ケダモノのように愛して

星野しずく

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ケダモノのように愛して.78

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「別に…、お前だって俺に会いたくて来てるんだろ」

「うわあ、自惚れてる…。言っとくけど、桔平があんまり悲しそうな声出すから仕方なく来てるんだからね」

「あっそ」



「まったく、いい大人なんでしょ。いい加減自分のことくらい理解しなさいよ」

「してるよ」

「してない。全然分かってない」

「何が分かってないんだよ」

「その失恋したって言うのも、怪しいわね。実はちゃんと告白してないんじゃないの」

 図星をつかれ、桔平はぐうっと唸る。



「本当にうるさいな、もう帰ってくれ」

「わかったわよ~、せっかく来てあげたのに。もう泣きついてきても、来てあげないからね」

 突然寝室から飛び出してきた女性と、盗み聞きをしていた咲那は鉢合わせしてしまう。
 


「あら、桔平、お客さんが来てるわよ」

 女性は寝室の桔平に向かって声を掛けた。

「もしかして、桔平が失恋したっていう彼女?」

「えっ…?」

 咲那にはその女性の言っている意味が全くわからない。



「私のことは気にしないでね、ただのセフレだから」

 そう言うと女性は軽やかな足どりで出て行ってしまった。

 ただのセフレって…、セフレ自体が自慢できることじゃないと思うんだけど…。

 桔平の周辺にいる女性は貞操観念が一般人とはかなりズレているようだ。

 ただ、そんなことより、彼女が言っていた桔平の失恋というのは何のことだろうか。



「桔平!」

 咲那はドスの利いた声でその名を呼んだ。

 今日は気のすむまで言いたいことを言って、聞きたいことを聞くまで帰らないと決めていた。

「さ、咲那…」

 桔平はTシャツに短パンという相変わらずだらしない姿でベッドに横たわっていた体を起こした。



「ちょっと、こっちに来て」

 咲那は有無を言わさぬ強い口調で桔平に指図した。

「なんで俺が命令されないといけないんだよ」

 ブツブツ言いながらも桔平は寝室から出てきた。



「ねえ、失恋って何よ」

「さあ…、俺は何も言ってないけど」

「さっきそこで全部聞いちゃたから、もう言い逃れは出来ないよ」

「お前…、そんな泥棒みたいなことするなよ」



「何だってするよ。桔平が本当のこと話してくれないから」

「俺のせいかよ…」

「そうだよ。全部桔平のせい」

「生意気言うな!」



 桔平は咲那の腕を引き寄せると、その口をふさいだ。

「ん、んんっ!」

 咲那は桔平の胸を思い切り突き飛ばした。



「もう誤魔化されないから。ちゃんと話すまで帰らない」

「何でだよ。お前は俺に抱かれたいだけなんだろう」



 桔平は再び咲那にキスをすると、今度は力強く抱きしめた。

 離れようとして暴れても、桔平の力には敵わない。
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