I-State (侵略国家)

エス

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VS北夕鮮・尖閣諸島編

第47話:深層領域②

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――――カンナへの黙祷を、10秒間。

オウカは、当然もっと長い時間黙祷に捧げたかったが、急がねばならない。

味方が、敵本隊を発見・位置を共有している。

先に行ったマキ部隊長の後を追い、敵本隊のいる その位置へと急行せねばならない。

 

――カンナの遺体から視線を逸らした。

今生の別れ。

 

――走る。

精神状態は、落ち着いている様で、浮足立っている。身体がぐらつく。

ああ、この感覚は……落ち着いてるんじゃない。

深層意識では、混沌として無秩序な思考が、方向性無く暴れている。

顕在意識では、まともに思考できない。思考することを放棄したがっている。

 

”ああ、脳が悲しい時に分泌する液体を、両目から流し始めた。

鼻水も出てきた。垂れそうだ。息がしづらい。うげっ、口に入った。しょっぱい。

ポケットティッシュ……あった。

両目を拭え。鼻に当てて、ずびびっ、と 鼻をかめ。……やむを得ない、ポイ捨てしろ。

おい、しっかりと前に意識を向けろ。敵兵が現れたら、どうする”

 

――深層意識に、自分の心にじっくり向き合う為の、時間的余裕も 精神的余裕も無かった。

《別行動さえしなければ、カンナは死ぬことはなかった》

カオスな思考に溺れる深層意識から、最も強く、幾度となく発せられる その思考。

顕在意識は、必死で逃れようとする。

”何度も言うけど、それは結果論だよ。深層意識って、駄々っ子みたいだなぁ”

 

――オウカは、自分を俯瞰し続けることで、ギリギリで精神を保っていた。

 

 

――――右手には大太刀、左手には小太刀。

両手に、長さの違う日ノ国刀を握っている。

外ハネを効かせたセミロングの茶髪。美少女なのに ”性格キツめ” の印象を与える目つき。

――セツナは、横たわる4名の――真新しい遺体を見下ろしていた。

いずれも、果ててから数秒から数十秒しか経過していない。

 

――ペアの男と共に森を進んでいたら、緊急指令が来た。

[敵小隊リーダー格ヨハンを発見。至急現場へ急行せよ]

だが直後に、3名の敵兵と遭遇。

お互い、無言で武器を構え――戦闘が開始された。

敵兵3名の内、ペアの男が対峙した1名は……まあまあ強かった。

ペアの男は数秒であっけなく倒された。そして、剣で喉を突かれ――絶命。

その時点で私は、峰打ちで敵兵1名を倒した。

(そのまま顔面を踏みつけたら、身体が びくんっ、と痙攣していた)

 

――残る敵兵2名の内、弱そうな奴を先に片付けようと動いた瞬間――”その情報” がポップアップで表示された。

すっげえ気が散るな……とイラついたが、その内容は一秒でも早く確認すべきものだった。

[〈重要〉尖閣諸島において、敵兵の殺害を全面的に許可する]

――赤文字で表示された その通知を確認すると同時。

数歩下がった。敵兵と距離を取った。

大きく息を吸い、長く息を吐く――思考のノイズが、消えていく。

没頭――

 

――15秒後、現在。

セツナの両手には握られた日ノ国刀には、敵兵2名の血が付いている。

……気絶させた敵兵1名。目を覚ましたら、味方が危険に晒される。

切っ先を、喉に……突く。最期の痙攣。血の噴水。後味が すっげえ悪い。

――戦死者4名の遺体が、セツナの視界に横たわる。

-チャキッ-

2本の日ノ国刀を、鞘へと納めた。

 

――セツナは、ペアの男を見下ろす。

カッと 目を見開いたまま果てた、死に顔。

今日が初対面。お互い何も知らない。

ペアを組んでいた数十分、話したのは互いの所属と名前。

そして、お互いの戦い方を考慮した上での、大まかな戦術。

それだけだ。

いや、お互い何も知らない方が良い。

ペアが死ぬんだったら――同じ釜の飯を食った人間ではなく、よく知らない人間の方が冷静でいられる。

 

――せめて目を閉じさせてやろうと思い、手を伸ばし――

……いや、ダメだ!

任務を最優先しなければ。

この遺体の目を閉じて、感傷に浸ることで――私は、何を得る?

”自分は優しい人間だ” ……という、自己満足か?

その時間、その精神力をここで浪費するより、任務遂行に使うべきでは?

一刻も早く、指示された場所へと急行すべく森の中を進むべきでは?

 

セツナは、眉間にシワを寄せながら……伸ばした手を引いた。

ぐっ、と唇を噛みしめ――走り出した。

――大きく息を吸い、長く息を吐く――思考のノイズを、消していく。

 

――ペアは良く知らない奴のが、死んでも気が楽だ。

というか正直、私も単独行動したかった。

ペアを組んだ相手に、足を引っ張られたら たまらんし……

逆に、私が足を引っ張ったら……相手に申し訳なくて、地面に頭こすりつけて土下座したくなるだろう。

 

もし、ペアを組むなら……弟。

昔は可愛かったのに、今は生意気。

昔は ”お姉ちゃん!” と呼んでくれてたのに、いつの間にか ”姉貴” になり、今は たまに ”セツナ” と、呼び捨てにしやがる。

呼び捨てにされる度に、私は ”姉貴と呼べ” と、ド突く。

……しかし、第三者がいるところでは、一貫して ”姉貴” と呼んでくれる。

 

だから、弟とならペアを組みたい。

侍族として生まれ、幼少より共に剣術鍛錬をしてきた弟。

生きるも死ぬも、一緒が良い。

 

――指示された位置までは……遠い。森の中は走りにくい。

到着まで、15分はかかるな。敵に遭遇しないと、甘く試算しても。

せっかく敵本隊を取り囲めそうなのに、15分も待ってたら――絶好のチャンスを逃さないか……?

……いや、今は 一秒でも早く指示された場所に行くことに、集中しよう。

 

――二刀流剣術・二天流を、幼少より五体に叩き込んだセツナは、無心で走る。

走っている途中、ペアを組んでいた男の……カッと目を見開いたまま果てた、あの死に顔が――脳裏にフラッシュバックした。

――大きく息を吸い、長く息を吐く。

走りながら、それを何回も繰り返した。

 

 
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