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VS北夕鮮・尖閣諸島編
第34話:怒力③
しおりを挟む――エレナは、国衛隊の戦闘訓練で、様々な武器の戦い方を修得しようとしている。
現在、エレナが戦闘術として集中的に学んでいるのは――忍術……の膨大な技術の内の1つ・近接格闘術。
その中でも、武器術。
各種手裏剣を始めとする忍者族の武器に、高い興味をもって学んでいる。
――そして今、エレナが持っている武器。
サブ武器は、両手の手甲(革製)に仕込んだ――携帯性に優れた、棒手裏剣。
そして、メイン武器は、左腰に携えた――奇しくもセイイチと同じ、忍者刀だった。
――敵兵の女1名が、エレナの間合いに入るか否かの、刹那。
エレナは、音もなく前進。
女の眼前にいた。
女は、左手で何かの暗器を取り出し、迎撃――
-グチャッ-
――単純に、女が迎撃するより早く、女が反応できないほど武術的に速く、エレナの左拳が女の顔面を捉えた。
そのまま、ゆっくり後ろに倒れていく女の身体。
(鼻血が飛び出て、唇はひん曲がっている。さっき迄はそこそこ美人だったのに、今や見る影もないくらい酷い顔だ。
”お嫁に行けない” って言うんだっけ?こーいうの)
――エレナは 右手に棒手裏剣を取り出しながら、倒れていく女の数メートル後方にいる、両手に鉄製の手甲を装着した男へと視線を移し――
右手を、ぶんっ、と 振った。
――リュンは、右手に握った剣を、セイイチに向かって突き――
-ドスッ-
リュンの右前腕の内側に、黒い鉛筆――エレナが右手で放った、棒手裏剣が生えていた。
リュンの顔が、苦痛に歪む。
――セイイチは地面を蹴り、一気に接近した。
-カチャッ-
――セイイチは、目を見開いた。
リュンが右手に握っていた剣を、左手に持ち替えた――いや、右手にも相変わらず剣は握られている。
1本の剣が、2つに分かれた――?
ヤバい!
セイイチは、前進を中断――すかさず後ろに飛んだ。
-シャッ-
左手での剣撃を、紙一重で躱したセイイチ。
だが、リュンは更に踏み込み、棒手裏剣を生やしたままの右前腕から血を巻き散らしながら
――右手で ”双剣” の片割れを突き出してくる!
-ズチャッ-
肉が抉られる、嫌な音がした。
「ああぁ――あッ……」
セイイチの腹部に食い込んだ剣先。
痛みに悶えるセイイチは、忍者刀の先端を、剣を握ったリュンの右腕を突き刺す!
「か!……はあっっ」
リュンは、堪らずセイイチから距離を取る。
――セイイチは、腹部から血を垂れ流しながら、1本の剣に擬態した2本の剣―― ”双剣” を持つリュンを睨みつける。
1本の剣に、同じ形の もう1本の剣を隠す……。
これも、一種の ”暗器” と言えるかもな。
――武器は、殺意を原動力とした創意工夫により、生まれる……面白い。
セイイチは、腹部の激痛を根性で捻じ伏せながら、再びリュンとの距離を少しずつ、詰め始める。
――エレナは、地面に倒れて軽く跳ね上がっている女の数メートル後方にいる男へと、歩を進める。
-ヒュッ-
エレナが繰り出した左拳が、男の顔面へと放たれる。
男は、頭部を本人から見て左側に振り、ギリギリで左拳を躱し――カウンターパンチを決めるベく、鉄製の手甲で強化された右拳を繰り出す。
……が、男のカウンターパンチは、強制中断される。
-ドボッ-
金属製の物体が、喉に食い込む嫌な音が、男の耳に聞こえた。
――エレナは、左拳を繰り出すと同時に、右手で──逆手で、左腰に携えた忍者刀の柄を握り、
――右拳の突きを放つ身体使いの要領で、柄の先端をそのまま真っ直ぐに男の喉に向けて突き出していた。
「――ぐ、あがあぁぅ!」
呼吸困難。
激しく動いている最中、喉への打突を食らい、酸素の供給が強制中断。
白目を剥きながら そのまま、ゆっくりと後ろに倒れていく、男の身体。
忍者刀を構えたエレナは、追撃を――いや、男は失神し、その身体は痙攣している。
――セイイチに、加勢しようか。
――セイイチと敵との距離が、再び詰まっていた。
セイイチは、間合いの外から飛び込んでの先制攻撃を追求する格闘技(フェンシングと伝統派空手)を、習っている。
誤解を恐れずに言えば、その際 攻撃の”威力” は考慮されない。
長年、鍛錬を積んだ者の様に ”速さ” と ”威力” を両立する技量は、(ポイント制の組手においては)考慮されない。
――なので、全身を鞭のように使い ”速さ” と ”威力” を両立する技量を持つ熟練者と、そうでないセイイチとでは――
全体重を乗せた突き蹴りを、高速で相手に撃ち込む様な闘いでは、歴然とした差があっても……
攻撃の威力が考慮されない闘い(ポイント制の組手)においては、その差は圧倒的に縮まる。
――だから、”刺突” に特化した戦術を選んだ。
セイイチの筋力でも片手で扱いやすく、精妙な身体操作ができなくても扱いやすい(日ノ国刀よりも軽い)忍者刀を選んだ。
剣に体重を乗せられなくても、剣先は容易に相手の肉を――抉る。
-ヌチャッ-
セイイチの右手の忍者刀の先端から、嫌な音が聞こえる。
「あ――ああぁっっ……」
腹部を突かれた痛みで、リュンの喉の奥から呻き声が絞り出される。
そのまま、ゆっくりと後ろに倒れていく、リュンの身体。
――リュンの身体が地面に倒れ、軽く跳ねた直後。
-ガドッ-
セイイチがサッカーボールキックを撃ち込み、リュンの呻き声と――意識は途絶えた。
――倒した。
敵兵を、生まれて始めて、倒した。
もう、大丈夫だ――
――がくっ、と膝が抜けた。
安堵感に包まれた途端、緊張の糸が一気に切れた。
ダメだ。
まだ、この先も、魚釣島での戦いは、日ノ国を護る戦いは続くんだから――
”ズキッ” と、腹部から痛みが込み上げてきた。
セイイチが、リュンの剣先に突かれた場所を見ると、じわっ、と血が滲んでいた。
「私たち、勝ったね~」
エレナの声が聞こえる。
この人、ON/OFF の切り替えが凄えな……。
――森に突入する前の数十分、自分の信念の根源についての話を聞いてくれたエレナ。
初めての会話なのに、自分語りに終始して怒りの感情を露わにしてしまった。
エレナからしたら、突然脈絡もなく そんなの聞かされてたまったものではない。
すまない。
エレナについての話も聞くべきだった――
いや、そもそもペア組むんだから 具体的な戦い方を、建設的な議論を――
「――私も、負傷しちゃった~。少し休もうか。数分間だけだけど」
嘘をつくな。
セイイチは、エレナの戦いを見る余裕などなかったが、エレナは嘘をついてると直感した。
そして、その嘘を感謝を込めて受け入れた。
優しい嘘を。
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