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5章 地獄からの脱出
①
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太守義定の討死、そして松川軍の大敗の急報がもたらされた時、当初義政は信じなかった。
あれほど華々しく出陣された父上が討死?! そのようなことあるわけない! 誤報と決めつけ使者を切り捨てた。しかし、その後も次々に届く急報は、それを事実と告げていた。
義政は茫然自失し、ただただ狼狽えるのみだった。留守を守る城代、いや太守の死によって、いまや義政が城主であるのだが、全くその態を成していなかった。
近くに仕える側近達も、全く頼りになる状態ではなかった。皆が余りに突然の、太守討死の報に、右往左往するばかりであった。
日頃大樹に守られ、それを笠に着る輩ほど、それは顕著で、真の能力の無さを露呈した。
佑三は、義定討死の報を耳にした時、先ずは確かなことかを急ぎ探った。やがてそれはほぼ事実、間違いないと分かった時、これは天からもたらされた僥倖! これを生かさぬわけにはいかぬ! と、強い決意を抱いた。
「あっ、佑三さん! 良かった! 探しておったのです」
仙千代と三郎の主従は、義定討死の確信を持てないでいた。情報が入ってこないうえ、まさかという思いもあった。どうしたものかと不安な主従にとって、頼りは佑三だった。故に三郎が、佑三を探していたところに、当の佑三が息せき切ってやって来たのだった。
「ああ、三郎さん、仙殿は中か?」
三郎は、佑三の緊迫した様子に頷くと二人で部屋に入った。
「仙殿、太守義定公討死は、間違いござらん」
「やはりそうなのか……」
仙千代は、信じられない思いでいたことが、事実と告げられ、言葉が続かなかった。これから、どうなるのか? 己はどうするべきか? 全く見当もつかない。それほど、義定討死は、仙千代にとっても驚愕する事実であった。
「それでだ……」
佑三は、仙千代に近づき、視線で三郎も近づかせて、二人を見ながら声を潜めて話し出す。
「仙殿、三郎さん、わしは、ここを脱出しようと思う!」
仙千代と三郎は、佑三の言葉に驚く。二人は見つめ合い、そして視線を佑三に戻した。その眼は大きく開かれている。
「これは、絶好の機会じゃ。これを逃すわけにはいかん。今この城は、混乱のさなかにある。城としての態を成しておらん。義政が城主としての態を成しておらんからじゃろ」
義政と、呼び捨てにしたところで、二人は佑三の決意の固さを感じた。神妙に頷く二人に、佑三は続けて言う。
「敗残兵が戻りつつある故、警備も手薄じゃ。いやその前に警備どころじゃないのだろう。他の人質も脱出の動きがあるやもしれん。だが、その動きが顕著になれば、警備が強化されるかもしれん。つまり、逃げるなら今じゃと、わしは思うのじゃ」
「それにな、仙殿。これから松川の力は急速に弱まる。義政は、これだけの大家を担う器じゃない。それに反して、此度の奇跡的な大勝利で津田様の力が急速に強まると思うのじゃ。仙殿の高階家も津田様にお味方したほうがええかもしれん。それを決めるのは仙殿の御父上だが、その時仙殿がここにおったら枷となる」
あれほど華々しく出陣された父上が討死?! そのようなことあるわけない! 誤報と決めつけ使者を切り捨てた。しかし、その後も次々に届く急報は、それを事実と告げていた。
義政は茫然自失し、ただただ狼狽えるのみだった。留守を守る城代、いや太守の死によって、いまや義政が城主であるのだが、全くその態を成していなかった。
近くに仕える側近達も、全く頼りになる状態ではなかった。皆が余りに突然の、太守討死の報に、右往左往するばかりであった。
日頃大樹に守られ、それを笠に着る輩ほど、それは顕著で、真の能力の無さを露呈した。
佑三は、義定討死の報を耳にした時、先ずは確かなことかを急ぎ探った。やがてそれはほぼ事実、間違いないと分かった時、これは天からもたらされた僥倖! これを生かさぬわけにはいかぬ! と、強い決意を抱いた。
「あっ、佑三さん! 良かった! 探しておったのです」
仙千代と三郎の主従は、義定討死の確信を持てないでいた。情報が入ってこないうえ、まさかという思いもあった。どうしたものかと不安な主従にとって、頼りは佑三だった。故に三郎が、佑三を探していたところに、当の佑三が息せき切ってやって来たのだった。
「ああ、三郎さん、仙殿は中か?」
三郎は、佑三の緊迫した様子に頷くと二人で部屋に入った。
「仙殿、太守義定公討死は、間違いござらん」
「やはりそうなのか……」
仙千代は、信じられない思いでいたことが、事実と告げられ、言葉が続かなかった。これから、どうなるのか? 己はどうするべきか? 全く見当もつかない。それほど、義定討死は、仙千代にとっても驚愕する事実であった。
「それでだ……」
佑三は、仙千代に近づき、視線で三郎も近づかせて、二人を見ながら声を潜めて話し出す。
「仙殿、三郎さん、わしは、ここを脱出しようと思う!」
仙千代と三郎は、佑三の言葉に驚く。二人は見つめ合い、そして視線を佑三に戻した。その眼は大きく開かれている。
「これは、絶好の機会じゃ。これを逃すわけにはいかん。今この城は、混乱のさなかにある。城としての態を成しておらん。義政が城主としての態を成しておらんからじゃろ」
義政と、呼び捨てにしたところで、二人は佑三の決意の固さを感じた。神妙に頷く二人に、佑三は続けて言う。
「敗残兵が戻りつつある故、警備も手薄じゃ。いやその前に警備どころじゃないのだろう。他の人質も脱出の動きがあるやもしれん。だが、その動きが顕著になれば、警備が強化されるかもしれん。つまり、逃げるなら今じゃと、わしは思うのじゃ」
「それにな、仙殿。これから松川の力は急速に弱まる。義政は、これだけの大家を担う器じゃない。それに反して、此度の奇跡的な大勝利で津田様の力が急速に強まると思うのじゃ。仙殿の高階家も津田様にお味方したほうがええかもしれん。それを決めるのは仙殿の御父上だが、その時仙殿がここにおったら枷となる」
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