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国衛隊 入隊編
第11話:神国破壊⑪
しおりを挟む――狂騒曲は、最終段階に突入。
なおも続く激しい殴打音と、女を制止する試験官たちの声……が会場内を包み込む。
それに華を添える様に、力尽きて崩れ落ちていく精悍なる4人。
――瞬間、
少年は、視線を覆い隠す様に左手を構えてオウカの後ろに視線を送る。
同時に、右手を意味ありげなハンドサインに――
「ガハッ……!」
オウカは、体勢を沈めながら両手で脇腹を抱え悶絶する――演技をした。
両足は、わかりやすくフラついている。
――フィナーレの時。
白目を剝きながら 試験官に絞め落とされゆく女の、断末魔の叫びが響きわたる――
――瞬間、
少年は一直線にオウカへの接近を開始。
苦悶の表情を浮かべるオウカの顔へと、全身全霊の右の突きを放つ。
――!?
……あれ、まるで蜃気楼の様な――
-グチャアッ-
少年の右拳は オウカの顔面をすり抜けるかのように空を切り、代わりにオウカの右拳が少年の顔にメリ込んでいた。
少年の鼻の穴から勢いよく放出された鮮血が、オウカの拳を赤く染める。
――少年は、ヒザから崩れ落ちていく。
――味方が敵に。
敵が味方に、と思ったらまた敵に。
そして、敵であり続ける敵。
まるで、世界の縮図――
[組手試験:終了]
ARレンズに表示された。
続けて、[グラウンドに戻り、待機せよ]の表示が。
だが、オウカは動けなかった。
――背筋が凍った。
崩れ落ちた少年の向こう側、約5メートル先に――あの女性責任者の姿があったからだ。
いつの間にか そこにいた彼女は、オウカを じっ……と見据えている。
目が合ってしまった――
――全身から汗が噴き出したオウカは、ぎこちない会釈をしてみた。
責任者は、微動だにせずオウカを見据えている。
オウカは目を逸らし、グラウンドに向けて歩き出す。
――全身が、ひどく重く、固く感じた。
「待て!」
責任者の声に、全身が跳ね上がりそうになるオウカ。
「お前……」
こちらに歩み寄ってくる。
生きた心地がしない――
責任者は、オウカの目の前で止まり……ゆっくりと口を開く。
「拳から出血してるから、手当してもらえ」
――夕日が街を照らす頃、再び蕎麦屋。
「国衛隊の正規隊員試験、合格しました」
報告をするオウカ。
(10名の受験生中、オウカが最初に倒した男 および ぽっちゃり体型の男 以外の8名が合格。
エレナも合格)
「了解」
…とだけ返し、蕎麦を茹でる店主。
オウカは、憔悴した表情を浮かべる。
――随分と、疲れた。
体力的には余裕のはずだが、精神をかなり消耗した。
精神の消耗は、肉体にも影響を与える。
……梅おろし蕎麦を口に運びながら、オウカは内省していた。
”少年の戦術に乗るのは、不要なリスクだったのでは?”
優先順位を見誤り、結論ありきの短絡的な思考……で、割に合わないリスクを負いそうになってしまった。
その事を自戒していた。
「……この国に、我々の国の ”同胞” は、何人くらいいるんですか……?
国家機関や その傘下組織にも、そして国衛隊にも相当な人数がいる……んですよね?」
オウカの質問に対し、店主が口を開く。
「あなたが知る必要はない」
背を向けたまま、続ける。
「自分の任務を全うしなさい」
――7分後。
蕎麦屋を後にするオウカ。
その後ろ姿を見送る店主は、どこか憐れむような眼をしている。
――客のいない蕎麦屋は、しん……、と静まりかえる。
店主はおもむろに、空中を2回タップする。
ARレンズを通した視界に、仮想ディスプレイと仮想キーボードが浮かび上がる。
蕎麦の材料の発注。
作成した発注書をメールに添付して、送信しようとしている。
――送信先は、業者であり ”同胞” だ。
発注書には、暗号文が組み込まれている。
厳重なプロトコルで暗号化された情報。
この国の一般人として生活している同胞を介して、祖国の軍の上層部へと伝わる。
蕎麦屋の店主には およそ似つかわしくない表情で、オウカの上官メイフェイは 送信ボタンを押した。
――暗号文の内容は、次の通りだ。
【シーナ国より日ノ国へ 派遣中のスパイ
〈オウカ:コードNo.810〉第一段階完了
――最終目的:日ノ国侵略】
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