『殿下、私は偽物の妃です』赤狸に追放された妃は青の国で逃げた妃の代わりに・・・殿下は冷めた豹君主

江戸 清水

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夫婦らしく?・・・『って何だろう』

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「カヤさん!もう大丈夫なのですか?」

「セリ様!私ならピンピンしております。全てはセリ様のおかげ。でも危険な真似はご勘弁を。後から聞いたから良かったものの、心臓が止まるかと思いました。万が一殿下が気付かずにセリ様がマリ様とされ刑に処されでもしていたら。あああ 恐ろしい」

「けれどサンサ様はすぐにお分かりになりました。それを逆手に取り西の奇襲を追い払って」
「セリ様、嬉しそうですね?」
「え」
「いいですね~いいですね~」
「カヤさん、私も訓練したいのです」

 これからいつ何時奇襲や戦が起こるか分からない。自分の身は自分で守らなければと弓矢しか知らない私は剣術を学びたくなった。

「は?剣ですか?」
「はい」
「いやいやいやいや 危ないですよ。私がお守りしますから」
「ダメです。矢は切れたら終わり。この間も私のせいで皆様を危険に晒しました。私のような者は矢から逃げるのが精一杯。万が一敵が目の前にこれば終わりです。私はサンサ様の御命を預かっているのです。やらなければ……」

「いいじゃないか。カヤ 俺は教える気になりました!」
 大きな声でタイガ様がニコリとする。
「仕方ないですね……いつからこんな頑固になったのか」
 カヤさんも渋々了承してくれたようだ。


「こ、こんなに重い……」
「あはははっ」
 剣がこんなに重いとは知らなかった。こんな物を振り回すなんて。
 タイガ様が私の手首に布をキツめに巻いた。
「初めは手首を壊さないようにこうしましょう。さ、まずは……そうだ!こちらが敵の兵でセリ様を追い詰めたとします。さ、来てください」

「はっ」

 振り上げた剣を振り下ろす。そしてその剣は呆気なくふっとばされた。

「駄目ですね……カヤ、予備の剣は?ほら軽めの」
「ああ、私が西から持ってきた剣なら」

 カヤさんの剣を借りる。軽い、これならまだ振り回すことは出来そうだ。

「軽い剣は折れやすい、なるべく敵と刃を合わさずに射止めるにはより術に長けているべきです」

「はあ……」

 それ以来。毎日カヤさんに特訓を受けた。食事もたくさん食べ、腕力も体中の筋力、そして持久力をつけるため山を走る。


 ◇


「最近、死んだように眠りこむのは訓練のせいか……?何もお前を戦場へ駆り出す気はない」

 寝る前にサンサ様は不機嫌そうな様子。私が剣を握るのは好まないようでタイガ様が声をかけても稽古する場に来てくれたことはない。

「私、強くなりたいのです。サンサ様を守れるくらい……強く」

「ぶっ」
「…………?」
 サンサ様はぶっと吹き出すように笑った。

「お前が私を守る?どれほど腕を上げたか、明日相手をしよう」

「はい!」

「それから……」
 な なんでしょうか。じっとこちらの顔を見て、言葉を選んでいるのか次の言葉が無い。
「はい それから……?」
「お前が私を守ると言うなら、役目をひとつ忘れてはいないか?」
「私の役目……ですか?」
「はあ」

 考え込んだ私にガッカリしたように溜息を落としたサンサ様。最近あからさまに大げさにこうして溜息をはく。

「……これだ」
 そう言うとサンサ様は私に近づき顎をぐいとつまんだ。そしてその美しいお顔を近づける。
 薄い唇が触れた。先程飲んだ茶の香りが漂う。私からはきっと甘い杏が口周りに残っている……しかしその薄い唇は止まらずに私の唇から離れずに吸い付く、何度も咥えるように重なる唇。
 あ……と戸惑いながらも力がふわりと抜けた拍子に舌が入り込んできた。

「ん……」

 もっもしかして、このまま……
 激しい舌使いに口は完全に覆われて身動きが取れなくなった。私を力いっぱい抱きしめたサンサ様はやっと唇を離す。

「まるで……初めてのようだな」
「あ え?!」

 初めてでは無い。けれどこんな口づけは初めてに等しい。もどかしいような、なんだかぎゅっと心が締め付けられた。
 私の経験はミラク様だけだ。いつしか口づけなど無しに、押さえつけられ夜の行為を終わらせていた。
 愛のカケラもなかった。

「私の妃なら、夫婦らしくあらねば……余命にかかわると思うてな……」
「あ、はい。そ そうです そうでございましょう」
 動揺した私はおかしな返事をした。

「寝る」
「あ はい」

 心臓の鼓動は眠るには難しい程に激しい。
 この先夫婦らしく関係を深めるにしても、私は愛され方を知らないのでは無いだろうか。
 サンサ様の言う夫婦らしさとは、何だろう。
 もし、それが愛だとしたら……愛とは何?
 サンサ様は、私を仕方なく側に置いているのでは無いのだろうか。だめだ、また愛されたいと思っている自分を胸の奥に押し戻そう。
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