ケダモノのように愛して

星野しずく

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ケダモノのように愛して.85

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 翌朝、まりあはよく眠れなかったのか、目の下にクマを作っていた。

 ごめんなさい。

 おはようという前に、心の中で謝っていた。



「咲那…、卵は目玉焼きでいい?」

「あ、いいよ、自分でやる」



 今朝のまりあは何だか危なっかしくて見ていられない。

 さっきから、お皿を落としたり、棚に頭をぶつけたり、冷蔵庫の扉に指を挟んだりと、散々だ。

 そうだよね、動揺するよね…。

 しかし、朝一番から深い話をするのも気が引ける。



「お母さん、帰ったら話聞いてくれる」

「うん…分かった」



 咲那の言葉にまりあは何とか笑顔で答えた。

 きっと今日は仕事にならないだろうな…。

 などと、子供のくせに余計なことまで考えてしまう。

 洋平は昨晩飲みすぎたのか、まだ起きてこない。



「行ってきます」

 咲那は次はひなたと滝口という厄介な人物の待つ学校へと向かった。

 桔平との昨日の出来事の甘い記憶に浸る時間など全く与えてもらえず、ピリピリとした空気の中、プレゼンの最終チェックが行われた。

 ようやく解放され、家に帰ると、珍しく既にまりあの車が停まっていた。



「ただいま~」

 洋平は外出中のようだ。

 その方が調子が狂わなくてちょうどいい。

 咲那は着替えると、まりあのいるリビングに向かった。



「昨日は驚かせてごめんね。でも、本当のこと言うと私も驚いたんだけど」

「どういうこと?」

「だって、これまでいくら私の気持ちを伝えても相手にしてくれなかったのに、昨日、私がどこまで行っても追いかけていくって言ったら、やっと桔平も私の気持ちに向きあってくれて。そしたら、もういきなり、私が卒業したら結婚するってなっちゃって。そのうえ、家に来たら私に何も言わないで、お母さんたちにそのこと言っちゃうし…」

「そ、そうだったの…。咲那も大変だったのね」

「でも、一番驚いたのはお母さんだと思うから、本当にごめんね」



「やあね、そんなに謝らないでよ。お父さんが言ったとおり、いずれ咲那はお嫁に行くんだとしたら、それはおめでたいことだもん」

「だけど、桔平だよ?」

「それは…、あなたが選んだんだから、私がとやかく言うことじゃないわ。とんでもなく危険な仕事してる人とかは別だけど…」

「本当にいいの?」

「桔平さん、いい人でしょ。ちょっとだらしないところはあるけど。そこは咲那がちゃんとしてればきっと大丈夫だから」

「あ、ありがとう、お母さん」



 咲那はまた泣いてしまった。

 昨日からいったい何回泣いてるんだろう…。

 涙腺が壊れちゃうよ…。



「はぁ~、だけど、咲那も、もうそんな年になったのね~」

「なによ、あらためてそんなこと…」

「ううん、嬉しいの。恋をして、好きな人と人生を歩むんだなと思うと」

 なぜだかまりあも涙ぐんでいる。

 咲那が涙もろいのは、まりあの遺伝だろうか。
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