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VS北夕鮮・尖閣諸島編
第36話:怒力⑤
しおりを挟む――――国衛隊の正規隊員となったのは、去年。
”冷静沈着・感情の起伏が少なく、無表情”
それが、入隊初日から、大多数の同期生が感じた印象だっただろう。
――侍の家系に生まれた ”侍族” である少年・ヤマトは、長い黒髪を風に なびかせ、深い森を歩いている。
頭部の後ろで束ねられた髪も、歩くたびに揺れる。
左腰には、愛刀・”無鳴” を携えている。
ペアは――いない。
断ったのだ。
――1人が良い、独りが良い。
1人でいた方が自由に戦えるし、独りでいた方が良好な精神状態でいられる。
――――ヤマトは、察知する。
マキさんは、その意向を組んでくれた。
いや、その方が合理的と判断した……と解釈しよう。
マキさんは、国衛隊では別の基地所属だ。
しかし、侍族の鍛錬場にも(多忙の合間を縫って)足を運ぶことが月に数回あり、たまに会話もする。
5年前――俺が13歳くらいの時に、国衛隊の新米隊員だったマキさんが初めて、俺と同じ鍛錬場に来た。
お互い顔は知っているが、特に話す気も、必要性も感じなかったので全く話す機会はなかった。
――が、俺が国衛隊の候補生になったという話を聞いたらしく、マキさんは話しかけてくることもあった。
いつも独りでいる俺に、年下の俺に、マキさんは しっかりと礼儀を弁えて接してきてくれた。
話さない日の方が多いが、マキさんが来たら、自然と目を合わせて会釈をしている自分に気づいた。
マキさんとは、話す回数自体は多くないが――深い話ができる。
日ノ国剣術の技術体系の応用性。
侍の精神。
この国の政治の腐敗。
この国の行く末。
シーナ国の日ノ国侵略に加担する売国奴やオールドメディア。
国衛隊のあるべき姿。
――そして、お互いの信念の根源。
俺から聞いといて何だが――信念の根源を話すのは、マキさんからしたら辛かっただろう。
だが、教えてくれた。
俺が聞いて、一拍置いて、教えてくれた。
表情はさほど変わらなかったが、内心は酷く辛かっただろう。
――――ヤマトは、前方へと歩を進める。
おととい、鍛錬場への入り口で、仁王立ちで俺を待っていたマキさんは、険しい表情で一目散に俺の所に来た。
剣術鍛錬の道着ではなく、マキさんが ”任務の時に好んで使う” と言っていた、迷彩服。
いつもは、”君付け” で 呼ばれていたが……
「明後日の尖閣諸島での任務を指揮する部隊長、マキだ。
私は立場上、私情を挟むことは許されない。その事を肝に銘じる様に。
――ヤマト隊員」
そう言い放ち、足早にその場を後にする マキさんの後ろ姿。
――――ヤマトは、視認する。
そんなん、百も承知だが?
――あれは、マキさん自身が自分に言い聞かせたという意味合いが大きいだろう。
ああいう ”儀式” を経ないと、任務中に……任務に支障をきたす範囲の情が、出てしまうのだろう。
……ああいう 甘さが危なっかしくて、ああいう 情の厚さが 好きな部分でもある。
恋愛感情は――無いが。
――――ヤマトは、右手を日ノ国刀の柄に伸ばす。
今、この状況で考える事ではない……と自覚しつつ、考えてしまう性格だ……と自覚しながら、ゆっくりと息を吐いていく。
精神を、統一していく。
――武器は、腰に携えた刀剣。
飛び道具は、持っていない様だ。
お互いに。
――――ヤマトは、一足一刀の間合いに入る。
その眼前には、腰に携えた鞘から太極剣を抜き……右手で構える、男2名の敵兵の姿があった。
太極剣――シーナ国の剣を持つ敵兵の男2人は、ヤマトを見据える。
――この 日ノ国の少年は、様子見もせずに真っすぐに歩いてくる。
男2人は同時に、その手に握った剣で ”突き” を繰り出す為の構えを取った。
――――?
”何かがおかしい”
腰の左に携えた刀の柄を握っていた筈の、少年の右手が――少年の身体の右側に瞬間移動した様に思えたのだ。
その右手には、刀が握られており、その刀身が光を反射して ギラッと輝いた。
そう気づいた直後、男たちは右手に視線を落とした。
――マジか。
痛みよりも先に、”信じられない” という感情が生まれた。
男たちの右手は、指の数が4本になっていた。
男たちの視界の端。
2つの小さい物体が、空中を飛んでいく。
スプリンクラーの様に回転しながら、赤い液体を巻き散らす。
その物体――2つの親指と共に、鮮血が舞っていた。
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