とあるTSFによってアンチの日常は終了してしまいました。

型抜久遠

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TSレベル【1】

27.三者同盟

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27.三者同盟

「そうだよ。ボクと荒野は家が隣同士の幼馴染。ち・な・み・に、具体的にどんな関係なのかと説明すると、一緒にご飯を食べたり、一緒にお風呂に入ったり、一緒に同じベッドでおねむしていたような、典型的幼馴染だよ」

 割り込むように伊織の疑問に答えたのは、少々様子がおかしかった紅葉だった。それも……言わんでもいいこと諸々セットにして言いやがった。

「ち、違うぞ! こいつと知り合ったのは引っ越しをしてきた小学生の時だ! その時のこいつはまだ男で、つまり男友達だったわけで……って、だから引くなよ!」

 伊織がジト目で俺からスススと距離を取った。

「でも、3年前の性別が変わった朝に目を覚ますと、荒野はベッドで寝ているボクの身体に馬乗りになって胸を揉んでいたよね? ボク……あれが初めてだったんだけどなぁ」
「お前が無事だったか心配して乗り込んだんだよ! 不可抗力だ!」
「三年前……まだ小学……その頃から、揉めるだけのスペックを……」

 しかし、伊織は別の問題についてショックを受けているらしく、紅葉はそんな俺たちの様子を肴に楽しみやがっておいでのようだ。
 さっきまで動作不良気味の紅葉はいったいなんだったのかと思うほどいつも通りな紅葉である。

「ゴメンゴメン。伊織ちゃんって荒野みたいにからかいたくなるタイプなんだよね。何故だろう? やっぱり無転換者ってことで反応が面白いらなのかな?」

 無転換者というだけで玩具にされてちゃかなわん。というか、なぜ伊織は俺と紅葉が幼馴染意外のなんに見えたというのだろう?

「それでね。両親の仕事の関係で引っ越してきたわけだけど、当時のボクは友達もいなくて、両親は家にいないし、一人で遊んでいることが多かったんだ。そんなボクが地元のいじめっ子グループに目をつけられてしまったとき、荒野が颯爽と助けてくれたんだよ」
「あの頃の俺ははっちゃけていたからなぁ……」

 なんかのヒーローの影響を受けていたんだろう。それがなんだったのかは思い出せないけど。

「まあ、それがきっかけになって荒野とお友達になったのさ。あの時のボクは泣き虫で臆病だったから『根性叩き直してやる』って、よく荒野に色々な遊びに連れ回されたっけなー。魔物が現れたとかって繋がれた犬を突っついていたら紐が切れてしまったり、ボクが怪我したときには薬草だとか言ってその辺の雑草食べさせられたり……」
「ようするにアホなガキだったのね?」
「違うよ。最近では中二病でひとまとめにできるんだよ」
「小学生だったんだから大目に見ろよ!」

 こいつら、なんだって人のろくでもない過去を抉りに掛かって来てるんだ?


「うーん、でもそうだね。そんなボクたちの関係も、三年前に隕石が墜ちてきた大転変から少しずつ変わってきちゃったんだけどね」
「それってどんな?」

 おいやめろ。

「当時のボクは体も弱くて運動が苦手だったんだけど、女の子のなってからは体育が得意になって、生活も活発になっていったんだ。その一方で、荒野は周囲に対して内向的になってしまったんだよ。ほら、無転換者特有のアレだよ。無転換者っていう物珍しさで色々な人たちが寄って来るようになって荒野は怯えてしまうようになったんだ。そういうのから荒野をボクが守っているうちに、荒野は幼馴染のボクに『性別が女に変わっても、ずっと男友達のままでいてくれ』って泣きながら頼み込んできてね」
「ふーん。随分と恥ずかしい下剋上もあったものね」
「本当だよね。でも、高校生になる頃には随分と回復したんだよ。見守ってきたボクとしては嬉しい限りだよ。それに、今じゃこんな可愛い女の子になっちゃって、ナデナデしてあげるー」
「ーーもういいだろ! 俺の思春期の芽生えが踏みにじられた暗黒の中学時代
の話は! それより伊織! お前の無転換者の中学時代こそどんなんだったんだよ!」
「あ、あたしは……ずっと引きこもって隕石について研究に明け暮れていたからね。ほとんど登校とかしなかったし、学校生活とかそういうのなかったわ」

 どんよりとした雲を背負いつつ伊織は吐き捨てた。

「本当に? 性別が変わる以前からなら親しかった人の一人くらいいなかったの?」

 紅葉が何気なくそう聞いたとたん、伊織は手元
の牛乳パックを握り潰した。

「うわっきたな!」

 牛乳が周囲に飛び散って、ちょっとしたパニックになる。あたふたしていると、どさくさで俺の頬についた牛乳を舐め取ろうとした紅葉をガクガク揺する。

「……うーん。まだ不明な点は多いけど、少なくとも五転盟と深い繋がりはなさそうね。野良というか雑種みたいなもんだし、これなら……」
「なに一人でぶつぶつ言ってるんだ?」
「な、なんでもないわよ。さて、そろそろ本題について説明してもいいかしら?」

 そういや、元々は伊織から話があるってことで集まったんだった。なんか途中から人の恥ずかしいところばかり根掘り葉掘りされただけって気もするが。
 すでに昼休みは半分を過ぎ去ってしまっていたが、伊織はポケットからなにかを取り出した。

「なんだこれ?」
「学校に着いたとき、昇降口の掲示板に貼ってあったのよ」

 嬉々とした表情で伊織が取り出したるは、一枚のポスターだった。
 強引にポケットに仕舞われていたせいか皺くしゃだったが、イラスト上に商店街の文字が見えたので、毎年恒例な商店街活性化のイベントなのだろう。

「えっと、なになに? 【第一回新世ヤマトナデシコ大会】開催決定。出場者大募集中……なお、本大会は三人一組のチーム戦で行われます。うら若き反転世界での可憐で清楚なる乙女を選抜するための……って、なんだこれ?」
「その先を読んでみなさいよ」
「本大会で得られる賞品、三位『横綱番付アイドルSTR48メンバー全員の張り手券』。二位『性別不詳なとうきびの妖精モロッシーの抜け殻』。そして一位ーー『三年前に裏山に落下した隕石』ッ!」

 驚きにポスターを食い入るように凝視する。他の賞品にもツッコミ入れたいところだが、今は問題である一位の項目だ。ポスターにも見本として載っている写真。それはどこかで見たことがある、蒼い水晶を思わせる鉱石だった。

「そうよ。この大会の優勝賞品として、どういうわけか知らないけど、隕石が用意されている。しかも、希少とされている【蒼隕鉄】よ」

 伊織は言っていた。先に爆発した蒼い隕石は、ほとんどが燃え尽きてしまい、希少価値が高いと以前説明してくれた。

「でも、どうして……」

 裏山に落ちた蒼隕鉄は、確かに俺が拾って家に持ち帰り……失くしてしまった。
 なのに、それがどうしてこんなところで賞品にされているんだ?

「一つはあなたが持ち帰ったのを目撃していた奴がいて、木枯くんの家から盗み出したという説よ。あなたの話を信じるとしても、隕石が跡形もなく消えるなんてありえないと思うからね。金庫にでも閉まっていない限り、誰にでも持ち出せたはずよ」
「当人を前に怖いこと言うなよ!」
「もう一つはあなたの持ち出した隕石以外にも存在していたというケース。木枯くんとは別の誰かが隕石を拾って、今日まで保管していたってやつよ」

 た、確かに……。
 あの時、俺より先に隕石を持ち去った。あるいは他所でも隕石が人知れず落下していた可能性も無きにしも非ずだけど…。

「でも伊織ちゃん、これって本物なの?」

 ポスターに目を落としていた紅葉が俺と同じ疑問を口にする。
 当たり前である。こんな写真で本物かどうかなんて分からない。

「あたしだって疑わしいと思ったわよ。でも、本命だった木枯くんがスカだったんだから、次はこっちに掛けてみるしかないじゃない」

 消去法だったようだ。本命スカって悪かったなオイ。

「大体なんで今になって隕石なんだよ」

 しかも一位ときた。他の賞品も大概だが、あきらかにこの石ころ浮いている。

「おそらく、今なら出してもよいという頃合いだったんじゃないかな? 当時はウイルスが付いててエンガチョエンガチョって騒いでいたけど、近年では無害と分かって逆に人気が出てきているみたい。ネットで親指サイズの隕石が何百万円で売られてたり、限定とかプレミアがついているのもあるらしいよ」

 つまり、これは大転変をある種の創立記念日にまで昇格させようというのか?

「もうそのくらい反転者どもの意識が変わってしまったのよ。あたしたち無転換者にとっては理解に苦しむわね」

 ヤレヤレとため息混じりに伊織がぼやき、俺も元無転換者として激しく同調する。

「ーーで、ここまでの話でこれからあたし達がするべきことが何か分かるわよね?」
「ひょっとして、伊織ちゃんはこの大会に出場して、賞品の隕石を手に入れる気なの?」
「その通りよ!」

 おずおずと質問してきた紅葉に伊織は自信たっぷりに答えて立ち上がる。

「この隕石が本物であるのなら、まさにあたしの探し求めていた蒼隕鉄よ!どっかの間抜けが失くした一つが見つからなくても、この大きさをしていれば念願のワクチンを完成させることが出来る! そうすれば……反転者に支配された世の中をひっくり返してやれるんだからね!」

 そうして、マッドサイエンティストを連想させる高笑いが屋上に巻き起こる。
 ……だけど、俺はこの取って付けたように都合が良い展開について、逆に疑問を感じずにはいられなかった。

「でもさ、伊織。これって罠じゃないのか?」

 五転盟に疑われた直後にポッと湧いて出た蒼隕鉄の所在判明。
 こんなのまともな思考してたら疑って当然だ。
 そんないまいちノリについていけない巻き込まれ枠の率直な質問に対して、

「当然、罠に決まっているでしょ? バカなの?」

 伊織はあっさりと肯定した。

「おい、だったらなんで参加するんだよ! あと、誰が馬鹿ーーん?」
「……参加規約の一番最後、読んでみなさい」

 伊織が再びポスターを突き出してきたので、俺は言われるがまま指定された項目を読む。

「なになに……『なお、この大会は〝反転者の女性〟を対象として行われます。万が一、参加希望者の中に無転換者の女性がおられましたら、残念ながら新世ヤマトナデシコとして認めるわけにはいきませんので、出場はご辞退ください』……なんだ、だったら伊織はダメってこーー」

「ざっけんじゃないわよおおおおおおおおお!!!!」

 形梨高校の屋上を軸として、反転世界に伊織の咆哮が轟いた。

「これってつまりあれ? 昭和、大正、明治、江戸とかはヤマトナデシコで通るけど、縄文時代とかになると首かしげてしまうようなもん? つまり、無転換者の女はヤマトナデシコ名乗っちゃ駄目? 認められませんってことかな? たかが偽物でしかない反転者のくせに大きく出たものよね……」
「い、いおり……サン」
「これは挑戦状よ! 無転換者の女子が死に絶えたと勘違いしている反転者どもからのね。あたしは無転換系女子の代表として、〝本物〟として引くわけにはいかないのよ!」

 どうやら無転換系女子部分をコケにされたことに対する本能(プライド)がデメリットを上回ったということだった。

「そういうわけで、これはもう決定したことだからね。あたしと木枯くんと……庭咲くん。この三人でヤマトナデシコ大会に優勝して、絶対に蒼隕鉄を手に入れるんだから!」

 再び伊織の高笑いが寒風吹き荒ぶ屋上に轟いた。
 一方、紅葉は罠やら五転盟やらの物騒な会話はよく聞こえていなかったらしく「へえ、なんだか面白そう!」などと、割りと乗り気で大会告知ポスターを眺めている。

「よーーし、チーム名は『無転換世界回帰推進組合』。開催日は今週の日曜日だから。この大会が終わるまで、あたしたちは協力しあう〝仲間〟ってことで、そこんとこよろしく!」

 最低最悪のネーミングセンスを残していった伊織が屋上から去ったあと、俺はようやくため息をついた。

「仲間……ねえ……」

 人をこんな身体にしてよく言えたものだと思ったけど、不思議と悪い気はしなかった。
 少なくとも、無転換者として人を避けていた頃とは違う、仲間で集まって何かをするという行為にワクワクしている自分がいた。
 そしてなにより、あれだけ反転者廃絶主義者兼絶対無転換者至上主義者である伊織の口から〝仲間〟なんて言葉が出てきたことが新鮮で驚いた。
 これで少しは反転者とのコミュニケーションも柔らかく……なるといいんだけどな。

 ーーそうして、ここに一つの同盟が生まれた。

 反転した世界への反逆を画策する〝無転換者〟にして、本物女の子である姫園伊織。

 伊織が忌み嫌う〝反転者〟にして、元男な俺の幼馴染でありながら、日々を有意義に過ごしている庭咲紅葉。

 ……そして、身体は反転者の〝女〟。心は無転換者の〝男〟という、この世界でもっとも曖昧な位置に立つ俺、木枯荒野。

 こうして、俺たちはこの『ヤマトナデシコ大会』なる、得体の知れない大会に出場することが決定事項となってしまった。
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