『殿下、私は偽物の妃です』赤狸に追放された妃は青の国で逃げた妃の代わりに・・・殿下は冷めた豹君主

江戸 清水

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良いか?・・・『この御方に付いていこう』

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 私の生まれは東だからか、やはりセイの国が落ち着くような気がする。

 夜になり改めてサンサ様と夫婦の部屋で過ごす。
 背を向けたサンサ様は静かに急須から茶を注いでいた。
「あっ私が」
「よい。座っておれ」
「あ はい」

 そして椅子に掛けて向かい合う。
 久しぶりにちゃんと見るとやはり美しい……お顔……。あ!その薄い唇が……ふと昼の出来事を思い出し直視できなくなった。

「どうした?具合が悪いか?それとも……南におりたかったか?」

「とんでもありません。私はここが好きです。あ、東が私の血には馴染むような気がするのです。緑が多く川が美しい景色に、このお茶も」

「その茶は、西の茶だ」

「え そ そうでしたか」

「帰って来たかったのならよい。」
「はい。あの、私がまことに神託により定められた妃だと聞きました。私で良いのでしょうか?西では追い出された役立たずの王妃でした。サンサ様に言えずにいて申し訳なく思います」

「知っている。気にしなくて良い。だが……」

 だが……なんだろう、サンサ様が躊躇うのはあまり見たことがない。

「だが、南はどうだ?」
「南?ヒュウイ様ですか?」
「ああ ヒュウイとは、その……何かあったか?」
「いえ。何もありませんでした」
「…………?!そんなはずは無い。あの男だ」

 そんなはずは無いと言われても、ないものは無い。

「私が痩せ細ってふらふらだから抱かないと言われました。ですから、出された物も死なぬ程度の量だけ口にして常に空腹を保っておりました」
「何故だ?」

 何故だ?!そこ、問返すべき点でしょうか……。

「何故なら……あ、それは……だ 抱かれたくなかったからです……。」
「…………」

 え?聞いておいて無視……。反応の無いサンサ様は茶を啜り小さなため息をついた。

「これからは真の夫婦だ。西も南も、セリが守護神だなんだと奪おうとするであろう。しかし、私は譲る気はない。良いか?」

 よ、良いか?ってそんな鋭く真っ直ぐな眼差しを向けられては……固まってしまう。

「先ほどのような事もするであろう」
「はいっ。良いです。良いでしょう」

 あ?先ほどのような事?!
 返事を確認すると、サンサ様は私の背後へまわり髪を持ち片方へ流した。そしてあの首飾りを付けたのだ。マリが奪った瑠璃の首飾り。

「これは……マリが」
「ああ。これはお前の首飾りだ。」
「……はい」
「ここに帰ったのだ。心行くまで食べるが良い」
「はい。ありがとうございます」
「いずれ世継ぎも必要だ。お産に耐える体にならねばな」
「…………」
 世継ぎ……お産……。
 サンサ様は君主として、世継ぎはもちろん、神託により私を妃とするのが当たり前のこと。何もおかしな事はない。何も……。冷静に着実にこの国を安定させる事を願ってのこと。それが君主たる者の努め。そう、何も期待してはいないし、してはならない。愛されたいなど望めばまた捨てられたら……きっと私は耐える自信がない……あの虚しさに。

 本当はユア様がお好きなのかとか頭をよぎるけれど、気にしてはいけない。私もその王妃としてお役目を全うしなければ。平凡に、誰かの女房になり笑いながら暮らす日々からは遠いかもしれないけれど……サンサ様は西のミラク様のような男ではないはず。きっと大丈夫、このお方に付いていけば大丈夫。

「さあ、そろそろ寝る」
「はい」

 サンサ様は背を向けずこちらを向いて寝転がり左腕を伸ばした。

「…………あの」
 座ったままどこへ頭を置けばよいか戸惑う。

「どの道、夜が更ければここに乗る。まあ好きにしろ」
 とサンサ様は目を閉じた。

「では……」
 遠慮がちに、そっと辛うじてその左腕に頭を乗せ布団へ入る。そういえば明かりも小さく灯されていた。
 閉じた瞳を見つめて、心の中でありがとうと呟いた。

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