ヤンキーVS魔法少女

平良野アロウ

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第七章 インターバル編

第122話 どこにでもある普通のラブコメ

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 最強寺徹という男は、歳の差を気にせずグイグイ来る男だった。休日の度に美緒をデートに誘いに来たり、無償で美緒の家庭教師をやると申し出たり。美緒が不良や犯罪者を退治しに行くとあれば救急箱を持ってついてくる。
 たとえ相手が中学生であろうと、ひとたび惚れ込んだなら恥も外聞も無く積極的にアプローチをかけるのである。
 歳の差を考えると犯罪的にも感じるが、絶世の美男子が美少女に言い寄る姿は絵になることこの上なかった。
 対する美緒の方であるが、こういうことに慣れていないこともあって徹のアプローチを素直に受け止めることができず、つれない態度をとり続けていた。照れ隠しにエロ外人呼ばわりしながら殴る蹴るしたり、目を合わせようとしなかったり。それでもたまに耐えられなくなって轟沈すると、いつもの強気はどこへやら真っ赤になって縮こまっていた。
 美緒がそんな調子なので、くっつきそうでなかなかくっつかない二人。もどかしくじれったく、だけどそれがどこか心地よい日々。だがそれも長くは続かなかった。

 二人の出会いから半年が経った、美緒中三の夏。徹は日本を離れ一年間海外に滞在することとなった。それも行き先は、現在戦争の最中にある中東の国である。
「なあ……本当に行くのかよ」
「それが僕の仕事だから」
 会ったばかりの頃は他人行儀の敬語だった徹は、素の口調で美緒に接するようになっていた。
「何、心配することはないよ。僕なら大丈夫さ」
 不安に苛まれ徹のシャツをつまんで引き止める美緒とは裏腹に、徹は普段の穏やかな表情を崩さず楽観的。
「一年後、必ず帰ってくる。だから過度に失敗せずのんびりと待っていて欲しい」
 そうは言われても、好きな人が戦地に赴くと聞いて心配しない人はいないだろう。
 今想いを伝えるべきか。心の中ではそう思っても、行動に移せない。
 対峙する敵をぶちのめすのは簡単なのに、好きな人に想いを伝えるのがこんなにも難しいだなんて。
「そろそろ時間だ」
 徹はそう言うとシャツをつまむ美緒の手を下から掬うように引き剥がす。そして脚を曲げ体勢を低くすると、美緒の手の甲にそっと唇で触れた。
「それでは美緒さん、お元気で」
 頭から湯気を噴き固まる美緒に背を向けて手を振ると、徹は空港へと発った。
 最強寺徹は、これより妖精騎士・双子座ジェミニのユドーフに戻るのだ。


 徹が隣の家を出て行ってからというもの、美緒は以前にも増してケンカに明け暮れるようになった。
 東で喝上げがあったとあればぶん殴りに行き、西で痴漢があったとあれば蹴っ飛ばしに行き、北で強盗があったとあればぶちのめしに行き、南で不良グループ同士の抗争があったとあれば両方ボコボコにしに行った。
 徹の存在が若干ながら美緒を戦いの世界から引き離していたことは確かだった。ストッパーがいなくなったことと荒んだ気持ちと寂しさが、美緒をケンカへと駆り立てたのである。

 それでも美緒は、一時たりとも徹のことを忘れたことはなかった。彼が隣の家に帰ってくる日を、ただひたすら待ち続けた。あの日言えなかった想いを、今度こそ伝えようと胸に誓って。
 徹が帰ってくるのは一年後、と漠然と伝えてはあったが、実のところいつ帰ってくるかは大会の動向に左右される。最終予選の定員に達するまで魔法少女が減らなければ二次予選は終わらないため、それまで徹は帰りたくても帰れないのである。
 結局彼が日本に戻ったのはきっちり一年後、美緒高一の夏であった。

「ただいま美緒さん」
 夕焼けが空を照らす頃、徹はそれが一年ぶりとは思えぬほどごく自然に帰ってきた。
「おっ、おま……こんな突然っ……」
 ラフな部屋着姿で何気なく玄関の扉を開けた美緒は、唐突に帰ってきた好きな人を見てしどろもどろになっていた。
「せめて連絡くらいしろよ!」
「美緒さんを驚かせたいと思ってね」
 悪気の無さそうな笑顔を向けられて、美緒はくらっと行きそうになった。何せ一年ぶりのことである。
「いやせめてこっちにも出迎える準備くらいさせろって言ってんの! こんな格好で……」
 そう言って顔を下に向けると、今の格好はノーブラの上にタンクトップ一枚。しかも汗で体に張り付いて、先っちょまで形くっきり。美緒は全身に電流が流れたようにばっと動き、両掌で胸を隠した。ちなみに下はちゃんと短パンを穿いているものの、インターホンを聞いて玄関に行く前はパンツ一丁であった。
「ちょっとそこで待ってて……着替えてくるから……」
 う~、と呻りながら徹の返事も待たず自分の部屋にすっこんだ美緒は、慌ててバタバタとクローゼットを開けて徹に見せられる服を探していた。

 その日の夜、白藤家では徹を交えて小さなパーティが開かれていた。
「いやぁ一年ぶりに頂きましたが、やはりお兄さんの作る料理は絶品ですね」
 和義の料理を口にして、舌鼓を打つ徹。
「それにしてもすみませんね、急に帰ってきた上でご馳走までして頂いて」
「いえいえ、せっかくの徹さんの帰国祝いですから。戦地から五体満足で帰ってこられただけでも、本当にめでたいことですよ」
「これを乗り越えればまた美緒さんに会えると思いながら、必死に生きてきましたよ」
 そう言う徹の視線の先には、家族ですらあまり見たことのない余所行きの服を着た美緒。
「美緒さんは随分と美しくなられましたね。一年前はあどけない少女だったのが、暫く見ぬ間にぐっと大人の女性に近づいたように感じられます」
 歯の浮くような台詞をさらりと言われた美緒は、わなわなとしながら顔から火を噴き固まっていた。
「こうして美緒さんの姿を見ることができたお陰で、今後の仕事へのモチベーションを保つことができましたよ。明後日の夕方にはまた日本を発つことになりますから、それまでの間たっぷりと日本と美緒さんを堪能させて頂きますよ」
 今回の帰国は、あくまで二次予選と最終予選の間での休暇に過ぎない。この後はまたすぐに妖精界に戻り、最終予選から決勝トーナメントまでの運営に従事することとなるのだ。


 和やかに終わったパーティの後自宅に戻ろうとする徹を、美緒は呼び止めた。
「な、なあ……」
 呼び止めたはいいもののもじもじと両手を後ろに回して上目遣いで徹を見上げ、なかなか次の言葉が出てこない。徹は急かすことなく、美緒が自分から言おうとするのを朗らかな笑みを浮かべながら待った。
「その……明日、二人で出かけないか? プール……とか、それに夏祭りもやってるんだ」
「へえ、それはつまりデートのお誘いかな?」
 徹が尋ねると、美緒は目を逸らして俯きプルプル震えた。徹からデートに誘うことは頻繁にあったが、美緒から誘うのはこれが初めてだ。
「……うっさいエロ外人! いいから明日の昼、ちゃんと来いよ!」
 また照れ隠しに吐き捨てたエロ外人という言葉。だが徹にとってそれを聞くのは一年ぶりになるので、罵られているのに懐かしい気分にさせられた。
 そして徹の返事も聞かぬまま、美緒は勢いよく駆け出して自宅に飛び込んだのである。


 翌日の昼頃。徹が白藤家を訪ねると、昨日着ていたのとはまた別の余所行きの服を着た美緒が出迎えた。
 こちらは今朝買ったばかりの服である。わざわざ昼を指定したのは、今日のデートで着る服を午前中に買い揃えるためだ。
「お、おはよ」
 ちらちらと徹を見たり逸らしたり、美緒の視線が忙しい。
「やあ美緒さん。今日の服も昨日に劣らず素敵だね。惚れ惚れしてしまうよ」
「いちいち褒めるなエロ外人! ほら、行くぞ!」
 美緒は徹の横を通り抜け、すたすたと歩いていってしまう。
 意地を張るところもちょっと褒めるとすぐ赤くなるところも、一年前から変わっていない。これがたまらなく可愛くて、徹は美緒にバレないようにくすっと笑った。

 本日のデートコースはまず近場のファミレスで昼食をとった後、市民プールである。
 プールに着いて先に着替えを済ませた徹は、美緒が更衣室から出てくるのを待った。
「……お待たせ」
 少しして出てきた美緒の水着は、大胆にも布面積やや小さめな青の紐ビキニ。
 大きすぎず小さすぎずなほどよいサイズのバスト、きゅっとくびれて美しいラインを描くウェスト、広い腰幅にどーんと重量感あるヒップ。下半身太めなのはともかくとしてもそれなりにスタイルがいい方だと、美緒は自覚している。
 綺麗に纏めたポニーテールと小麦色に焼けた肌も相まって、夏の少女の魅力をこれでもかと見せ付けてくる。
 普通の男ならば大変目のやり場に困るはずだが、徹は全く動じることなくその肢体を堂々と眺めていた。
 勿論この水着は今朝買ったばかりのものである。いつも徹に照れさせられっぱなしの美緒であるが、今回こそは徹をどぎまぎさせてやろうと意を決して選んだ水着だ。
 とはいえいざこの格好で徹の前に出てみると、肌の露出多すぎたかなと急に後悔の念が湧き上がってきた。正直なところ、とてつもなく恥ずかしい。ここまで堂々と、それも嘗め回すような視線を送られるとは思ってもいなかった。恥じらいと視線に耐えながら、美緒は徹の感想を待つ。
「太陽のように眩しい素敵な水着だね。君にとても似合っているよ」
 キラキラ輝く笑顔で褒められ、嬉しいやら恥ずかしいやらで美緒はたじろいだ。
「君がここまで僕に肌を見せてくれたなんて嬉しいなあ。やはり君の身体は太腿や腰つきのふっくらした感じがこの上なく美しい」
 が、その直後にど正直な感想を述べられたので、美緒は即座に右脚を振り上げた。
「どーせ私は脚太いしケツでかいよ! 悪かったなエロ外人!」
「何も悪くなんかないさ。僕はそれがとても大好きだ」
 ハイキックを掌で受け止めながら、ニコニコと笑みを浮かべて徹は言う。照れ隠しに暴力を振るっても、いつもこんな風に軽々と受け止められるのだ。
 脚を下ろした美緒は、ふと徹の厚い胸板が視界に入った。普段の優男な印象とは裏腹にその肉体はがっしりとしており、鍛えている男の風格を感じさせる。
 ドキッと心臓が高鳴り、なんだか見てはいけないものを見てしまったような気持ちになった。思えば美緒も、徹の裸体を見るのはこれが初めてなのだ。自分が徹をこんな風にドキドキさせたかったのに、結局いつものようにあっちは平常心のままでこっちが照れさせられている。
「どうかしたのかい、美緒さん」
「な、何でもないよ!」
「あっ美緒さん、動かないで」
 先程自宅でやったように徹の横を通り過ぎてさっさと泳ぎに行こうとする美緒に、突然徹は横に腕を広げ制止を求めた。
 何のことだかわからずに、立ち止まる美緒。すると徹はすっとその場にしゃがみ込んだ。
 その時だった。美緒のショーツの右側の紐の結び目が解けて、ぺろんと捲れた布の下から黒い茂みが顔を覗かせた。
 徹はそれが他の人の視界に入るより先に目にも留まらぬ速さで紐を掴み、瞬時に結んで止めた。
 あまりに一瞬の出来事に何が何だかわからぬ様子の美緒だったが、やがて状況を理解すると一気に頭が沸騰した。
「あ……え……あ?」
 衝撃のあまり言葉が出ない。着慣れていない形状の水着で元々結び目が緩かったところに、先程のハイキックが祟って解けてしまったのである。
「大丈夫。他の人には見られていないから」
(他の人には!?)
 にこやかに言う徹であったが、その言葉には美緒でもわかる含みがあった。
「もう簡単には解けないよう結び直しておいたから。さあ、気を取り直して泳ぎに行こう」
 そう言って徹は、放心している美緒の手をちゃっかりと握る。すると美緒は握り潰す勢いで、徹の手を力強く握り返した。
「おっ、おい!」
「どうかしたのかい?」
「お前っ……見たな!?」
 徹の手を強く握ったままわなわな震え、茹で蛸のように全身真っ赤になりながら尋ねる。
「さあ? それよりも今日は思う存分プールを楽しもうじゃないか」
(絶対見た絶対見た絶対見た)
 徹がはぐらかすのを見て、美緒は確信を持った。それと同時に、羞恥心が極限までこみ上げてきた。
「こっこっこの……エロ外人! 責任とれよエロ外人! エロ外人!」
 やけくそになってエロ外人を連呼していると、自然と周りの客から注目を集めた。
「勿論僕はそのつもりだけど」
 徹が何の含みも無く素直に答えると、美緒は一転してきょとんと目を丸くした。
(え、もしかして今の、告白になっちゃってた?)
 パニックの最中に思わず口から出た言葉。しかも徹ははっきりとそれに応じた。
「待って、今の無し」
「勿論責任はとるよ、美緒さん」
 骨を砕く勢いで手を握っているのに全く痛みを感じていないかのような笑顔を向けられて、美緒は戦慄した。
(待って待って! こんなのが告白とかやだああぁぁあ!)


<キャラクター紹介>
名前:白藤しらふじ美緒みお
性別:女
学年:高一(回想当時)
身長:157
3サイズ:83-56-89(Cカップ)
髪色:黒
星座:蠍座
趣味:ケンカ
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