とあるTSFによってアンチの日常は終了してしまいました。

型抜久遠

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TSレベル【2】

31.ナンテナカッタ、イイネ

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31.ナンテナカッタ、イイネ

 ーーさて。

 その後、ヤマトナデシコ大会に挑むべく、衣類の選別に挑む自身に降りかかった最初の関門。
 無転換者の男であった自分が、女の子の服装をしなければならない上で、避けては通れぬ問題に直面してしまった訳だ。
 
 目の前に散らばるのは紅葉が厳選して持ってきた、色形様々な女の子用の上下ワンセットな〝下着〟の数々。正確にはブラジャーとかパンティとか呼ばれている品々であった。

 紅葉が言うには、これらは他の女性用の衣類と異なり、未使用の新品であるらしい。
 確かに、いずれも値札の付いたブツや袋から未開封な品ばかり。
 さすがに使い古しなのを持ってこなかった幼馴染の常識持ちに安堵するべきか、だとしてもこれらが紅葉の中古品で無いならその意図はいかなるものかと新たな疑惑も付きまとう。
 
 ……どちらにしろだ。男だった頃には眺める程度でしか縁の無いオーパーツ。しかし、それをこの反転者となった女の身体に装着しなければならないという現実に、この身は今、経験したくもないような緊張に支配されていた。

 そんな葛藤を、赤ん坊が初めてハイハイを卒業する瞬間に立ち会うかのごとく、とても微笑ましいシーンに変換されているかのような、無転換者的にネジぶっ飛んでいるとしか感じられない慈愛に満ちた眼と笑みを浮かべて見守っている幼馴染の庭咲紅葉。

 以上の極限状態に挟まれた俺、木枯荒野であるが、俺は己の残された無転換系男子としての理性やプライドを守るため、まずは〝片側〟の驚異の排除を試みる。

「……なあ、紅葉」
「なんだい荒野?」
「紅葉が用意した下着っていうのはこれで全部なんだよな……」
「キシシシ、その通りだよ。もちろんどれも未使用の新品同然。ちなみにスパッツなんていう穿くものとして半端な逃げの選択肢なんて用意していないからね」

 なるほど、反転者の女になったという友としての良心は微塵も無いらしい。

「それは……困るな」
「ふふん。観念しちゃいなよ、荒野。なにも恥じることはないよ。これは反転者なら誰もが通るべき最初の一歩なんだからね」

 もはや獲物は罠に掛かったと確信している紅葉。
 退路を絶たれ、反転者の女として、目の前の女性専用装備たるものに手を伸ばすしか選択肢は存在しないほど追い詰められた状況に至っている自分であるが……。

「ああ、だからこそ困るんだ。だって、俺は……」

 俺は……ここで更なるリスクを負う覚悟を持って、その先にある希望というリターンを信じ、紅葉にこう注文を付けた。

「俺は……下着を身に付けるんなら、お前の……紅葉が普段着けているブラとか……パンツとか……そういうのを用意してほしかったんだ」

 ーー安心してほしい。俺の無転換者要素は健在である。

「そ、それってつまりボクとお揃いの下着が良かったということ?」
「違うよ、紅葉。お前の温もりとか、匂いとかがそういうのを感じるような意味でだよ……」

 ーー繰り返す繰り返す。俺の思考は無転換者として一切の乱れも不具合もありません。

「だって、服はお前のお古なのに、下着だけ新しいなんておかしいじゃないか? せっかくのハジメテなんだから、俺は……お前が付けた下着だったら、安心して身に付けられるのに……」

 ーーどうあがいてもアウトなのですが、それでも俺は正気なのです。

 なんでこんなとち狂ったこと口走っているのかというと、目には目を、エロにはエロを。この場にある驚異の一つである紅葉を排除させるためには、同じ視野を持って望む他に無いという結論に至った訳だ。
 目的はこの〝観客〟という立場であろうとしている紅葉という存在の排除。これから俺の身に降りかかる出来事を余すことなく脳内に記憶されてしまったら、俺は元の無転換者の男に戻れたとしても、なにか大切なものをこの反転世界で失ってしまう、そんな予感を俺の内なる無転換者魂が叫んでいるのだ!
 そんな捨て身の覚悟で挑んだ賭けに、果たしてリターンはあったのかというと、

「……まったく、それは反転者の先輩として残念な回答だよ、荒野」
「え!?」
「ボクは、荒野が恥じらいながらも、目的のために女の子としての扉を開こうとしたその瞬間を期待していたというのに……。真っ白で無垢なキャンパスにソッとどこかで見たことのある、ありふれた色に染まる、そんな王道な展開でよかったはずなのに……」

 …… 待ってほしい。非常識には非常識な反応を期待したというのに、そんな説教染みた返しをされると、こちらとして精神的な面から一方的なダメージで痛い。
 ……いや、確かに客観的には引いてもおかしくない方法であったわけだけど、俺の知っている幼馴染の庭咲紅葉なる人物なら、ここで引かずになにかよからぬギアが入るはずと……

「ーーいいよ! 荒野がそういうアブノーマルな要求をしてきたのなら、ボクも紳士はやめて欲望の犬になろう! ほんとのところ、荒野が普通に女の子の服に着替えるだけでは、いささかスパイスに欠けるとは感じていたんだ。待っててね、荒野! すぐにボクのお気に入りな下着を厳選して、荒野の反転者の女の子という〝ハジメテ〟をボクの欲情で余すところなく飾ってあげるよ! でも、反転者初心者の君がそんな上級者向けな〝ハジメテ〟になっちゃったら荒野の無転換者としての部分がどうにかなっちゃうかもしれないけどいいんだよね! ね!」
「あ、ああ……」

 なにか、いつも以上にテンションの高くなっている幼馴染に対して、俺の無転換者としての部分が畏怖するように震えた気がした。

「キシシシ! でもいいかい荒野、覚えておくんだ。反転者は誰であれ、大転変からの3年間で同じような過程を経ている。そんなボクたちの前に、君みたいなまったく反転者としての汚れを知らないままの未経験だと知れたら、なにがなんでも同じような体験をさせたくなるだろうし、最後には〝こちら側〟に堕としたくてしかたないだろうからね。大会では沢山の反転者が集まるはずだから、うっかり荒野が無転換者部分を残していることを知られないように注意するんだよ!」

 などと、一方的ななにか警告のような言葉を残したかと思うと、紅葉はそのまま残像さえ残すような勢いで二階へと駆け上がっていった。おそらく、俺の部屋から紅葉の部屋へダイブしていったのだろう。

 よかった……。あいつがこちらの想定以上に選り好み無しで節操無しに守備範囲の広い奴で。
 そして助かった……。もし使用済みの下着ということで、その場で身に付けていた下着を脱いで渡されていたら終わってた。

 こうして、紅葉という〝観客〟である驚異は一時的に消え去った。
 しかし、まもなくその驚異は再来するであろう。
 その前に、俺はもう一つの驚異である女性用の下着に向かい合い、そしてーーーー。

















 ーーこうして、俺は苦難を乗り越えた末に、見事着替えという試練を完了させたのである。

 廊下にある等身大の鏡を前に、俺は自身の現在の姿を確認する。
 どこかオドオドと戸惑うように頬を赤らめている反転者の少女がいた。
 藍色をしたロングスカートに、純白色の袖フリルブラウス。長く伸びた黒髪と合わさって、どこか清楚な雰囲気のあるお嬢様みたいな印象を感じさせる少女の姿は、正直とても愛らしく感じてしまうものだった。 
 ここでスカートをはためかせるように、クルンとターンしてみせると映えるんじゃないかなと感じるも『これはお前自身であるんだぞ』という心の無転換者部分にブレーキを入れられたことで、それが現在の自分自身であることを思い出す。

 ん? なんだ、その過程がどこいったのかだと?

 おかしなことを、今、俺はどういうわけか女モノの服を身に付けている。
 不思議なこともあるものだ。うん、実に不思議ダ。
 どうやって服に袖を通したのカモ、スカートを穿いたのかも。そしてソノ下にある肉体的にやたら履き心地良く感じてシマウことが忌まわしい〝装備品〟について、まったくサッパリ記憶にナイ。
 だから、俺ガ女モノノ下着を身に付けケルコトにナッタカどうかヲ鑑賞スル者モ、俺が記憶シテイナイのだカラ、語るコトも描写するコトも思い出ス必要モナイノダ。

 ヨッテ〝ハジメテ〟ナドトイウ出来事ナンテナカッタ、イイネ
 
 ほどなく、もっとも最善手であった自身の下着を提供するという灯台もと暗しな手段に気づいた紅葉が戻って来たようだが、すでに遅しである。

 着替えを終わらせてしまった俺を前にして、紅葉が心底望んでいた、反転者の女の子としての〝ハジメテ〟なる瞬間に立ち会う機会を逃してしまった失態を前に、まさか床ドンを乱打させながら号泣するほど悔しがるとは思わなかった。
 そこまで期待していたというか……楽しみにするほどの事とは、無転換者的な思考には少々理解の外にある感情であるわけだけど、さすがにほんのちょっぴりだけ気の毒というか、悪かったなという気持ちになったが、

「……まだだよ、まだ反転者にとっていくつもの〝ハジメテ〟が控えているんだ! 次こそ、次こそ必ず!」

 反転者となったばかりであるこの身に降りかかるであろう受難は、些かも油断ならないようなので、その気持ちは今回の〝ハジメテ〟なるものと一緒に忘却の彼方へ葬り去ることに決めたのだった。
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感想 1

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みんなの感想(1件)

膕
2017.03.05

斬新な世界観で、読んでいてとても楽しいです。
無理せずゆっくり更新なさってください。楽しみにしています。

解除

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