2 / 27
逃げた王妃の代わり?・・・『あの、無理ですが打ち首も嫌でございます』
しおりを挟む
王の間でひとり呆然としていたらカヤさんが慌ただしくやって来て声を抑えながらも興奮冷めやらぬ様子で早口で語りだした。
「まず、神託により選ばれここのサンサ殿下に輿入れしたセリ様が、セリ様にそっくりだと!」
「あああ、う で、私と何が関係ありましょう?」
「は?ああ、そっくりである理由があるのです。」
「え?」
「セリ様には双子の姉君がおられます。」
「は?は 初耳です」
「ええ……その方はセリという名では無く、マリ様です。何故セリの名で妃になった?のか?もうっわかりませぬ。兎に角この城の皆はあなたをセリ様、つまり逃げた妃だと信じております。」
「で、では違うといいましょう。」
「だ、誰が信じましょう」
「え……」
私は田舎の母には拾われたと聞いていた。いわゆる捨て子。しかし大して不自由なく人の子として育てられ、不自由だったのは奉公にあがった後ミラク殿下のそばに置かれてからだった。幼少の記憶は……暗く狭い部屋だけおぼろげに覚えている。双子の姉や生みの親など覚えていない。
「セリ様失礼いたします。カヤ、ちょっと」
カヤさんはカヤさんより更に目がつり上がるほどに髪をピタリと結い上げ西と似たような長くふわりとした黒い衣を着た女に連れて行かれた。
ああカヤさんが居ないと……どうしよう。
違う部屋へ女官に連れられ入り、しばらくすると先ほどの女が戻る。
厳しい顔の彼女がふわりと衣を靡かせ入ってきた。目が釣り上がる程にぴしりと結った団子頭を下げる。
私もつられて深々と頭を下げた。
「貴女は、只今よりここの王妃、セリ様です」
「……は?はい?」
「申し遅れました。私はタオです。貴女はセリ様としてここに居ていただきます。」
「あの……」
「女を寄せ付けない殿下が神託により唯一認めた王妃です。しかし、姿を消しました故。貴女に代わりを務めていただきます。記憶を無くした王妃セリ様としてなら出来ますね?」
「いや、あの……状況がいまいち……」
「貴女は名前だけでなくお姿もよく似ています。さ、詳しいことはおいおい。身支度をしましょう。時間がありませぬ。すぐに皆が騒ぎます故。」
一切笑わなさそうなタオさんと女官にされるがまま、裾に泥が跳ねくたくたの黒い衣を脱ぎ、地まで着きそうな白い衣を着、腰紐を結ぶ。意味があるのか分からない薄手の透けたような水色の長く袖の無い羽織を重ね、白粉をぱたぱたはたき紅を指す。うーん顔がパキパキする。
「少々痩せてはいますが……そっくりです。髪はいつ洗われました?」
「ああっと、三日……いえもっと前です」
「では今宵、湯あみしましょう」
長い髪は念入りにつげの櫛が通るまで梳かれ、紐で緩く縛り、頭を揺らすとシャランと金属がぶつかる音がする。そして女官が香を炊く。私、そんな臭いのだろうか。
「それから!」
「あぁっ驚いた」
「私とカヤ以外の者に、貴女が本物ではないと決して言ってはなりません。言えば虚偽の罪で私もろとも打首。」
「う 打首?!は はい。肝に命じます」
タオさんが出ていきしばらく着飾った鏡台の中の自分と見つめ合う。はあ……どうしよう。もうさっぱり……。やっぱり断ろうか……私が見ず知らずの姉だか王妃の代わりなんて出来るわけがない。
「まず、神託により選ばれここのサンサ殿下に輿入れしたセリ様が、セリ様にそっくりだと!」
「あああ、う で、私と何が関係ありましょう?」
「は?ああ、そっくりである理由があるのです。」
「え?」
「セリ様には双子の姉君がおられます。」
「は?は 初耳です」
「ええ……その方はセリという名では無く、マリ様です。何故セリの名で妃になった?のか?もうっわかりませぬ。兎に角この城の皆はあなたをセリ様、つまり逃げた妃だと信じております。」
「で、では違うといいましょう。」
「だ、誰が信じましょう」
「え……」
私は田舎の母には拾われたと聞いていた。いわゆる捨て子。しかし大して不自由なく人の子として育てられ、不自由だったのは奉公にあがった後ミラク殿下のそばに置かれてからだった。幼少の記憶は……暗く狭い部屋だけおぼろげに覚えている。双子の姉や生みの親など覚えていない。
「セリ様失礼いたします。カヤ、ちょっと」
カヤさんはカヤさんより更に目がつり上がるほどに髪をピタリと結い上げ西と似たような長くふわりとした黒い衣を着た女に連れて行かれた。
ああカヤさんが居ないと……どうしよう。
違う部屋へ女官に連れられ入り、しばらくすると先ほどの女が戻る。
厳しい顔の彼女がふわりと衣を靡かせ入ってきた。目が釣り上がる程にぴしりと結った団子頭を下げる。
私もつられて深々と頭を下げた。
「貴女は、只今よりここの王妃、セリ様です」
「……は?はい?」
「申し遅れました。私はタオです。貴女はセリ様としてここに居ていただきます。」
「あの……」
「女を寄せ付けない殿下が神託により唯一認めた王妃です。しかし、姿を消しました故。貴女に代わりを務めていただきます。記憶を無くした王妃セリ様としてなら出来ますね?」
「いや、あの……状況がいまいち……」
「貴女は名前だけでなくお姿もよく似ています。さ、詳しいことはおいおい。身支度をしましょう。時間がありませぬ。すぐに皆が騒ぎます故。」
一切笑わなさそうなタオさんと女官にされるがまま、裾に泥が跳ねくたくたの黒い衣を脱ぎ、地まで着きそうな白い衣を着、腰紐を結ぶ。意味があるのか分からない薄手の透けたような水色の長く袖の無い羽織を重ね、白粉をぱたぱたはたき紅を指す。うーん顔がパキパキする。
「少々痩せてはいますが……そっくりです。髪はいつ洗われました?」
「ああっと、三日……いえもっと前です」
「では今宵、湯あみしましょう」
長い髪は念入りにつげの櫛が通るまで梳かれ、紐で緩く縛り、頭を揺らすとシャランと金属がぶつかる音がする。そして女官が香を炊く。私、そんな臭いのだろうか。
「それから!」
「あぁっ驚いた」
「私とカヤ以外の者に、貴女が本物ではないと決して言ってはなりません。言えば虚偽の罪で私もろとも打首。」
「う 打首?!は はい。肝に命じます」
タオさんが出ていきしばらく着飾った鏡台の中の自分と見つめ合う。はあ……どうしよう。もうさっぱり……。やっぱり断ろうか……私が見ず知らずの姉だか王妃の代わりなんて出来るわけがない。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
追放された悪役令嬢は辺境にて隠し子を養育する
3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)
恋愛
婚約者である王太子からの突然の断罪!
それは自分の婚約者を奪おうとする義妹に嫉妬してイジメをしていたエステルを糾弾するものだった。
しかしこれは義妹に仕組まれた罠であったのだ。
味方のいないエステルは理不尽にも王城の敷地の端にある粗末な離れへと幽閉される。
「あぁ……。私は一生涯ここから出ることは叶わず、この場所で独り朽ち果ててしまうのね」
エステルは絶望の中で高い塀からのぞく狭い空を見上げた。
そこでの生活も数ヵ月が経って落ち着いてきた頃に突然の来訪者が。
「お姉様。ここから出してさし上げましょうか? そのかわり……」
義妹はエステルに悪魔の様な契約を押し付けようとしてくるのであった。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです
藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。
家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。
その“褒賞”として押しつけられたのは――
魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。
けれど私は、絶望しなかった。
むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。
そして、予想外の出来事が起きる。
――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。
「君をひとりで行かせるわけがない」
そう言って微笑む勇者レオン。
村を守るため剣を抜く騎士。
魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。
物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。
彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。
気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き――
いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。
もう、誰にも振り回されない。
ここが私の新しい居場所。
そして、隣には――かつての仲間たちがいる。
捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。
これは、そんな私の第二の人生の物語。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります
cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。
聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。
そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。
村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。
かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。
そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。
やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき——
リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。
理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、
「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、
自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる