キャバ嬢、異世界へ〜死にたくないから魔王様を全力で魅了します!〜

ミィタソ

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六話 新生活、始まります

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 次の日の朝――。

「……すごい。ベッドがふかふかすぎて、逆に寝すぎた」

 気持ちよすぎるベッドに沈み込んでいたせいで、起きたのはだいぶ遅めの時間だった。
 いや、違うでしょ。何を呑気なことを考えているの。
 ここは魔王城、気を引き締めないと殺される。

「よし、今日から本格的に魔王様のご機嫌取りを開始します!」

 私はバッと起き上がり、鏡台に座って身だしなみを整える。
 寝癖がついた髪を手ぐしですいて、化粧を直していく。
 いつ元の世界に帰れるか分からない。化粧品も少しずつ使わなくては。
 ファンデーションは首元まで。アイラインはマストだ。
 いつもべったり付けるマスカラも、今日はちょんちょんと軽めに。
 青いアイシャドウは薄めに伸ばして、お気に入りのダークレッドの唇を薄く塗って……と。

 そういえば、昨日はお風呂に入れなかったな。
 ……魔族って、まさか体を洗わない?
 いやいや、そんなわけないよね。魔王様の体からはお花みたいないい匂いがしてたし。
 今日は汚れを落としたい。後で誰かに聞いてみよう。

 クローゼットの中からシックな黒いドレスを選ぶ。
 準備は完璧だ。深呼吸してから部屋を出た。

* * *

「おい、人間。貴様、やっと起きたのか」

 廊下を歩いていると、案の定グレゴールに冷たい目で見られた。

「はい、おはようございます! 今日は魔王様のおもてなしを頑張ります!」

「……は?」

「いや、だから魔王様の話し相手として、もっとリラックスしてもらえるように色々工夫を……」

「魔王様は別にお前にそんなことを期待していないだろう」

「えー、それはどうでしょう? せっかくここにいるんだから、私なりに魔王様のお役に立ちますよ!」

 グレゴールはため息をつきながら、好きにしろと言わんばかりにひらひらと手を振った。

* * *

 執務室に入ると、ヴァルゼスは書類に目を通していた。

「おはようございます、魔王様!」

「……貴様、遅いな」

 仕事中に突然現れた私に対して遅いと一言。
 裏を返せば、もっと早く来いともとれる。

「いやー、ちょっといい夢見ちゃいまして!」

 ヴァルゼスはジロリとこちらを見たが、何も言わずにまた書類に目を落す。
 うーん、この雰囲気。歓迎されてはいるけど、ちょっと張り詰めてるな……。
 そうだ、こういう時こそキャバ嬢の腕の見せどころ!

「魔王様、最近お疲れじゃないですか? 少し気分転換しません?」

「……気分転換だと? 仕事が山積みだというのに、そんな暇はない」

 魔王様、激務を振られ続ける中間管理職みたいな顔をしている。
 社長の立場で課長の仕事までこなしてるような感じか。
 そりゃ大変だわ。
 そういえば、加藤さんがよく愚痴をこぼしていたっけ。

「違うんですよ魔王様。根を詰めすぎると、仕事の効率って落ちちゃうらしいんです。少し息抜きするくらいがいいんですって! たとえば、軽く雑談してみるとかどうです?」

 ヴァルゼスは納得いかない様子で少し考えた後、ペンを置く。

「……ならば、美咲。お前がなにか話をしろ。貴様が人を楽しませるのが得意と言ったのだろう? ならば、見せてもらおう」

 うっ、ハードル高い。こんな状態で楽しませるって一番難しいやつ。
 でも、ここで引き下がるわけにはいかないか。

「では、魔王様に“人間の世界の面白い話”をお聞かせしましょう!」

 私は満面の笑みでそう宣言した。
 魔王様が興味深げにこちらを見ている。
 よし、ここからが本番だ!

 私は深呼吸し、キャバ嬢時代の経験を総動員して、魔王様を楽しませるべく口を開いたのだった。
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