とあるTSFによってアンチの日常は終了してしまいました。

型抜久遠

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TSレベル【2】

28.襲撃

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28.襲撃

 ーー危機が迫っていた。

 場所は自室のベッド。その上で俺、木枯荒野は飛び起きるように覚醒する。
 身に迫る危険を本能が陽光よりも早く認識して、睡魔をワンパンチで黙らせた。
 戦場で生きる者だけが持ちうるスキルであり、一般市民の高校生が持っているとか、それはそれでどうなんだという当然の疑問が生まれることだろう。

 しかし、そんな危険感知程度の荒業なくして、この家で衣食住なんぞやってられない!

 俺は死の気配の根源を探るべく、周囲の空間の注意を払う。

 誰にだと?
 正体は分かりきっている。ーー向日葵だ。

 破壊を撒き散らす狂戦士にして、認めたくないが俺の実の妹。中身は小学生、外皮はオリハルコン並の強度という未曾有の怪物が動き出したんだ。

 元凶が掴めているからこそ、次の問題はどこからとなる。

 まず、人が出入りを行うためのドアに目を配る。
 廊下の僅かな軋み一つですでに向日葵の巨体を感知できるようになってしまっているが、気配は耳ではなくビリビリとした悪寒を肌で感じたためドアではない。

 次に視線を移すは四方を取り囲む部屋の壁。
 過去に幾度となく、向日葵はこの障壁を積み木細工を崩すように押し寄せてきたことがある。
 向日葵の部屋側の壁は、以前に俺が崩して補強したばかり。
 そのさい向日葵が壁に近づいた時点で、パラパラと自壊するように細工してあるため、遠目から眺めた限りこちらでもない。

 紅葉の家と向かい合わせになっている窓側。こっちは紅葉の家を通じて突撃してくる可能性もあるが……その辺りは紅葉に止めてもらうように頼んでいるため問題はないはず。

 最後は向日葵側とは対になっている壁の向こう。そこは母親である木枯菫の部屋だ。
 向日葵には母親の部屋に無断侵入などという悪行は思い付かないので、この壁だけは今でも無傷のまま残されている。この壁が破壊される確率はこれからも低い。

 と、ここまでの思考の整理を瞬時に行い、答えを導き出す。正解はーー

「ーー上だ!」

 瞬間、天井がミシミシと鳴らして膨れ上がったかと思いきや、

 ガラガラガシャアアアアン!!!

 耐久性の限界を迎え、天井を突き破って落下してきた何者かによって、部屋は粉塵まみれにされてしまう。

「ケホケホ……な、なんだ?」

 巻き上げられた埃で咳き込みながら、俺は元凶である影を捉える。

 瓦礫の中心からのっそりと身を動かすそいつの体躯はひとえに巨大。身の丈三メートルあろうかという怪物が四つん這いになっている。
 視界不良な部屋でも狂獣の眼光は輝きを失わず、嗅覚と聴覚を頼りに吐息とは異なる煙を喉奥から吐き出しているこの奇怪な生き物こそ、3年前に俺が家に持ち込んだ【蒼隕鉄】のウイルスによって究極生物へと変態してしまった悲劇の犠牲者。俺の〝妹〟木枯向日葵に他ならなかった。

 とたん、向日葵の全身の筋肉が膨れ上がると、向日葵という塊は跳躍した。

 遥か頭上から、トマホークより危険極まりない生物兵器が、逃げ場は無いとばかりに両腕を広げて視界を覆い尽くしながら宙を舞う姿はーー紛れもなく、死をもたらすフライングボディプレスであった。

「くっ! ーーぬおおおおおおおおおお!!!」

 しかし、それで死んでちゃこの怪物の兄なんてやってられない!

 妹の手を血で染めないためにも、俺は飛翔する向日葵の落下地点から逃れるべく、甲子園さながらのヘッドスライディングを行った。

 バリバリグシャグシャベキャメキ!!!

 背後。ついさっきまで自分のいたベッドから絶望的な破壊音が巻き起こる。

「ヴゥゥゥオオオォォニイィイイギャアアァァァアアアアン!!!」

 向日葵は奇声を叫びながら、俺の存在に関係なくベッドごと引き寄せて抱き締める。
 ベッドは折れることさえ許されず、規格外の力に圧縮されながら、みるみるひしゃげたオブジェへと変貌を遂げていった。

 やがて、向日葵は自身の手にある激ヤセ縮小済み物質が俺でないことに気が付いたようで、キョトンとした双眼をこちらに向けてくる。

「あ、おはよう! おにいちゃん!」

 向日葵が俺に気付くと、晴れ晴れとした明るい笑顔を見せた。

「お……おはよう、向日葵。き、今日も元気一杯みたいだな?」
「うん! だって今日は日曜日だもん! お休みだもん!」

 俺は頬を引きつらせながら、兄として精一杯の作り笑顔で向日葵へと接近を開始する。
 向日葵の前に立つと、巨人の如き妹は、俺の目線に合わせるように身を屈めるのだった。

「えへへ。またおにいちゃんを起こせなかったよ。おにいちゃんって本当に朝早いんだもん」
「ハッハッハ。それにしても日に日に起こし方がダイナミックになっていくなー。今日もお母さんに起こしてくるように言われたのか?」
「そうだよ! 日曜日だからって寝坊しちゃダメだって、早くご飯食べなさいってママが言ってた!」
「……さながら差し向けられたターミネーターだな。お兄ちゃんそろそろ命の危機を感じ始めているんだ、ゾ☆」

 割りとマジで切実な願いを口にして、つま先立ちをさせながら、向日葵の額を「こいつめ☆」と人差し指で軽く小突く。
 すると、向日葵は「えへへ」と幸せ一杯な笑顔を浮かべた。

 それは、兄と妹とのなんてことのないスキンシップ。
 だがこの動作ひとつでも、気を付けないと突き指してしまうから注意が必要である。

 普通だったら卒倒してもおかしくない状況であるにも関わらず、こうやって冷静にコミュニケーションしている俺自身、兄として振る舞うためにも必死なのだ。

 たとえ妹が目を覆いたくなるほど筋肉で包まれた超人類外な未知のクリーチャーと化しても、毎日が十三日の金曜日でループされたとしても、向日葵が俺の妹であることに変わりはないのだ。
 向日葵……お兄ちゃんはこれからどんなことがあっても、向日葵のお兄ちゃんでいられるように努力していくからな(ホロリ)。

「ねえ、おにいちゃん。もしかしてちっちゃくなった?」

 ギクリ! と、不意打ちな疑問の言葉に俺は身を強張らせる。
 見た目怪物でも中身な純朴な小学生。思ったこと、感じたことを素直に言葉にできるのは大変素晴らしいことなのであるが……。

「ど、どうしてそう思うのかな?」
「だって、いつものおにいちゃんなら、もっと上の方をツンツンしてくるんだよ。それに、おにいちゃんのお胸もなんだか腫れているみたいで、紅葉おにいちゃんみたいになっているよ」
「ーーーーーッ!?」

 しまった!
 起床直後の今の自分はサラシなんて巻いていない状態であった。眠るときだけ開放的でいられるものだから油断していた!
 これがうっかり母親や近所に広まりでもしたら……。

「ひ、向日葵。今見たものを誰にも喋らないって約束してくれたら、今度駅前の美味しいケーキを買ってあげるぞ」
「本当! うん、言わない! 約束する!」

 よし! 俺は拳を握ってガッツポーズをする。
 もっとも、向日葵は告げ口とかしない良い子に育っているから、ケーキというのは渡りに舟といったところだろうけど、念には念を押すことにしといた。
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