ケダモノのように愛して

星野しずく

文字の大きさ
36 / 86

ケダモノのように愛して.36

しおりを挟む
 咲那の自転車に並走する形で桔平はバイクをゆっくりと走らせた。

 ほどなく家に到着する。



「ねえ、ちゃんと話してよ」

「わかったわかった。先にモデルの女の子帰してくるから、上で待ってろ」

「うん…」



 咲那は言われた通り二階に上がって桔平が来るのを待った。

 あいかわらず女の人の絵を描いているんだなと思うと、未だに心の中はモヤモヤする。

 いくら割り切ろうと思っても実際に綺麗な女性を見てしまうと勝手な妄想が始まるのを止めることはできない。



 桔平が絵を描き続ける限り咲那は彼女たちに嫉妬し続けるのだろう。

 辛いけど仕方ないことなのだ…。



 しかし、今はそれよりもさっきのことの方が気がかりだ。

 まるで桔平は水谷さんが来ることが分かっていたようだったから…。



「悪い悪い、待たせたな」

 桔平はドサッとソファに腰をおろすと、煙草に火をつけた。



「銀次から連絡があったんだよ」

「え、あの中華料理屋の?」

「ああ…」

「水谷が変な書置きを残して姿を消したって」

「え、何それ…」

 本当にドラマみたいな雰囲気になってきた。



「銀次の店のすぐ近くのボロアパートあるじゃん。あそこも銀次の家が管理してるんだ。水谷もあそこに住んでたんだけど、急に無断欠勤するようになって、いくら連絡しても繋がらないから、まあ、管理人の権限であいつの部屋を開けたんだ」

「うわ、ホントにドラマだ」

「ばか、あんな危ない目に遭っといて。ふざけてないでちゃんと聞け」

「はぁ~い」



「銀次が部屋に入るとテーブルの上に書置きがあった。それがこれ」

 桔平は携帯の画面を見せてくれた。

 そこには「猪俣咲那ちゃんを迎えに行きます。誰にも渡さない」と書いてあった。

「何これ?」

 咲那は気持ちが悪くて背筋が寒くなった。



「水谷の行先が分からないから、銀次はあいつの実家に連絡を入れたんだ。実家は工務店をやってるらしいんだけど、最近親父さんが倒れて、それで仕送りとかが厳しい状態になったのと、大学をやめて実家に戻ってきて欲しいと母親が話したらしいんだ」

「そうだったんだ…」

「あいつ法学部でさ、あれでも弁護士目指して頑張ってたらしい。それが急に叶わなくなって、精神的にかなり参ってたらしい」

 理由を聞いてしまうと、あんな目に遭わされたのに同情する気持ちの方が強くなってしまう。



「だけど、一時は危なかった親父さんの容態も今は順調に回復に向かってるらしくて、母親もあの時は気が動転していてついあんなことを言ってしまった事を後悔してるって言ってたらしい」

「え、でも水谷さんはまだそれを知らないの?」

「そうなんだ。だから、どうにか捕まえたかったんだけど、今日のところはお前の身の安全が第一だったからな」

「そうだったんだ…」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...