ケダモノのように愛して

星野しずく

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ケダモノのように愛して.60

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「あ、そうだ!桔平のやつ家にいるかな?夕飯に誘ってやろう」

 洋平はいつも思いついたことをすぐに行動に移してしまう。

 咲那が止める間もなくもう電話をかけていた。



「あ、もしもし、桔平か?おれ、帰ってきたぞ。夕飯食いに来いよ。ああ、じゃあ待ってるから」

 え、ええ~!!ちょっと勝手に決めないでよ、心の準備が…。



 咲那は洋平が帰って来たらしばらく桔平には会えないと思っていた矢先に、早速顔をあわせることになってしまい、もう半分パニックだ。

 心の準備をする間もなく外からはバイクの音が聞こえたきた。



「ちわ~っす」

 咲那は不自然にならないように気をつけながら、なるべく桔平のことを見ないようにした。

 その姿を見てしまったら、とても正気でいられる自信がない。

 もう声を聞くだけでドキドキが止まらなくなっているのだから…。



「おお、桔平、久しぶりだな~」

 洋平は弟である桔平にもキッス&ハグの挨拶を敢行した。

「ちょっ、兄貴、ハグはいいけどキスはやめろよ」

「何でだ、久しぶりに会ったんだ、これくらいいいじゃないか」

 日焼けした肌に髭をたくわえた洋平に抱きつかれて、桔平は苦笑する。



 洋平は弟である桔平を溺愛している。

 年は確か十歳離れていて…、父が四十一で桔平が三十一だ。

 確かに十歳も離れていると兄弟というより親子の感覚に近いのかもしれない。



 洋平たちの両親は彼らが二十代の後半に相次いで亡くなった。

 だから余計に兄弟愛が強いのかもしれないのだけれど…。

 それでも、その兄弟愛は洋平から桔平への一方通行のように見えて仕方がない。



「どうだ、絵のほうは?順調か」

「ああ、おかげさまで何とか…」

「そうか、それはよかった」



 洋平は桔平に会えたことが、咲那やまりあに会えたことより嬉しいのではないかというくらいにはしゃいでいる。

 今さら父親の愛情がどうのこうのとは思わないけれど、母のまりあのことを考えると少し複雑だ。



「さあさあ、そうめん用意できましたよ」

「あ、ども、いつもすみません、まりあさん」

「ごめんなさいね、虫歯が治るまではこんなものしか食べられないらしくて」

 まりあはせっかくの料理の腕が振るえなくて残念そうに言った。



「いやあ、まりあさんの料理はなんでもうまいっすから」

 桔平はお世辞ではなく言ったつもりだ。

「まあ、桔平さんたら、口がうまいんだから」

「いえいえ本当ですよ」

「おいおい、俺は除け者か」



 洋平は世界中を飛び回っているからといって孤独を愛するタイプではない。

 むしろ寂しがり屋の方だ。
 
 だから、どこへ行っても大抵友達を作ってしまう。

 こうして家に帰って来ても、みんなの輪の中に入りたくて仕方がないのだ。



 そんなふうに、普段ひとりぼっちで食べる夕食とは正反対の賑やかすぎる夕食のひと時が過ぎていった。

 大人たちの会話が途切れないおかげで、咲那は黙ってそうめんをすすっていればよかった。
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