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しおりを挟む「兄さん、ちょっといいですか」
「あぁ、俺も話したいことがある」
ルーナが倒れてしまった後、公爵はすぐに医師を呼び、ルーナを診てもらった。幸いにも、ただの過労だろうとの事だった。ここに着いてから色々と話をしたりと、少し急すぎたかもしれないと公爵は思っていた。
…ただ、何かを思い出そうとしていたように見えたのは気がかりだった。まだまだ分からないことが沢山あるのだから、もっと慎重にいこうと決めた。
ルーナを部屋に寝かせた後、すぐに冒険者達がこれまでのことを話し合おうと言ってきたが、ルーナが疲れているように、冒険者達も相当疲れているはずだということで、話し合いは明日になった。
公爵も早く話を聞きたい反面、7年という長い時間をかけてまでルーナを見つけてくれた冒険者達には感謝の気持ちでいっぱいだった。王都に帰るにしても、時間はまだまだあるということで、今は冒険者を労うことにしたのだ。
公爵夫人は眠っているルーナの手を握り、そばから離れようとしない。そんな妻を見て、公爵も隣に寄り添ってルーナのそばにいることにした。
そんな中、様子が違う者たちがいた。ルーナの兄である、レグルスとロスだ。部屋に2人っきりで向かいあって座っていた。お互いがお互いを探りあっているような目で見ていた。
「それで、どうしたんだ」
「いや、兄さんに少し聞きたいことがありまして。…兄さん、ルーナを見てどう思いました?」
「どう?…とは?」
「そのまんまの意味です。ルーナを見て、なにか思ったことがあるでしょう?」
「ああ、会えて本当に嬉しいよ。『御使い様』とはとても綺麗なんだな」
「はぁ…そういうのはいいです。兄さんが思っていることはだいたい見当ついてますから」
「…見当ね。随分としつこく聞いてくるじゃないか、そういうお前はルーナを見てどう思ったんだよ」
「兄さん相手に取り繕っても意味ないから言いますけど…俺はあの子を見て思ったんです。あの子は俺のだって。何をしてでも手に入れなくてはいけない存在だって。…ルーナを見た時、兄さんも俺と同じこと考えてましたよね?」
「俺は…確かにルーナを見て一瞬で魅了されたよ。ルーナを自分のものにしたいとも思ったさ。でもなロス、ルーナはものじゃないんだ。俺たちが自分勝手にあの子の幸せを壊したりしてはいけない。今まで大変な思いをしてきたんだからな。」
「…そうですか。兄さんはルーナを尊重しようってことですね。俺は、ルーナが俺の事を好きになってほしいんです。…そのためには手段を選ばないつもりですから。だから兄さんには邪魔して欲しくないと思ってます。今まで仲良くやってきたでしょう?弟の願いを聞いて下さいよ。」
「…悪いがそれは無理だ。」
「どうしてです?ルーナが幸せになることを願ってるなら、一緒になる相手が俺でもいいですよね?」
「俺は…正直ルーナに対して後ろめたい気持ちの方が今は強い。…だから俺はルーナの幸せを見守ろうと決めたんだよ。兄として、騎士として、ルーナのことを守るって。
ルーナが自分からお前のことを選ぶなら何も言わないが、お前がルーナに対して囲い込むようなことをするんだったら、悪いが俺は全力でそれを邪魔させてもらう。ルーナにはこれまでの分も含めて、広い世界を見て欲しい。」
「騎士として、兄として…ね。じゃあ兄さんはあくまで、ルーナの兄としてそばいるつもりと。…残念です、兄さんとは穏便に済ましたかったのですが。俺の邪魔をするなら、兄さんだろうが容赦しません。こちらも全力で排除させてもらいます。」
話し合いが終わり、二人が向かった先はルーナが寝ている部屋だった。そこには公爵と夫人がいた。レグルスとロスと二人ともいないことにどうしたのかと思っていたが、ルーナを見つめる優しい瞳を見て、公爵は気にしすぎかと安心した。
何も知らない者が二人を見ても、何も感じないだろう。いつも通りの二人であると。
しかし、話し合いをする前より確実に何かが変わっている。それはお互いに分かっていることだろう。
方向性が明らかに違うのだ。ルーナを守りたいと思うレグルス。一方で、自分のものにしたいと思っているロス。
今後の二人がルーナにとって、吉と出るか、凶と出るか。誰にも分からない。
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