湖畔の城―地獄の中で生まれた純愛

梅川 ノン

文字の大きさ
30 / 88
5章 地獄からの脱出

しおりを挟む
 太守義定の討死、そして松川軍の大敗の急報がもたらされた時、当初義政は信じなかった。
 あれほど華々しく出陣された父上が討死?! そのようなことあるわけない! 誤報と決めつけ使者を切り捨てた。しかし、その後も次々に届く急報は、それを事実と告げていた。
 義政は茫然自失し、ただただ狼狽えるのみだった。留守を守る城代、いや太守の死によって、いまや義政が城主であるのだが、全くその態を成していなかった。
 近くに仕える側近達も、全く頼りになる状態ではなかった。皆が余りに突然の、太守討死の報に、右往左往するばかりであった。
 日頃大樹に守られ、それを笠に着る輩ほど、それは顕著で、真の能力の無さを露呈した。

 佑三は、義定討死の報を耳にした時、先ずは確かなことかを急ぎ探った。やがてそれはほぼ事実、間違いないと分かった時、これは天からもたらされた僥倖! これを生かさぬわけにはいかぬ! と、強い決意を抱いた。

「あっ、佑三さん! 良かった! 探しておったのです」
 仙千代と三郎の主従は、義定討死の確信を持てないでいた。情報が入ってこないうえ、まさかという思いもあった。どうしたものかと不安な主従にとって、頼りは佑三だった。故に三郎が、佑三を探していたところに、当の佑三が息せき切ってやって来たのだった。
「ああ、三郎さん、仙殿は中か?」
 三郎は、佑三の緊迫した様子に頷くと二人で部屋に入った。
「仙殿、太守義定公討死は、間違いござらん」
「やはりそうなのか……」
 仙千代は、信じられない思いでいたことが、事実と告げられ、言葉が続かなかった。これから、どうなるのか? 己はどうするべきか? 全く見当もつかない。それほど、義定討死は、仙千代にとっても驚愕する事実であった。
「それでだ……」
 佑三は、仙千代に近づき、視線で三郎も近づかせて、二人を見ながら声を潜めて話し出す。

「仙殿、三郎さん、わしは、ここを脱出しようと思う!」

 仙千代と三郎は、佑三の言葉に驚く。二人は見つめ合い、そして視線を佑三に戻した。その眼は大きく開かれている。
「これは、絶好の機会じゃ。これを逃すわけにはいかん。今この城は、混乱のさなかにある。城としての態を成しておらん。義政が城主としての態を成しておらんからじゃろ」
 義政と、呼び捨てにしたところで、二人は佑三の決意の固さを感じた。神妙に頷く二人に、佑三は続けて言う。
「敗残兵が戻りつつある故、警備も手薄じゃ。いやその前に警備どころじゃないのだろう。他の人質も脱出の動きがあるやもしれん。だが、その動きが顕著になれば、警備が強化されるかもしれん。つまり、逃げるなら今じゃと、わしは思うのじゃ」
「それにな、仙殿。これから松川の力は急速に弱まる。義政は、これだけの大家を担う器じゃない。それに反して、此度の奇跡的な大勝利で津田様の力が急速に強まると思うのじゃ。仙殿の高階家も津田様にお味方したほうがええかもしれん。それを決めるのは仙殿の御父上だが、その時仙殿がここにおったら枷となる」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

処理中です...