愛の宮に囚われて

梅川 ノン

文字の大きさ
23 / 26

しおりを挟む
「おおーっ、磯城っ……ううっ……」
 愛する息子である磯城の名を呼び、大后は泣き出した。磯城は、そんな母を優しく抱きしめた。
「母上……申し訳ございません。此度はご心配おかけして……」
「ああ、確かに心配もしたが、そなたの働きが素晴らしかったと聞いてな、嬉しいのじゃ」
 母子の様子を、微笑ましく見ていた葛城が、声をかける。
「まこと、此度の叔父上の働き素晴らしいものがありました。叔父上のおかげで勝つことができました。おばあ様には私からも直接ご報告をと、今日は参りました」
「東宮様直々にかたじけないことで、それに東宮様の大将ぶりも、ご立派であったと聞いております」
 このように始まった和やかな歓談は、大后が用意していた磯城の好物の唐菓子を食べながら一刻ほど続いた。
「名残惜しくはありますが、私はそろそろお暇を、叔父上は一晩ごゆっくりされてください。明日は、迎いをやりますので」
「いや、迎いなど」と、言おうとした磯城を、葛城は強い眼差しで見る。反論は許さないという眼差し。久しぶりに見る強い眼差しに、磯城はおとなしく従うしかできない。
「わかりました。東宮様もお気を付けてお帰り下さい」
 葛城を見送り、磯城は先程の葛城の眼差しを思う。久しぶり自分に向けられた強い眼差し。支配されるような眼差し。三宮のこと以来、自分を叔父と扱うが、あの眼差しは妃に対するそれだった。磯城は、体の奥が震えるような熱を感じる。その熱が、少しずつ熱くなるのを感じる。

 翌日磯城は、葛城の差し向けた迎えと共に東宮の宮に戻る。かなり大仰な迎えに戸惑うも、大后は、これも東宮が磯城を大切に思う証左と喜ぶので、そうなんだろうと自分も思う。叔父へのもの? 妃に対するもの? まあどちらもなんだろうと、昨日の眼差しを思い出す。
 あの眼差しこそが葛城の本質なんだろうと、磯城は思う。
 三宮亡きあと、自分に手出しする者がいるとは思えないが、用心に越したことはない。それに磯城の脳裏には、あの責めは消えてはいなかった。それどころか強烈に残っている。あのような事態になることは避けなければならないと思う。
 もしまた何かあれば、それこそ大后の所にも行けなくなる、守られて戻るに越したことはない、そう思いながら磯城は東宮の宮に戻っていった。

 宮に戻った磯城は、葛城は大王の表の対屋にいると聞き、それは、と急いで伺候する。
「ただ今戻りました。遅くなりまして申し訳ございません」
「ああ、丁度良いところにきたな、そなたの意見も聞きたい」
 大王と葛城は、此度のことの後始末を話し合っていて、そこに磯城も加わった。決めなければならないことは多岐にわたったが、概ね三人の意見が対立することはなく次々と決まっていく。
 三宮の遺体は宮家が引き取り、弔うことは許すが、宮家は絶家と決まる。宮家の財産は大王が没収する。
 高松の財産は、今回協力した豪族たちに褒美として分け与えることになった。大王と葛城は、磯城が全て取るようにと勧めたが磯城は辞退した。独り占めするのは磯城の性分でないし、分け与えた方が今後のためにもいいと考えた。またどんな敵対者が現れるかもしれない。その時味方する豪族は多いほどこちらの力になる。
 磯城のその考えに、大王、そして葛城も同意し、己の欲に走らず、先を見越す磯城に感心した。しかし、父子の思いは少し違っていた。
 大王は、磯城が三宮のような野心を持たない弟で良かったと思う。これだけの人物に野心を持たれたら、それこそ厄介なことこの上ない。
 葛城は、思い人でもある磯城の聡明さを誇らしく思いつつも、複雑な思いもあった。体の内が熱くたぎるような思いを、懸命に抑えていたからだ。
 行軍先の幕屋では、指一本触れられなかった。ここ宮に戻っても、磯城の対屋を訊ねていいだろうか? と迷いを持っていた。一方的に磯城を抱いてきた過去の己に、呆れるような思いもあった。
 葛城の複雑な思いは、置き去りに事後処理の方針が固まった。
「だいたいこれでよかろう。後はそなたらに任せるぞ、よいな」
「ははっ」
 磯城と葛城は、共に大王のもとを辞し、東宮の宮に戻る。
 磯城は、葛城の今宵の渡はあるのか? と思いながら、葛城の様子を窺う。すると、葛城が磯城に向かい話しかける。
「叔父上、あとで叔父上の対屋に行ってもよろしいでしょうか? 話がありますので」
「話? はい……よろしいですよ」
「では、後ほど」
 そう言って奥に入る葛城を、磯城は見送った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

無愛想な氷の貴公子は臆病な僕だけを逃さない~十年の片想いが溶かされるまで~

たら昆布
BL
執着ヤンデレ攻め×一途受け

ランドセルの王子様(仮)

万里
BL
大学生の森下優太(20)は、ある日の夕暮れ、ひったくり犯に襲われ絶体絶命のピンチに陥る。そんな彼を救ったのは、鮮やかなシュートで犯人を撃退した小学生の少年、日向蒼だった。 ランドセルを背負いながらも、大人顔負けの冷徹さと圧倒的なカリスマ性を持つ蒼。その姿に、優太はあろうことか「一目惚れ」をしてしまう。「相手は小学生、これはただの尊敬だ」と自分に言い聞かせる優太だったが、蒼のクールな瞳と救われた手の温もりが頭から離れない。 親友には「自首しろ」と呆れられながらも、理性と本能(ときめき)の狭間で葛藤する。禁断(?)のドキドキが止まらない、20歳男子による「かっこよすぎるヒーロー(小学生)」への片思い(自認はリスペクト)。

金の野獣と薔薇の番

むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎ 止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。 彼は事故により7歳より以前の記憶がない。 高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。 オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。 ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。 彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。 その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。 来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。 皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……? 4/20 本編開始。 『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。 (『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。) ※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。 【至高のオメガとガラスの靴】  ↓ 【金の野獣と薔薇の番】←今ココ  ↓ 【魔法使いと眠れるオメガ】

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り

結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。 そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。 冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。 愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。 禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。

青龍将軍の新婚生活

蒼井あざらし
BL
犬猿の仲だった青辰国と涼白国は長年の争いに終止符を打ち、友好を結ぶこととなった。その友好の証として、それぞれの国を代表する二人の将軍――青龍将軍と白虎将軍の婚姻話が持ち上がる。 武勇名高い二人の将軍の婚姻は政略結婚であることが火を見るより明らかで、国民の誰もが「国境沿いで睨み合いをしていた将軍同士の結婚など上手くいくはずがない」と心の中では思っていた。 そんな国民たちの心配と期待を背負い、青辰の青龍将軍・星燐は家族に高らかに宣言し母国を旅立った。 「私は……良き伴侶となり幸せな家庭を築いて参ります!」 幼少期から伴侶となる人に尽くしたいという願望を持っていた星燐の願いは叶うのか。 中華風政略結婚ラブコメ。 ※他のサイトにも投稿しています。

処理中です...