ケダモノのように愛して

星野しずく

文字の大きさ
69 / 86

ケダモノのように愛して.69

しおりを挟む
「ちょっと、見せなさいよ~」

 ひなたが滝口の後ろに回ると、滝口はその手から逃れようと必死でもがいた。

 次の瞬間、滝口が手にしていた本が床に落ちた。



「あっ!」

 咲那は叫んだ。

「えっ?」
 
 ひなたは咲那の方を見た。

「なんでもない」

 咲那はその本を拾い上げると、部屋を飛び出した。



「えっ?滝口君、あの本何だったの」

「・・・・・・」

 滝口は顔を真っ赤にしたまま、何も答えない。

「え~、なになに~?どうして私には教えてくれないの~」



「どうしたんだ」

 咲那が慌てて部屋を飛び出していったのを見ていた洋平が、滝口のところへやってきた。

「いえ…、なんでもないです」

 滝口はそう答えたが、ひなたは黙っていなかった。



「滝口君が本を見ていて叫んだので、咲那と二人で診に来たら、急に隠して見せてくれなくて。私がその本を取ろうとしたら、坂口君が落としたんです。そしたら、今度は咲那が叫んで、それを拾うと部屋を飛び出して行っちゃったんです」

「ははぁ~」

 洋平は顎をさすりながらニコニコと笑っている。



「滝口君、それは僕の写真集じゃなかったよね」

「え、えっと…」

 滝口はなぜかまだモジモジとハッキリしない。



「何なんですか、一体。さっきから、何を隠してるんですか」

 ひなたはもう我慢できないといった様子で、洋平にせっついた。



「俺の弟は画家をしてるんだが、さっきの本はね、弟が描いた裸婦の画集なんだ」

「やだぁ、滝口君、こっそりそんなエッチなの見てたの~」

 ひなたは普段はクソ真面目な滝口も普通の男だったかと、冷ややかな視線を向ける。

 滝口は変な汗をダラダラとかいていた。



「ただ、それだけじゃないんだな。あの中に咲那の絵があったからびっくりしたんだよな」

「ええーっ!!」

 ひなたが大声で叫んだところに、咲那が凄い勢いで舞い戻ってきた。



「お、お父さん、どうして言っちゃうのよ!ひなたは見てないのに。お父さんのバカ!!」

「なんだ、お前は。そんなに大騒ぎして。桔平の画は芸術じゃないと思ってるのか」

「そ、そういう訳じゃないけど…」

「じゃあ、別にいいじゃないか。お前がそんな態度したら、あいつが悲しむぞ」

 そんな風に言われたら、何にも言えないじゃん。



「うちの家族はね、何だか知らないけど、普通のサラリーマンみたいな仕事が出来ない変わり者ばかりでね。咲那は、その中ではまあ普通だからな。色々苦労してると思う」

 珍しく洋平はそんなことを言った。

「何か…すみません。僕…恥ずかしいです」



「いや、そんなこと全然構わないよ。どんなきっかけでも見てもらうことが大事だからね。そうじゃなきゃ、あいつがせっかく描いた作品もこの世に存在しないのと同じだから」

 ひなたも滝口も、そして咲那も、洋平の言葉をただただポカンと口を開けて聞いているしかなかった。

 だけど、それは自分たちの写真にも言えることだということだけは理解できた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

処理中です...