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旦那様、私をそんな目で見ないでください!18
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大学についていつものように自販機の前でいつもの缶コーヒーを飲んでいた。ここにいれば凛太朗に会う確率はかなり高いが、もう自分のペースを乱してまで奴を避けるのが面倒になった。
「よう、響介、おっはよう!」
こいつはいつもご機嫌だ。たまに調子が悪い日とか、気が乗らない日とかはないのだろうか。何だかんだバカにしながら、俺はやっぱり凛太朗のことがちょっとだけ羨ましいのかもしれない。
「おはよう」
響介はごく普通に答えた。
「あらっ、あららっ、なに?なんだか響介がスッキリしてるぞ」
「スッキリ?なんだそれは」
「こっちが聞いてるんだよ」
「別に普通だろうが」
「いや、なんかこう達観したっていうか、吹っ切れたっていうか。あ、そうか、俺のアドバイスのおかげだな、きっと」
どうしたらこうも前向きのものごとを考えられるのだろう。
「ああ、そうだな。きっとそうだ」
いちいち否定するのが面倒くさい。
「心がこもってないけど、まあ、俺のおかげでお前の悩みが解決したんならそれでいい。俺は心が広い男だからな」
なにを言い出すやら。そんなに簡単に解決するわけないだろう。
「お前ね、俺のことなんかにかまってないで、自分の身の処し方を考えたらどうだ。少なくとも俺は一度は結婚してるし子供もいるんだ。それなのに、お前ときたら、いつまでもフラフラして…」
「はい、ストーップ!そういう話はお袋からいっつも聞かされててもうウンザリなんだよ。俺は、お前とこうしてチチクリあってるのが楽しいんだよ。仕事はそこそこでいいし、偉くなると何かと忙しいだろう?何かを究めるとか興味ないんだよね。とにかく今が楽しいのが一番!」
十代の若者の様な思考回路に響介は少し眩暈がしてくる。
「まあ、お前の人生だからな、俺が口出しすることじゃないな」
「そんな冷たい言い方するなよ。俺にとってお前は人生の一部なんだから」
それはどういう意味だ?追求するのが怖い。
「そ、そうか。おっと、もうこんな時間だ。じゃあな、凛太朗」
響介は気持ちを切り替えて教室へ向かった。
静音からのアプローチはほぼ一日おきという、かなりのハイペースで続いた。少々寝不足ではあるが、彼女から与えられる体中がとろけそうな愛撫に自分でも意外なくらい溺れていた。彼女が来ない日は逆になかなか眠れなかった。もう身体に教え込まれたという感じだ。まさか自分の身体がこんなにもそういう行為を求めていたなんて知らなかった。だが、相変わらず彼女からの愛撫を受けるに留まっている。その先のことはまだ考えられない。
「パパ、雛ね、今度のピアノの発表会に出ることになったの」
ピアノを始めてまだ3年の雛は、去年はまだ発表会に出るレベルではなかったのだ。
「本当か?すごいじゃないか」
「うん!」
「雛ちゃん、よかったですね」
静音さんも嬉しそうに雛に声をかけた。
「うん、ありがとう。それでね、発表会の時に着るお洋服、静音さんと一緒に買いに行きたいな。ねえ、パパいい?」
静音さんがうちに来てくれた日、雛は彼女の服を大層気に入っていたことを思い出す。
「ああ、もちろん。静音さん、お願いしてもいいかな?」
「はい、よろこんで。じゃあ、明日、早速行きましょうか?」
「ほんと?わぁ~い」
ファッションに関しては世の中の父親はたいてい蚊帳の外だろう。響介も例にもれず全く無頓着な方だ。雛の嬉しそうな顔を見て、静音さんのありがたみをひしひしと感じる。よかったな、雛。
次の日、雛と静音さんは朝から街に出かけて行った。
響介は久々に一人きり日曜の午前を満喫していた。挽きたてのコーヒーの香りを堪能していると、チャイムの音が聞こえた。
せっかくの休日を邪魔するのは誰だ。響介はムッとしながらモニターを覗き込んだ。そこに映っていたのは凛太朗と、その後ろにもう一人誰かいるようだ。
響介はしかたなく玄関に向かった。
「何だよ、せっかくの休日にまでお前の顔をみなきゃならないのか?」
「ひどい挨拶だな」
笑いながら答える凛太朗の後ろの女性に目を移した。「あ、あれ?美里さんじゃ」
「はい。おはようございます」
「静音さんに何か用がありましたか?実は、今、娘と一緒に買い物に行ってまして」
響介は意外な組み合わせにアタフタする。
「ああ、別に静音さんに会いに来たわけじゃないから。ちょっとだけあがっていい?」
「それはかまわないけど」
響介は二人をリビングへ案内した。
「コーヒーを入れるから、ちょっと待ってて」
「ああ、いい、いらないよ。すぐ帰るから」
「そ、そうなのか」
響介は、いったいなんの用なのかと気が気ではない。
「お前には一応言っておこうと 思ってさ」
「なにを?」
急に真面目な顔つきになる凛太朗に響介の不安はMAXになる。
「実は俺たち付き合ってるんだ」
「はあ~??い、いったいいつから?」
「確か、この間この家で会ったあとすぐかな}
手が早いと思っていたが、まさかこんな若い子を手籠めにするとは…。彼女、確かまだ二十二歳だよな。年の差十一歳だぞ。
「し、静音さんは知ってるのか」
「女同士はそういうの早いから。美里の方からすぐ連絡したらしい」
美里って、もう呼び捨てにして…。
「美里さん、こ、こいつに騙されてないですか?大丈夫?」
「お前ね、人聞き悪いこと言うんじゃないよ。何で俺が女性を騙したりする必要があるんだよ。俺は自分の気持ちをいつも素直に表現している。そして、その結果彼女とお付き合いすることになったんだ」
まあ、確かに、この男は下手な小細工はしないだろう。いつも真っすぐぶつかって、ダメな時はそのまま砕け散るような生き方が信条なのだから。それにしても、美里さんはこいつのどこがよかったんだろう?
「私、凛太朗さんみたいな人に会ったの初めてなんです。裏表がないって言うか、変な気を遣わなくてもよくて、一緒にいて疲れないんです。それに、自分の気持ちをいつも素直に言葉にしてくれるのも日本人の男性っぽくなくて嬉しいです」
美里はそう言うと顔を赤らめた。
はいはい、ごちそうさまです。早く目が覚めるといいですね。
「そ、そう。それはよかったね。末永くお幸せに」
「お前、言葉に心が込もらなさすぎ」
「いや、お前が俺に女性を紹介してくるなんて初めてだから、少し驚いてるよ」
「まあな。俺もそろそろ身を固めなくちゃだろ?」
はあ?まさか美里さんと結婚とか考えてるのか?美里さん、それだけは辞めておいた方がいい。こいつに振り回されるだけで人生が終わるよ。
「やだあ、凛太朗さんたら、気が早いよ~」
「は、ははっ。幸せそうでなによりだ」
「じゃ、そういうことで、俺たちこれからデートなんだ。お前の相手してやれなくてすまんな~」
「いや、俺は大丈夫だから、楽しんできてくれ」
響介は玄関で二人を見送った。二十分ほどの短い滞在時間だったのだが、どっと疲れた。
まったく、あいつは、いつも突然爆弾をしょってやって来る。穏やかなはずの午前中がすっかり乱されてしまった。響介はコーヒーを入れ直すとローテーブルに新聞を広げてソファに体を沈めた。
「よう、響介、おっはよう!」
こいつはいつもご機嫌だ。たまに調子が悪い日とか、気が乗らない日とかはないのだろうか。何だかんだバカにしながら、俺はやっぱり凛太朗のことがちょっとだけ羨ましいのかもしれない。
「おはよう」
響介はごく普通に答えた。
「あらっ、あららっ、なに?なんだか響介がスッキリしてるぞ」
「スッキリ?なんだそれは」
「こっちが聞いてるんだよ」
「別に普通だろうが」
「いや、なんかこう達観したっていうか、吹っ切れたっていうか。あ、そうか、俺のアドバイスのおかげだな、きっと」
どうしたらこうも前向きのものごとを考えられるのだろう。
「ああ、そうだな。きっとそうだ」
いちいち否定するのが面倒くさい。
「心がこもってないけど、まあ、俺のおかげでお前の悩みが解決したんならそれでいい。俺は心が広い男だからな」
なにを言い出すやら。そんなに簡単に解決するわけないだろう。
「お前ね、俺のことなんかにかまってないで、自分の身の処し方を考えたらどうだ。少なくとも俺は一度は結婚してるし子供もいるんだ。それなのに、お前ときたら、いつまでもフラフラして…」
「はい、ストーップ!そういう話はお袋からいっつも聞かされててもうウンザリなんだよ。俺は、お前とこうしてチチクリあってるのが楽しいんだよ。仕事はそこそこでいいし、偉くなると何かと忙しいだろう?何かを究めるとか興味ないんだよね。とにかく今が楽しいのが一番!」
十代の若者の様な思考回路に響介は少し眩暈がしてくる。
「まあ、お前の人生だからな、俺が口出しすることじゃないな」
「そんな冷たい言い方するなよ。俺にとってお前は人生の一部なんだから」
それはどういう意味だ?追求するのが怖い。
「そ、そうか。おっと、もうこんな時間だ。じゃあな、凛太朗」
響介は気持ちを切り替えて教室へ向かった。
静音からのアプローチはほぼ一日おきという、かなりのハイペースで続いた。少々寝不足ではあるが、彼女から与えられる体中がとろけそうな愛撫に自分でも意外なくらい溺れていた。彼女が来ない日は逆になかなか眠れなかった。もう身体に教え込まれたという感じだ。まさか自分の身体がこんなにもそういう行為を求めていたなんて知らなかった。だが、相変わらず彼女からの愛撫を受けるに留まっている。その先のことはまだ考えられない。
「パパ、雛ね、今度のピアノの発表会に出ることになったの」
ピアノを始めてまだ3年の雛は、去年はまだ発表会に出るレベルではなかったのだ。
「本当か?すごいじゃないか」
「うん!」
「雛ちゃん、よかったですね」
静音さんも嬉しそうに雛に声をかけた。
「うん、ありがとう。それでね、発表会の時に着るお洋服、静音さんと一緒に買いに行きたいな。ねえ、パパいい?」
静音さんがうちに来てくれた日、雛は彼女の服を大層気に入っていたことを思い出す。
「ああ、もちろん。静音さん、お願いしてもいいかな?」
「はい、よろこんで。じゃあ、明日、早速行きましょうか?」
「ほんと?わぁ~い」
ファッションに関しては世の中の父親はたいてい蚊帳の外だろう。響介も例にもれず全く無頓着な方だ。雛の嬉しそうな顔を見て、静音さんのありがたみをひしひしと感じる。よかったな、雛。
次の日、雛と静音さんは朝から街に出かけて行った。
響介は久々に一人きり日曜の午前を満喫していた。挽きたてのコーヒーの香りを堪能していると、チャイムの音が聞こえた。
せっかくの休日を邪魔するのは誰だ。響介はムッとしながらモニターを覗き込んだ。そこに映っていたのは凛太朗と、その後ろにもう一人誰かいるようだ。
響介はしかたなく玄関に向かった。
「何だよ、せっかくの休日にまでお前の顔をみなきゃならないのか?」
「ひどい挨拶だな」
笑いながら答える凛太朗の後ろの女性に目を移した。「あ、あれ?美里さんじゃ」
「はい。おはようございます」
「静音さんに何か用がありましたか?実は、今、娘と一緒に買い物に行ってまして」
響介は意外な組み合わせにアタフタする。
「ああ、別に静音さんに会いに来たわけじゃないから。ちょっとだけあがっていい?」
「それはかまわないけど」
響介は二人をリビングへ案内した。
「コーヒーを入れるから、ちょっと待ってて」
「ああ、いい、いらないよ。すぐ帰るから」
「そ、そうなのか」
響介は、いったいなんの用なのかと気が気ではない。
「お前には一応言っておこうと 思ってさ」
「なにを?」
急に真面目な顔つきになる凛太朗に響介の不安はMAXになる。
「実は俺たち付き合ってるんだ」
「はあ~??い、いったいいつから?」
「確か、この間この家で会ったあとすぐかな}
手が早いと思っていたが、まさかこんな若い子を手籠めにするとは…。彼女、確かまだ二十二歳だよな。年の差十一歳だぞ。
「し、静音さんは知ってるのか」
「女同士はそういうの早いから。美里の方からすぐ連絡したらしい」
美里って、もう呼び捨てにして…。
「美里さん、こ、こいつに騙されてないですか?大丈夫?」
「お前ね、人聞き悪いこと言うんじゃないよ。何で俺が女性を騙したりする必要があるんだよ。俺は自分の気持ちをいつも素直に表現している。そして、その結果彼女とお付き合いすることになったんだ」
まあ、確かに、この男は下手な小細工はしないだろう。いつも真っすぐぶつかって、ダメな時はそのまま砕け散るような生き方が信条なのだから。それにしても、美里さんはこいつのどこがよかったんだろう?
「私、凛太朗さんみたいな人に会ったの初めてなんです。裏表がないって言うか、変な気を遣わなくてもよくて、一緒にいて疲れないんです。それに、自分の気持ちをいつも素直に言葉にしてくれるのも日本人の男性っぽくなくて嬉しいです」
美里はそう言うと顔を赤らめた。
はいはい、ごちそうさまです。早く目が覚めるといいですね。
「そ、そう。それはよかったね。末永くお幸せに」
「お前、言葉に心が込もらなさすぎ」
「いや、お前が俺に女性を紹介してくるなんて初めてだから、少し驚いてるよ」
「まあな。俺もそろそろ身を固めなくちゃだろ?」
はあ?まさか美里さんと結婚とか考えてるのか?美里さん、それだけは辞めておいた方がいい。こいつに振り回されるだけで人生が終わるよ。
「やだあ、凛太朗さんたら、気が早いよ~」
「は、ははっ。幸せそうでなによりだ」
「じゃ、そういうことで、俺たちこれからデートなんだ。お前の相手してやれなくてすまんな~」
「いや、俺は大丈夫だから、楽しんできてくれ」
響介は玄関で二人を見送った。二十分ほどの短い滞在時間だったのだが、どっと疲れた。
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