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17 番外編 〜ハリーデに休みはない〜
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殿下、いきなり誰にも言わず政務を放り出すのはおやめください。
殿下、ルヤンの首長のセイハン様への挨拶の言葉は考えましたよね?
殿下、いい加減になさってください。
この数日、私が言うことはこれのみ。
ただでさえ女が王子の従者となるには厳しい基準があるのに、身分もあればなおさらだ。やっと念願だった殿下の従者。それなのに、私はすでに後悔している。
三の鐘と半分で殿下は起きることになっているが、平気で四の鐘まで起きている。
おまけに、公の場での接触が禁止されているはずの第二夫人のエリフ様の息子であるエルバン様と遊んだりしているのだ。自分が仇になるのかもしれないのに。
、、、まったくもって、危機感というものが綺麗サッパリ消えているようね。
トゥヤルでは、王子が王となったら同じ代の皇子ーすなわちエルバン様やオルハン様やセミール様を殺さなければいけない習慣がある。私が従者となったとき、そう言われた。
だから、余計な関わりを絶ってほしい。みな、思っている。もちろん、私もそうするよう命令されているのだ。
それなのに、何故こうなった?
「、、、ということがございまして。どう思われます?私としては少しボロが出ている、と思うのですが。本当に何度も危うかったです。」
「ふふ、、、それは大変ね、ええ。でも、あの方の息子ですもの。父親に似たのでしょう。その父親もそのまた父親に似ているので、やはりその遺伝でしょう。全く、困ったことです。」
「、、、、、陛下に進言いたしましょうか?」
「分かっています。不敬ですよね、ええ。でも、貴女にそんな事はできやしない。そうね?」
鏡のような魔術具の向こうにいるであろう貴人は、うっすらと微笑む。全てを見透かす、不思議な笑み。
「ええ、残念なことにそうです。」
「私もそうとは思っていないから安心しなさい。けれど、なかなかその少女、興味深いではありませんか。」
それは私も分かっている。
何よりその美貌だし、あの大陸の公爵家、とやらの出身。それに加えて、謎の呪文。殿下が吹き飛ばされるほどだった。一応いくつか呪文は学んだが、それともまた違っていた。そして、謎のオーラ。白と黒の二つの色が混ざった不思議な色をしていた。
けれど、それはここで言うべきことではない。一つの情報が万の金に値することもある。そんな情報を、ここでべらべら喋るわけにもいかないのだ。
「はぁ。でも、貴女はすごいわ。」
唐突にそんな言葉を言われて、少し戸惑う。その一瞬の戸惑いでさえ、見透かしたのか。
「これまで、あの方の従者は一月でも持ちやしなかった。貴女はもう、三ヶ月でしたかしら?偏見に立ち向かい、優秀さを発揮する。いつか、トゥヤルもそうなって欲しいわ、、、」
そして思い出した。
鏡の向こうの貴人は、男性でなければなれない皇帝書記官筆頭になりたい、と言う夢を持っていた方だった。
貴人はやはり、どこか遠くを見つめている。その遠くにあるのは、私の乗る金鶏か、それとも過去の自分か。それは、分からない。
「、、、つい感傷に浸ってしまいました。過ぎたことです。そうそう、例のは終わりましたか?」
「終わりましたが、、、」
「それをもう一枚分書いてちょうだい。」
はぁ?
ふざけないでくださいよ、あれやるのに三日ほどかかったんですからね。抗議の視線を送る。
そんな視線をはねつけ、貴人は微笑む。
「私が見込んだ者ですよ?それくらいできるでしょう?」
この方の人を見る目は本物だ。彼女に見抜けないものは一つとしてない、と言われているほどだ。彼女ができる、といえばできる。そんな物なのだ。なんだか疲れた気がする。
そんな時、ドアがノックされた。
「失礼いたします」
一度放置することを伝え、入室許可を出す。
「ヒュセイン様がお呼びです」
「、、、、、、、わかりましたわ」
またあのゴミ王子め。仕事を増やしおって。
鏡に戻る。
貴人はまたうっすらと微笑む。
「あの方に仕事を押し付けられるのでしょうね。頑張ってくださいな。」
「面倒ですよ。」
「いい経験になるわ」
「前から思っているのですが、なぜご自分の息子にそうやって『あの方』と呼ばれるのでしょうか?」
「それは別にいいでしょう。皇帝書記官ジェンギズ・ジャービト・アイディンの娘、王子従者のハリーデ・アザン・アイディン。」
私はほぼ反射的に答える。
「それは理由になっていませんよ。あと、フルネームで呼ぶのはやめてください。トゥヤル聖十二同盟連邦王国皇帝第一夫人で光の離宮の主、シーラ・セビン・ヴィルクラン・デミール・セリク様」
そう言うと、鏡の向こうの貴人、、、もといトゥヤル王第一夫人はとびきりの笑顔を見せて笑った。
「あら、私の名前をすべて覚えていたの?光栄だわ。けど、仕事はよろしくね☆」
ハリーデに休みはない。また携帯食料の出番のようだ。
殿下、ルヤンの首長のセイハン様への挨拶の言葉は考えましたよね?
殿下、いい加減になさってください。
この数日、私が言うことはこれのみ。
ただでさえ女が王子の従者となるには厳しい基準があるのに、身分もあればなおさらだ。やっと念願だった殿下の従者。それなのに、私はすでに後悔している。
三の鐘と半分で殿下は起きることになっているが、平気で四の鐘まで起きている。
おまけに、公の場での接触が禁止されているはずの第二夫人のエリフ様の息子であるエルバン様と遊んだりしているのだ。自分が仇になるのかもしれないのに。
、、、まったくもって、危機感というものが綺麗サッパリ消えているようね。
トゥヤルでは、王子が王となったら同じ代の皇子ーすなわちエルバン様やオルハン様やセミール様を殺さなければいけない習慣がある。私が従者となったとき、そう言われた。
だから、余計な関わりを絶ってほしい。みな、思っている。もちろん、私もそうするよう命令されているのだ。
それなのに、何故こうなった?
「、、、ということがございまして。どう思われます?私としては少しボロが出ている、と思うのですが。本当に何度も危うかったです。」
「ふふ、、、それは大変ね、ええ。でも、あの方の息子ですもの。父親に似たのでしょう。その父親もそのまた父親に似ているので、やはりその遺伝でしょう。全く、困ったことです。」
「、、、、、陛下に進言いたしましょうか?」
「分かっています。不敬ですよね、ええ。でも、貴女にそんな事はできやしない。そうね?」
鏡のような魔術具の向こうにいるであろう貴人は、うっすらと微笑む。全てを見透かす、不思議な笑み。
「ええ、残念なことにそうです。」
「私もそうとは思っていないから安心しなさい。けれど、なかなかその少女、興味深いではありませんか。」
それは私も分かっている。
何よりその美貌だし、あの大陸の公爵家、とやらの出身。それに加えて、謎の呪文。殿下が吹き飛ばされるほどだった。一応いくつか呪文は学んだが、それともまた違っていた。そして、謎のオーラ。白と黒の二つの色が混ざった不思議な色をしていた。
けれど、それはここで言うべきことではない。一つの情報が万の金に値することもある。そんな情報を、ここでべらべら喋るわけにもいかないのだ。
「はぁ。でも、貴女はすごいわ。」
唐突にそんな言葉を言われて、少し戸惑う。その一瞬の戸惑いでさえ、見透かしたのか。
「これまで、あの方の従者は一月でも持ちやしなかった。貴女はもう、三ヶ月でしたかしら?偏見に立ち向かい、優秀さを発揮する。いつか、トゥヤルもそうなって欲しいわ、、、」
そして思い出した。
鏡の向こうの貴人は、男性でなければなれない皇帝書記官筆頭になりたい、と言う夢を持っていた方だった。
貴人はやはり、どこか遠くを見つめている。その遠くにあるのは、私の乗る金鶏か、それとも過去の自分か。それは、分からない。
「、、、つい感傷に浸ってしまいました。過ぎたことです。そうそう、例のは終わりましたか?」
「終わりましたが、、、」
「それをもう一枚分書いてちょうだい。」
はぁ?
ふざけないでくださいよ、あれやるのに三日ほどかかったんですからね。抗議の視線を送る。
そんな視線をはねつけ、貴人は微笑む。
「私が見込んだ者ですよ?それくらいできるでしょう?」
この方の人を見る目は本物だ。彼女に見抜けないものは一つとしてない、と言われているほどだ。彼女ができる、といえばできる。そんな物なのだ。なんだか疲れた気がする。
そんな時、ドアがノックされた。
「失礼いたします」
一度放置することを伝え、入室許可を出す。
「ヒュセイン様がお呼びです」
「、、、、、、、わかりましたわ」
またあのゴミ王子め。仕事を増やしおって。
鏡に戻る。
貴人はまたうっすらと微笑む。
「あの方に仕事を押し付けられるのでしょうね。頑張ってくださいな。」
「面倒ですよ。」
「いい経験になるわ」
「前から思っているのですが、なぜご自分の息子にそうやって『あの方』と呼ばれるのでしょうか?」
「それは別にいいでしょう。皇帝書記官ジェンギズ・ジャービト・アイディンの娘、王子従者のハリーデ・アザン・アイディン。」
私はほぼ反射的に答える。
「それは理由になっていませんよ。あと、フルネームで呼ぶのはやめてください。トゥヤル聖十二同盟連邦王国皇帝第一夫人で光の離宮の主、シーラ・セビン・ヴィルクラン・デミール・セリク様」
そう言うと、鏡の向こうの貴人、、、もといトゥヤル王第一夫人はとびきりの笑顔を見せて笑った。
「あら、私の名前をすべて覚えていたの?光栄だわ。けど、仕事はよろしくね☆」
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