湖畔の城―地獄の中で生まれた純愛

梅川 ノン

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1章 出会い

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「さく! なんぞ水菓子はないか?」
 義政が声を掛けると、作之助が「柿がございますが」と応える。
 作之助は、この離れ屋に住み、一切を取り仕切っている、従僕だった。義政が楽しめるように、それが作之助の全ての基準だった。
 佑三に準備させたり、蹂躙のための道具を用意するのも作之助だった。
 虎の威を借りる狐、それが作之助で佑三は大嫌いだったが、機嫌を損ねると、どんな目に合うか分からない。佑三はいつも、作之助の顔色を見るのは習慣になっていた。

「佑三、それを高階に持っていけ。お前にあれの世話をさせる。何も知らないあれに、お前が教えるのじゃ。まあ、一時はお前も共に並べて楽しむのも一考じゃが、お前も年じゃ。ゆくゆくはあれをお前の後釜にするのじゃ」
 それを聞いた佑三の顔が曇ると、義政は下卑た笑いを浮かべる。
「なんじゃ、お払い箱のされるのがいやか? 声も変わって、髭も生えてくればな、そろそろ興醒めじゃ。まあ、今少しは可愛がってやろうぞ」
 そうではなかった。佑三の顔が曇ったのは、未だ見ぬ高階の若君に憐憫の情を感じたからだ。
 むしろ、お払い箱になるのは、望むところだった。一刻も早くこの地獄からぬけだしたい。
 ただ、だからといって自分の代わりに誰かがこの地獄の苦しみを味わう。それは、嫌だと思う。
 何も知らないだろう若君が、自分と同じ目に合う。知らない若君とはいえ、あまりに哀れだ。
 だが、それを理解できる義政ではなかった。
「明日はちと辛いことになるからの、それで手懐けてこい。お前にも素直に従うようにな。ふふっ、わしは優しかろうて」
『何が優しいか! 悪魔が!』と心の中では、悪態をついたが、むろん顔には出さない。慇懃無礼に頭を下げる。
「承知つかまりました。行ってまいります」
 そう言って、使いに出た。

 仙千代にあてがわれた屋敷は、家臣の屋敷が立ち並ぶ一角にあった。
 家臣に囲まれれば、不審な動きもできないことを見込んでのことだった。
 仙千代に限らず、人質はそうだった。ただ、家の重要度で、その造りに差がある。
 佑三は、質素なつくりの屋敷の外から声を掛けた。
 屋敷と言ってもほんの小さな造りで門なども無い。これからも、松川の仙千代に対する扱いの低さが分かる。
 仮にも一城の主の嫡子が住む屋敷か?! 佑三の胸に憤りが生じる。
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