますな。行く先々で、皆を魅了されて熱狂しております」
「そうだ。正に妃に相応しいと思わぬか」
「ええ、ケトメ王国の! です」
メニ候は、ケトメ王国のを、強調する。そう、相応しいのは星の国の妃ではない、ケトメ王国の妃だからとの思い。
思わぬ状況で、セティが星の国へ招待されたが、今はもうそれに触れる者はいない。半ばなかった扱いだ。
つまり、ハーデスの思いは本気でも、セティを正妃として迎えることはない。それが、ある意味ケトメ王国の公式見解ではある。
そしてここまで、ことは二人の思惑通り進んでいる。
国王の諭しもあり、ウシルスの視察へは、セティが同行するようになる。最近では、ウシルスの傍らにセティが控えているのは当たり前の光景になっている。どころか、視察だけではなく、王宮での催しでも、常にセティはウシルスの傍らにいる。まるで、妃のように――。
これこそが、王太子ウシルスとメニ候、この主従二人の狙い通りなのだ。
ウシルスとセティ。二人が揃っていることが、自然である事。今は、兄弟としてだが、将来は――。
セティに対する呼びかけだけが変わる。そのように、自然に受け入れられることを望んでいる。
ウシルスのセティへの思いは弟に対するものを超えている。
それがいつからなのかは記憶にない。いつからか、己の妃はセティと決めていた。ゆえに、数多の妃候補を、全く相手にしてこなかった。
立太子する頃より、今に至るまで、お妃待望論は根強い。それは、実際に妃を迎えるまでやむことはないだろう。王太子が妃を迎え、世継ぎを儲けることは責務なのだ。一番重要な責任ではある。
だからなおさらウシルスは思っている。相手はセティだと。
ただし、それには大きな障壁がある。セティが同母の弟である事実。
同母。弟。
どちらも前例にない。
異母の姉妹を王妃にすることは珍しくない。むしろ、側室腹とはいえ、王女が王妃になるのは歓迎される。しかし、同母の姉妹は禁忌とされた。
しかし、それ以上に大きな障壁。それは弟だろう。
弟は無論、男が王妃になったことも皆無。
男は子を産めない。産めるのはオメガだけだからだ。
オメガは日陰の存在。公に存在が認められているのはセティただ一人。未だに、そうだった。
セティはオメガであるが、その存在は誰もが認めている。その魅力に、皆が魅せられている。
ならば良いではないか。オメガが妃になっても。オメガは子を産める。王妃としての責任も果たせる。
「前例は作ればよろしいのですよ」
「そなたらしい言葉だな」
「全ての前例に、最初の例がございます。一番最初は、前例無きことにございましょう。ただし、そのためのお膳立てが重要ではございますが」
「確かにそうだ。わたしが前例を作るのだな」
「はい。その機は熟しつつあります」
そう、外堀は埋めた。残るは内堀――くらいには進んでいる。あと少しではある。
セティは、王子として充実はしていた。
行く先々で歓迎されるのは嬉しいし、知らない土地で見聞すること全てが珍しく、そして楽しい。
同時に兄の仕事ぶりの重要度もうかがい知れて、王子と言うよりは、王太子の大変さも分かってきた。兄への尊敬は確実に増した。
自分には、王子は務まっても、王太子は無理だとおもうから。
王子として充実してはいたが、ハーデスを忘れたわけではない。むしろ、その思いは増している。
指に光る贈られた指輪。そして、夜になると、見上げる星。
その二つの光と輝きで、日々愛しい人ハーデスを思った。
会いたい、会いたい、会いたい……。
なぜ、なぜ、なぜ愛しいお方は、あんなに遠くにいるの……。
ハーデスへの不信は全くない。セティは、心から信じている。
ハーデスは必ず、セティに求婚し、星の国の妃として迎えてくれると。あの日、星の国で誓ったことに、噓偽りはないと。
そのためにも、今は王子として、その責任を果たすことが大切なこと。それは、いずれ愛する人の妃になった時にも、役立つと思うから。
ハーデスの妃として、国王であるハーデスを助けられるようにはなりたい。ただ、お飾りの妃では情けない。
そうではないと、星の国でケトメ王国が馬鹿にされる。そうなれば、ケトメ王国の王子として悲しいし、何よりここまで育んでくれた、祖国に申し訳ない。
ケトメ王国は、セティにとって誇るべき祖国だった。
各地へ視察に行くと、この国の素晴らしさがよく分かった。肥沃で、温暖。人々の気質も穏やかで、優しい。この国の王子として生まれた幸せに心から感謝した。
セティはそんな心境で、穏やかに日々を過ごしていた。
当然、兄ウシルスの思惑には全く気付いていない。
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