どうしようもない僕は報われない恋をする

四章 雪闇ブラッド

柔い心に傷を

それでも凪は何も言ってくれなくて。
それが酷く嫌で仕方なくて。
俺をみて欲しくて。
口に出した。
まるで幼い子供みたいだ。
「いいよ。だから呼んだんでしょ。咲じゃダメなら他の人呼んでる」
そう言った後、少し考えるそぶりをして、呼ぶ相手がいないけど、と言う。
嘘つき。
本当に俺の心をかき乱す天才だ。
少し待てば理久が来るだろうに。
理久は凪の手作りなら喜んで食べるだろうし。
生クリームケーキが闇奈の好物だと言うことも知らないだろうから。
純粋な気持ちで食べられるだろうし。
きっと喜ぶよ。
それに比べて俺は。
闇奈の好物だって知ってる。
だから、目の前に並ぶケーキが忌々しかったりする。
こんな形で裏切らないでよ。
せめてもっと綺麗な形で裏切ってよ。
「..、俺は生クリームケーキより、チョコレートケーキの方が好き」
気がついたらそう言葉に出していた。
目の前のケーキを否定するかのような言葉。
そんなの言っちゃいけないのに。
凪の顔は変わらない。
それに対して特に恐怖も感じない。
それどころか、全部ぶちまけてしまいたくなる。
目の前には生クリームを沢山使ったケーキがずらりとある。
チョコレートケーキなんて一つも無い。
そりゃそうだろう。
だってこれは闇奈のためのパーティーの練習なんだから。
俺がチョコレートケーキが好きだって事も知らないだろうから。
だって言ってないもん。
言ってないんだから知るはずがない。
逆にそれで知っていたらそれこそ怖い。
でも、裏を返せばそれほど俺に興味を持ってくれているってことになるけれど。
けれどそんなの僕は望んでいないし。
凪は黙って聞いている。
静かに。
そんな凪に、言うか迷いながら、言葉を紡ぐ。
「…俺だって。闇奈と同じ誕生日だから、お祝いしてほしい」
予想以上に小さい声で、少し震えていて。
意外にも凄く緊張していたんだなと思った。
自分からお祝いをねだったのは初めての誕生日以来だ。
あの時、闇奈と一緒にお祝いされると純粋に信じていた。
俺は。
本当は、闇奈と一緒の誕生日だって、堂々とお祝いされたかった。
本当は、二人でハーフケーキが良かった。
チョコレートケーキと、生クリームケーキの半々のケーキ。
その方が良かった。
二人の好物が沢山並んだテーブルで。
二人で楽しく過ごして。
そんな日を望んでいたのに。
そんなの全く起こらなかった。
起こったのは最低最悪の誕生日だった。
そこから何だか誕生日なんてやりたくなくなって。
それで、誕生日なんて望まなくなってしまった。
それ以降は望まなくてもされたから。
勝手にみんな囃し立てて。
誕生日を勝手に祝われていた。
だからねだるなんてしたことがなくて。
何だか恥ずかしくなってきた。