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西国の噂話(サンサ視点)
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「で……殿下、お人払いを願います」
朝の議の後、文官のトンガが一人残る。
「なんだ?」
「……殿下、西国の噂を聞きました。人の噂故……信憑性があるかないかは……」
「かまわぬ。はよう 申せ」
「……はい。西の国王ミラク殿下が新たな妃をとったと……」
「二人目か?」
「いえ、前妻を追い出したそうです。これまで目立たなかった西国の妃は追い出された妃として今や西国の民から可愛そうだと人気が上がり、絵が出回っているそうで」
「はあ……それがどうした?」
「その絵が……これです」
トンガは息を呑むように緊張した様子で、巻物を徐に取り出し机にそれをゆっくりと開く。
「……これは」
「はい。セリ様によく似ております。他人の空似だとしても……」
「この絵の前妃はいつから西国の妃だ?」
「……たしか、五年前かと。」
「……ならばセリのはずがない」
「……はい」
「名は?」
「名は何種類も出回り定かではありません」
もし今私のそばにおるセリがこの絵の女だとすれば……元々ここに居たセリとは別人だとすれば、辻褄が合う。ミラクの名を悪夢の中呼ぶのも分かる。
「トンガ、何故この妃は追放された?」
「子を授からず、西国の王は酒浸りで女好きな故に捨てられたとか……飽きられたとか。妃は食事も奴婢と同じような物を食べたり、時には食事すら無かったとか。そんな暮らしでも逃げることは無かったようで」
「そうか、この絵は私が預かる。それと、この事は他言無用。ただの噂話としよう」
「はい。殿下」
トンガも恐らくはセリの素性を疑ったであろう。わざとこの噂を西国が流し、セリではないセリにそっくりな元妃をこちらに送り込んだか……?
しかし、毎晩私の隣でただ眠り、散歩し、この国について学び……何がしたいのだ。
私の死後にやはり、国を乗っ取る魂胆か……。
「タイガを呼んでくれ。急ぎで調べることがある」
「はい 殿下」
◇
「サンサ殿下、それはまことに……。ではあの、セリ様になりすましているセリ様が国を乗っ取る?!まさか ぐ」
とタイガは笑う。私の読みが馬鹿げているとでも言った調子だ。
「何故笑う」
「ああ 失礼。セリ様は俺の顔を見る度、『サンサ様は何が好きでしょうか』『サンサ様は何をお望みでしょうか』とまるで、大事な人を気にかける優しい女の顔をしておられました。俺にはそんな風には……ま、女を見る目は無いですが……」
「それもみな芝居やもしれん。あの女に問う。……カヤ。タイガ、お前はセリの生い立ちを調べてくれ。神託で名指しされ城に来たがあのセリの家族は本物か、セリに姉妹はまことに居ないか、調べてくれ。」
「はい。殿下」
私は、セリ本人ではなく、付いて来たカヤを問いただすことにした。セリは、妃らしい教育がされている。感情を表に出さぬ心の強さをもっておる。ならば、容易に吐くはずがない。その点あのカヤは、武術には長けているがうちのタオよりは抜けがある。
「失礼いたします。カヤでございます」
「入れ」
「あ はいっ」
ほれ、私に呼び出されたらもうしどろもどろしているではないか。
「周りくどい話は嫌いだ。」
「は はい」
「お前は、何者だ?」
「わ……私はセリ様のお付きの者です」
「そうか、いつからあの者のそばにおる?」
「えぇっと、子供の頃からです」
「……では、セリに姉か妹はいるか?」
カヤがこちらをじっと見た。どうやらこの女は全てを知っているらしい。観念したのか、私に言って良いか迷っているのか。
「おるのだな。私は今、お前と、お前と共に戻ったセリを怪しんでおる。本物ではないとな……。しかし、その目的が我が国にとって不利益であるかどうかが問題だ。本物かどうかはその後だ」
「不利益では……。利益も何もありません!私達はただ城に引っ張りこまれたようなもので……。セリ様がセリ様にそっくりだと騒がれ……それは、セリ様は知らぬことでした。」
「お前は今、セリは本物でないと言ったか?」
「あ……」
「今宵の議にセリも同席する。精々準備しろ」
「準備……とは?あ、あの」
「皆がセリが何故戻ったか問いただすであろう。記憶を無くした後、どこで何をしていたかを準備しろと言っているのだ」
「あ はい……え?」
「もうよい。下がれ」
「は はい 殿下」
ったく。間抜けな顔をしよって……下手に立ち回れば良からぬ事態を生むやもしれん。全く危機感がないのかあの付き人は。
朝の議の後、文官のトンガが一人残る。
「なんだ?」
「……殿下、西国の噂を聞きました。人の噂故……信憑性があるかないかは……」
「かまわぬ。はよう 申せ」
「……はい。西の国王ミラク殿下が新たな妃をとったと……」
「二人目か?」
「いえ、前妻を追い出したそうです。これまで目立たなかった西国の妃は追い出された妃として今や西国の民から可愛そうだと人気が上がり、絵が出回っているそうで」
「はあ……それがどうした?」
「その絵が……これです」
トンガは息を呑むように緊張した様子で、巻物を徐に取り出し机にそれをゆっくりと開く。
「……これは」
「はい。セリ様によく似ております。他人の空似だとしても……」
「この絵の前妃はいつから西国の妃だ?」
「……たしか、五年前かと。」
「……ならばセリのはずがない」
「……はい」
「名は?」
「名は何種類も出回り定かではありません」
もし今私のそばにおるセリがこの絵の女だとすれば……元々ここに居たセリとは別人だとすれば、辻褄が合う。ミラクの名を悪夢の中呼ぶのも分かる。
「トンガ、何故この妃は追放された?」
「子を授からず、西国の王は酒浸りで女好きな故に捨てられたとか……飽きられたとか。妃は食事も奴婢と同じような物を食べたり、時には食事すら無かったとか。そんな暮らしでも逃げることは無かったようで」
「そうか、この絵は私が預かる。それと、この事は他言無用。ただの噂話としよう」
「はい。殿下」
トンガも恐らくはセリの素性を疑ったであろう。わざとこの噂を西国が流し、セリではないセリにそっくりな元妃をこちらに送り込んだか……?
しかし、毎晩私の隣でただ眠り、散歩し、この国について学び……何がしたいのだ。
私の死後にやはり、国を乗っ取る魂胆か……。
「タイガを呼んでくれ。急ぎで調べることがある」
「はい 殿下」
◇
「サンサ殿下、それはまことに……。ではあの、セリ様になりすましているセリ様が国を乗っ取る?!まさか ぐ」
とタイガは笑う。私の読みが馬鹿げているとでも言った調子だ。
「何故笑う」
「ああ 失礼。セリ様は俺の顔を見る度、『サンサ様は何が好きでしょうか』『サンサ様は何をお望みでしょうか』とまるで、大事な人を気にかける優しい女の顔をしておられました。俺にはそんな風には……ま、女を見る目は無いですが……」
「それもみな芝居やもしれん。あの女に問う。……カヤ。タイガ、お前はセリの生い立ちを調べてくれ。神託で名指しされ城に来たがあのセリの家族は本物か、セリに姉妹はまことに居ないか、調べてくれ。」
「はい。殿下」
私は、セリ本人ではなく、付いて来たカヤを問いただすことにした。セリは、妃らしい教育がされている。感情を表に出さぬ心の強さをもっておる。ならば、容易に吐くはずがない。その点あのカヤは、武術には長けているがうちのタオよりは抜けがある。
「失礼いたします。カヤでございます」
「入れ」
「あ はいっ」
ほれ、私に呼び出されたらもうしどろもどろしているではないか。
「周りくどい話は嫌いだ。」
「は はい」
「お前は、何者だ?」
「わ……私はセリ様のお付きの者です」
「そうか、いつからあの者のそばにおる?」
「えぇっと、子供の頃からです」
「……では、セリに姉か妹はいるか?」
カヤがこちらをじっと見た。どうやらこの女は全てを知っているらしい。観念したのか、私に言って良いか迷っているのか。
「おるのだな。私は今、お前と、お前と共に戻ったセリを怪しんでおる。本物ではないとな……。しかし、その目的が我が国にとって不利益であるかどうかが問題だ。本物かどうかはその後だ」
「不利益では……。利益も何もありません!私達はただ城に引っ張りこまれたようなもので……。セリ様がセリ様にそっくりだと騒がれ……それは、セリ様は知らぬことでした。」
「お前は今、セリは本物でないと言ったか?」
「あ……」
「今宵の議にセリも同席する。精々準備しろ」
「準備……とは?あ、あの」
「皆がセリが何故戻ったか問いただすであろう。記憶を無くした後、どこで何をしていたかを準備しろと言っているのだ」
「あ はい……え?」
「もうよい。下がれ」
「は はい 殿下」
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