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平成25年編その1

ばあちゃん!

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朝からネットで、神戸 戦死者リストなるものを見るが情報が多すぎる。
梅野 正一という名前は見当たらない。

ばあちゃんの兄弟はみんな亡くなり、ばあちゃんだけだ。

神戸へ行って梅野さんと言う人を片っ端からあたるか...いや戦後70年近いんだ...世代をまたげば神戸にいるかは...

母が呼ぶ
「今日休みでしょ?今から病院いこうか。朝なら起きてるかも」
私達は病院へ。

「ばあちゃん!」
ベッドでばあちゃんは、笑顔を見せた。笑顔でうんうん頷いている。
「朝ごはんは?何か食べられた?」母が聞くと
「さぁ分からへんわ」
あれ。なんかおかしいぞ。ばあちゃん。職業柄よく分かった。ばあちゃんの認知症はかなり進んでいるようだ。目つきも違う。
ただ私達からすれば、笑ってくれてれば嬉しい限りである。

「そうそう。誰だっけ親戚でいたか、軍隊行った人?聞きたいんでしょ」
母が急に話をふる。私は流石に戦時中の話はこの状態ではまずいと思ったが、軽くきいてみた。

「梅野 正一さんて人知ってる?」
「......さぁ分からへんわ」

終わりました。最後の頼みの綱ばあちゃんは、分からへんと。

私は気を取り直して探すことに。

それからしばらく普通の生活が続いた。
昭和にタイムスリップしていたなんて、あれは本当だったのか分からなくなる位に日常は流れていく。

日付が変わる度、その日の昭和20年の出来事を調べた。そのたびに、はらはらした。
正一さんは大丈夫なのか。
6月には大規模な神戸空襲も来る。
正一さんが生き残れるとしたら...配属先はいったい.....やっぱり何も分からない。


今日は職場の食事会だ。平和な時代ですな.....。
日勤隊が仕事を終えた夕方から始まる。私は遅番。20時位には参加できるかな。

「おまえ 遅番か?」
「はい。亮さんは?」
「遅番」
「行きます?食事会」
「一応」
一応?まぁ行ったところで、たいして喋らないですもんねっ。

私達は一緒に食事会へ向かう。
「今日は何時に終るかなぁ」
「あいつらキチガイだからな。」
そう、食事会が飲み会となり遅くまでつづくのだ。
普段から共に働き、夜に集まって盛り上がる。
ある意味、人付き合いの薄れた現代でも楽しい仲間が居るのは嬉しい事なのかも。

「おっやっと来ましたか!遅番隊 待ってましたー」
「あれ、田中 もう出来上がってんの?」
「ひひひひ だって。楽しいッスもん。細谷さん僕の事思い出してくれました?」
「え」
「なに?田中、真由に忘れられてたの?ウケるー」
「あんたいつからここ入った?って真顔で聞かれた時はビビったっすよー」
「ごめんね。ちょいと疲れたのかな」
「そういえば、なんかゲッソリしてない?痩せた?」
「そうかな...」
「こっち向け」
はい?
亮さんが、私の下まぶたをグイーっと下に引っ張り
「おまえ 貧血」
店員さんを呼び 亮さんは
「レバニラ炒め ひとつ」
とつぶやいた。

あ 貧血か。もしかして食生活はあの戦時中のが反映されてる?!だとしたらかなり痩せた?? 
レバニラって、そんなすぐ効く?

「大丈夫っすか。細谷さん。ちゃんと食べないと!僕みたいにー」
田中はみんなにウケて得意げに唐揚げを頬張った。

明日の早番メンバーは帰れと亮さんに言われ、私達は店を出た。
亮さんも出てきた。
「あれ?早番すか明日?」田中が聞く
「遅番だ」
「浅井さんこっちじゃないんすか?」
「あぁ こいつ送っていく」
「じゃー僕もご一緒し..」
「帰れ 田中」
「はい」
なにこれ。亮さんこんな事したら変な噂立ちますよ。すぐ話つくるんですから、みんな。特に田中は怪しい。

「ふらつかないか?3食ちゃんと食ってるか?」
「自炊で大したものしてなくて。ちゃんと食べます。はい!プルーンとか、肉とか」
こないだまで、いものツルでしのいでましたとは言えないよなぁ。
「今度飯行くぞ」
「え?あ はい。」
前の私ならこんな事言われたら、有頂天で天にも登っただろうに。
今の私は...夜道を歩くだけであの晩を思い出す。
もぅあの時代には戻らないんだろうか...

私はスマホで昭和20年の出来事を見ながら
寝落ちした...
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