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昭和48年編

俺たちとやらない?Remember me

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(♪~ギターの音)
 亮さんがこの時代でロン毛になって、涼しい顔で穏やかにギターの手元を見ながら弾き音を奏ではじめた。

覚えていますか~あの道 あの夜 手をつないだ
きっと~貴方は~も~う 居ない~
Remember me oh oh~

 私は村上さんについて歌うが、衝撃の事実を知った。村上さん.....音痴だ。
マッチャンが薄気味悪い笑顔で立つ。きっと笑うのをこらえた結果だ。

「よし。真由ちゃん、メインで歌って今日」
はい?亮さんが真面目に言った。
「あの、私は...」
「大丈夫よ~真由。私がウェイトレスに専念するわ。みんなきっと喜ぶはずよ。真由が歌えば。素敵だもの。」
もう、恥ずかしいったらありゃしない。
母は昔歌手になりたかったらしいけど。

 お客さんが増えてきた。このマーガレットはミュージック喫茶とかフォーク喫茶のよう。アマチュアがステージに立ちそれが人気の店でもあった。

 マッチャンと亮さんが機材をイジっている。
マイクを2つ出し、1つのボリュームだけを下げようと。
「あの、楽譜ありますか?」
「ああ!そうだね。渡すよ」
私はなんとかやり切る為.楽譜を睨みつけて音程、メロディをイメージした。ってなんでこんな事に.....。

 あの一曲をなんとか歌った。Remember meを。
ほんと、私が言いたいよ。リメンバーミー 亮さん。

 ステージが終わると拍手が。女性客は涙してる.....嘘でしょ。きっとセンチメンタルな人なんでしょう。
「あなたすごいわ。心にジーンとくる歌声、せつない歌声」
「あ ありがとうございます。」
そんなこと言われたらちょっと嬉しすぎます。

 村上さんと亮さんは席に付き飲み物を頼んだ。亮さんに水とオレンジジュースを運ぶ。
「真由ちゃん、俺たちとやらない?歌」
「はい??」
亮さんがそう投げかけ私をじっとみている。
ドキッとする素敵な真顔に惚れ惚れする。彼の目は私を知らない目をしてる.....。
そうだ。亮さんと一緒に過ごして一緒に戻らなきゃ。
「はいっ。おねがいします。」
私は職場同様、亮さんにおねがいしますを言った。

―――こうして、私の昭和48年が、はじまった。記憶のない亮さんと。

「やったー。やったね。亮」
「あぁ」
「じゃあさ、練習の時ここに声かけに来るね。」
 亮さんとは対象的なタイプの村上さんはつぶらな目をキラキラさせている。
「はいっ。今日のお駄賃です」
「え、そんないただけません。」
「真由ちゃんを歌い手として、僕らがスカウトしたわけですから。受け取って」
この村上さんは御曹司らしく、こんな感じである。

 亮さんは何者なんだろう。
「行くぞ ぼっち」
ぼっち?村上さんのあだ名かな。二人は仲良く自転車で帰った。

 次の日もまた次の日も変わらず私はマーガレットにいた。
ここにはお風呂もない。
私は銭湯に通う。これがなかなかいい贅沢気分。
いつものように、夜銭湯へ行っていた。商店街を抜けて、角にある『東屋あずまや
湯上がりになにか飲みたくなるが、我慢我慢。
私はかなり貧乏らしい.....。

 髪を拭きながら立っている男性。
秋だというのに半袖にスウェットみたいな。そういう私もハワイアンみたいな柄の絶対着ないワンピースを寝間着替わりにと、着ていた。

振り返る男性。
「亮さんっ。」
「おっ。風呂なしか。」
私達は、商店街を歩く。亮さんの顔を見たら今の状況を訴えて元の時代に戻ろうって言いたくなるけど、戻る術が分かるはずがない。

「俺ここだから」
「薬局?」
「うん。親戚の薬局で働いてる」
「へー」
これだけの会話で帰っていく亮さん。でも、去り際にもう一度振り向いて手を上げた。
平成の亮さんより少し愛想が良い?かも。

 翌日、朝の準備中にぼっちこと村上さんがやって来る。
「真由ちゃん!亮の応募してたコンテストに出るよ!」
「コンテスト?」
「抽選で当たったんだ!」
抽選?オーディション的なものかな。
えっ私 また歌うの?
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