ケダモノのように愛して

星野しずく

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ケダモノのように愛して.74

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 考えてもどうにもならないのに…。

 苦しいだけなのに…。

 落ち込んでいくばかりの自分が嫌で、咲那は洋平のいるリビングへ行った。



「今日は、また麺しか食えないな~」

 ひとが絶望的な悩みで苦しんでいるのに、隣にいる父親は夕ご飯のことで愚痴を言っている。



 まあ、私が言わないから分かるはずがないんだけど…。

 人って勝手だな…。

 言わなくても分かって欲しいなんて…。

 洋平に悪気なんてないのに、自分が苦しいせいで、こんなにもイライラしてしまうなんて。



「ねえ、お父さん、私、好きな人がいるんだ」

 咲那は何の考えもなしにそう言っていた。

「な、なんだ急に…」

 洋平はギョッとして思い切り目を見開いた。



「な、なんで俺にそんな話を…?」

「だって、お父さんしか話せる人いないんだもん」

 言ってしまってから、もうどうにでもなれと思った。

 可能性はなくても、この状況とは逆に桔平の恋人になれたとしたら、そのときには洋平にもまりあにもそのことを打ち明けなければならないのだから。



「そ、そんなはずはないだろう…。いや、むしろそういう話は父親にだけは聞かれたくない部類の話じゃないか」

 それは洋平の言うとおりだ。

 だが、咲那の場合は事情が違う。

 なにしろ、洋平と桔平の関係が複雑に絡み合っているのだ。

 むしろ、洋平がこの問題の要といっても過言ではない。



「私が好きな人、お父さんの知ってる人だから」

 洋平の頭の中はフル稼働した。

 まさか菊池か?教師と生徒の禁断の恋ってやつか。
 
 それとも、この間うちに来たあの滝口っていう真面目そうな子か。

 洋平は娘が結婚相手を連れてきた時は、このくらい慌てふためくのだろうかと思うくらい、落ち着きを失っていた。



「桔平だよ」

「ええっ!」

 なんだって、今、桔平って…。

 嘘だろう…。

 洋平にとって、桔平は年の離れた可愛い弟で、咲那はもちろん可愛い一人娘で。



「ちょ、ちょっと待ってくれ…、冗談で言ってるんじゃないよな」

「冗談なんかじゃないよ。私、桔平とセックスした」

「なんだってー!!」

 洋平は顔を真っ赤にして立ち上がると、両手をわなわなと震わせた。

 怒りなのか、驚きなのか、もはや感情の種類すら分からない。

 洋平は一旦は立ち上がったものの、急に力が抜けて、ソファにドッと身体を預けた。



「い、いつからだ…、その、そういう関係になったのは」

「それは、最近だけど、私はずっと前から桔平のこと好きだった」

「その、せ、セックスをしたっていうのは、本当なのか」

「本当だよ。嘘なんかついてどうするの」



 嘘をつく意味?ああ、もうそんなもの分からん!

 というか、もう、全てが分からん。

 ただ、咲那の話だけを聞いている訳にはいかないことだけは確かだった。
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