ヤンキーVS魔法少女

平良野アロウ

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第二章 最終予選編

第34話 最強の傭兵

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 死神に例えられる男がいた。軍事に携わる人間で、その名を知らぬ者はいない。
 その男にとって戦争とはビジネス。国、思想、宗教を問わず高額の報酬さえ貰えれば誰にでも味方し、軍を勝利に導く。
 最強の傭兵デスサイズ。戦争に勝ちたければこいつを雇えと、ある国の指導者は言った。
 ただ冷徹に、人を殺すことに何の感情も無いかの如く出会う敵を片っ端から殲滅させる。圧倒的な戦闘のセンスを持つその男と戦場で対峙した者は、誰もが死を覚悟する。
 だがその男が決して血も涙も無い殺人マシーンではないことは、死神の鎌デスサイズというコードネームを名乗っていることが示している。
 自ら付けたコードネームの真意。それは自分を使って戦争をする者達への彼なりの皮肉なのである。

 この魔法少女バトルという戦場に、最強の傭兵は立っていた。
 よもや異世界に雇われる日が来ようとは……とは本人の談。
 決して人が死ぬことも傷つくこともないこの戦場で、デスサイズはいつものように淡々と魔法少女を倒し続けていたのである。
 そしてその鎌は、智恵理と梓の首筋にも掛けられようとしていた。
「さ、さあ出てきなさい!」
 智恵理は杖の先端に魔力を溜め、相手を威嚇する。だが、敵が出てくる気配は無い。
「ここは私がやるわ」
 梓は弓を引き、一本の矢を茂みに軽く放った。茂みの中から、デスサイズが飛び出す。
「あいつ、ハンターの!?」
 機関銃を連射しながら、こちらに向かってくるデスサイズ。
「ひぃっ!?」
 智恵理と梓は何発かその弾を身に受ける。普通ならばこれで蜂の巣になりお陀仏だが、これは魔法少女バトル。銃弾を受けても少しHPが減るだけで済んでいた。
 梓はこの状況に素早く対応。機敏な動きで銃弾をかわしつつ、智恵理の衣装を掴んで引っ張り、智恵理にも弾を避けさせる。更に隙を見て矢を放ち、反撃にも出た。
 銃身で矢を叩き落すデスサイズ。更に懐から手榴弾を取り出し、二人に向かって投げた。梓は矢で空中の手榴弾を狙い撃ち、射抜かれた手榴弾は砕け散る。光と爆風から身を守るため二人が顔を伏せた隙に、デスサイズは拳銃で撃った。
「っ……マズいわね。逃げるわよ、智恵理!」
「う、うん!」
 梓は強い閃光を放つ矢を地面に撃ち、デスサイズの目を眩ませる。そしてそこから一目散に逃げ出した。

「どうやら、二人はデスサイズから逃げ果せたみたいカニな」
 手に汗握っていたカニミソは、やっと緊張の糸が解ける。
「いや、そうとも限らんよ」
 ビフテキが言う。カニミソは目を丸くしてビフテキを見た。

 二人は暫く走った先で、大きな樹の裏に隠れていた。
「ううー、まさかハンターと出くわすなんて最悪ー!」
 泣き言を言う智恵理。
「静かに。誰か近づいてきてる」
 梓は身を隠したまま、顔だけ後ろを向いて背後の敵の気配を探る。
 こちらに歩み寄ってくるのは、銃を手にしたデスサイズである。
「さっきのハンター、ここまで追ってきたみたいね」
「嘘っ!? 無理無理あんなのと戦えないって!」
「そうね。ハンターとの戦いは避けるべきと説明でも言っていたし。ただ、問題はここからどうやって逃げればいいかだけど」
 と、その時一発の銃弾が梓の頬を掠めた。
「っ……どうやら、戦いを避けるのは厳しそうね」
 梓は体の向きを変え、振り返りざまに矢を射る。デスサイズはその矢を手で掴みへし折った。
「戦うわよ智恵理。お互いMPの補充はさっきの戦いで済んでるはずだし、HPもまだ十分にある。勝ち目の無い戦いではないわ」
「え? う、うん」
 智恵理は何となく梓ならそう言いそうな気がしていた。梓はこう見えて意外と好戦的である。自衛意識が強く、降りかかる火の粉は自ら掃いに行くのが彼女のやり方なのだ。
「えーいもうやってやる!」
 杖を構え、デスサイズの前に姿を現す智恵理。デスサイズはすかさず発砲するも、その一撃は光の盾に防がれる。
「傭兵だか何だか知んないけど、あたしだってここまで勝ち残った実力者なんだ! そう簡単に負けたりしない!」
 杖の先端に魔力を溜めた智恵理が、デスサイズを挑発しながら駆け出す。デスサイズが弾丸を撃つ度、後方の梓が矢の盾で智恵理を守りサポート。
 デスサイズに接近した智恵理は、魔力を溜めた杖の先端で殴りかかる。だがデスサイズは智恵理の手首を掴むと、そのまま鳩尾に膝蹴りを入れてきた。強烈な一撃を受けて隙を晒した智恵理をデスサイズは組み伏せ、ナイフでとどめを刺そうとする。だがそこに梓が矢を放ち、デスサイズは跳び退いた。
「智恵理、大丈夫!?」
「う、うん」
 起き上がった智恵理は、すぐさま魔力弾を連射。デスサイズは風のように走ってそれを避けてゆく。
「梓! そっちに行ったよ!」
 デスサイズは弧を描くように走り、梓の後ろに回り込もうとする。梓はそちらに矢を射るが、デスサイズは平然とそれを手掴みし投げ返す。更にそこから拳銃を抜き、梓を数発撃った。
「っ……!」
 相手の攻撃を受けつつも後退りしながら矢を放つ梓。更に智恵理が後ろから魔力弾を発射し、挟み撃ちを狙う。
 だがデスサイズは姿勢を低くして二つの攻撃を避けると、手榴弾のピンを抜き智恵理の足下に投げた。
「ひっ!?」
 驚いたのも束の間、弾けた手榴弾によって智恵理は吹き飛ばされる。
「智恵理!?」
 智恵理を心配するあまり隙を晒した梓の心臓目掛けて、デスサイズはライフルで狙撃。梓は身を捩じらせて避けるも、それを見越して放たれた追撃の弾丸が身を撃つ。
 倒れる梓に更なる追撃をかけようとするデスサイズだったが、智恵理の魔力弾が飛んできたことで攻撃の手を止め避けることに専念した。
 梓は空中に矢を放ち、それが分裂してデスサイズへと矢の雨を降らす。退避するデスサイズには何本か矢が当たるものの、HPのシステムはハンターにも適用されているため体が傷つくことはない。
 距離をとるデスサイズに対し、梓は次々と矢を撃った。デスサイズも機関銃に持ち替え、連射で反撃する。
 先程吹っ飛ばされた智恵理は、梓に駆け寄った。
「智恵理、無事だったのね。HPはどのくらい残ってる?」
「三割くらいだけど……」
「だったらまたさっきみたいに前衛やってもらうのは厳しそうね。別の作戦にするわ」
 二人はデスサイズと遠距離から撃ち合いながら話をする。
「ちょっと待って、何か作戦あるの?」
「ええ、あの技を使うつもりよ。でもそのためには溜める時間を作る必要がある」
「それであたしが時間稼ぎすればいいのね」
「そのつもりだったけど、HPのことを考えるとやめた方がいいわ。貴方は本来遠隔タイプだし……」
「大丈夫! あたし近接もいけるみたいだし。むしろ遠くからチマチマ撃ってるより性に合ってるっていうか。あの技ならあいつ倒せるんでしょ? だったらあたしに時間稼ぎやらせて!」
 智恵理はそう言うと、杖の先端に魔力を集めデスサイズの方へと駆け出した。デスサイズは銃剣を取り出し迎え撃つ。
 二人がぶつかり合った瞬間に、梓は一本の矢を放つ。その矢は無数に分裂して地面に刺さり、二人を囲う柵のようになった。
 無数の矢でできた柵の中に閉じ込められた智恵理とデスサイズ。そこで智恵理は杖を振り回し先端の魔力塊でデスサイズを殴ろうとする。だがデスサイズは巧みな銃剣術でそれをいなし、智恵理のHPを削ってゆく。
 我武者羅な攻撃も、デスサイズには全く通用していない。銃身で杖を押し上げられがら空きになった胴体に、銃剣が突き刺さる。
「だあああっ!」
 銃剣が刺さったまま、根性の雄叫び。振り上げられた腕を勢い良く振り下ろし、大打撃をぶちかます。
 大地を抉るほどの衝撃。その一撃が捉えたのは、デスサイズではなく大地だった。疾風の如く跳び退いたデスサイズに、渾身の一撃は届かない。
 デスサイズは再び前進し、銃剣で切りつける。ふらついた智恵理に、更にもう一撃。
(や、やられる……!)
 そう思った時だった。後方より救いの声が響く。
狐烈天破弓これつてんはきゅう!」
 その声を合図に、智恵理は魔力弾を地面に叩きつける。その衝撃によって智恵理の身は上空へと飛び上がった。直後、凄まじき一撃が智恵理の真下を通り、矢の柵ごと空間を撃ち抜いた。

 この技を使う時、梓の身に変化が訪れる。九つの尾が袴を突き破って生える九尾モード。この姿で弓を引けば、矢の先端に魔力が集中し白く発光をし始める。更に溜めを続けることで、九つの尾の先端にも魔力が集まり発光する。そして矢を手放し解き放った瞬間、九つの尾から放たれたビームが光の矢に収束し巨木の幹の如き極太のビームへと姿を変えるのだ。
 最早それは、弓矢の形をしたビームキャノンと形容すべきものであった。一撃の下にデスサイズを消し飛ばし、遥か遠くまで森を焼き払う。
「す、凄……」
 かろうじてそれを避けて着地した智恵理は、とんでもない馬鹿火力を目の当たりにして全身に鳥肌が立っていた。二次予選で梓との試合が中断されなければ、自分があれを喰らっていたのだ。
 ビームが消えた後にはバリアで包まれたデスサイズが残され、そのまま無言で消えていった。
「やった! あたし達勝ったんだ!」
「そうね……あら?」
 ふと、梓はMPが全回復していることに気がついた。ハンターを倒してもMPは回復しないと説明されていたにも関わらずである。
 だが、その疑問はすぐに解決した。空間ごと抉られたような焼け跡が遥か遠くまで続くのを見れば、答えは一目瞭然である。たまたま射線上にいた不幸な魔法少女を、少なくとも一人巻き込んで脱落させていたのだ。
 確かにここまでの威力があるならばあれだけ長い溜め時間が必要であると、梓は理解した。

「何という威力カニ……こんな大技を隠し持ってたカニか!」
 智恵理と同じ表情で、カニミソは愕然としていた。
「だが今回あの技が上手く決まったのは、鈴村智恵理のサポートあってのことです。一次・二次予選のような一対一のルールでは使い物にならないことに変わりはないでしょう」
 ザルソバが解説をする。
「あれでも最終予選が始まる前に特訓を繰り返し、溜め時間を可能な限り短縮させたのだがね。本来であれば雑魚相手でも決め技として何度も使用し続け、より短い溜めで撃てるようにするべきだったのだが……衣装のお尻の部分が破れるのが嫌だとかでね。あれでは宝の持ち腐れだ。全く困ったものなのだよ」

 デスサイズとの戦いを終えた梓と智恵理は、一息ついていた。
「梓、それ……」
 執拗に手で尻を隠す梓。尻尾は下着と袴を突き抜けて生えるため、技を終えて尻尾が消えた後は衣装のその部分にぱっくりと穴が開き、尻が丸見えになってしまうのである。
 本来とどめ用の技であるためこの状態はそう長くは続かないものであるが、この最終予選のルールではそうはいかない。ここから最終予選が終わるまで、梓は尻丸出しのままでいなければならないのである。
「迂闊だったわ……やっぱりあんな技使わず別の作戦をとるべきだった……」
 今更になって酷く後悔する梓。最終予選はまだ、始まって間もないのである。
「テレビカメラにここ、映ってないわよね……?」
 当然、魔法少女バトルは妖精界全国にテレビ中継されているのである。生尻が全国のお茶の間に晒されてしまうなど、耐え難いことであった。
「さ、さあ? とりあえずあたしが後ろにぴったりくっついてるから! 梓のお尻はあたしが守る!」

 そんな梓の恥ずかしい格好を見たくても見られないのが、ホーレンソーである。雨戸朝香の監視を自ら志願した手前、そこから目を離すわけにはいかないのだ。
「ホーレンソーどうしたカニ? さっきからウズウズして。体調悪いカニか? ミルフィーユさんに診てもらうカニ?」
「……いや、構わんよ」
 何もわからずに尋ねるカニミソに対しホーレンソーがそう言っていると、システムルームにデスサイズが転送されてきた。
「おや、お帰りなさいデスサイズさん」
「他の連中はどうした?」
「まだ戻ってきていませんよ」
「つまり俺が最初の脱落者か。焼きが回ったものだ」
「たまたま運が悪かっただけですよ」
 ばつが悪そうに言うデスサイズに、ザルソバがフォローを入れた。
「どうだねデスサイズ君、君もここで観戦してみては」
「ああ、そうさせてもらう」
 ビフテキの提案に乗ったデスサイズは椅子に腰掛け、モニターに映る魔法少女達の戦いを見始めた。
(これが魔法少女バトル……あいつの戦い抜いた戦場)
 ユニコーンの森内全域で激戦を繰り広げる魔法少女達を見て、デスサイズは遠い過去に思いを馳せた。


<キャラクター紹介>
名前:デスサイズ
性別:男
年齢:34
身長:188
髪色:焦茶
星座:蠍座
趣味:ダーツ
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