ホストと女医は診察室で

星野しずく

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ホストと女医は診察室で.22

「お母さん分かってる?私まだ開業したばっかりなんだよ。結婚なんて当分考えられないから」

「そう言わないで。会うだけでいいのよ。お父さんが仕事でお付き合いのあるコンサルティング会社の社長さんなんだけど、慶子のことを話したら一度会えないかって。年頃の息子さんがいらっしゃるんだって」

「も~う、なんで勝手に私のこと話すのよ」

「話すくらいいいじゃない。どちらにしても、お父さんの顔を立てるためにも会ってもらわないと困るわ。あなたのクリニックの開業資金、お父さんが出してくれたってこと忘れてないわよね」

「ちょっと、それとこれとは話が別でしょ。お金は仕事が軌道に乗ったらちゃんと返すんだし」

「い~え、別じゃありません。お父さんはお父さんでお仕事の繋がりでどうしても断れないことがあるのよ。そういう繋がりがあって、お仕事って回ってくるものでしょ」

「それはそうだけど。お見合いって結婚するためにするんでしょ?仕事と関係ないじゃない」

「だから、それは会うだけでいいのよ。別に会ったからって絶対結婚しなくちゃなんてお母さんだって思ってないわよ。会うだけで何か減るもんじゃないでしょ」

「それはそうだけど…」



 大学に大学院、そして開業の資金、全て両親、いや父が出してくれたのだ。

 全く納得していないけど、父の顔をつぶすわけにはいかない…らしい。

「分かったわよ。ホントに会うだけだからね」

「はいはい。じゃあ、日取りはまた連絡するわね」

 澄江は上機嫌で電話を切った。



 あ~あ、お見合いか~。

 慶子の父である町田敬三は三宮市民病院の院長をしている。

 町田家は代々医師の家系だ。

 慶子は一人っ子で、当然の様に医師の道を選んだ。

 尊敬する父と同じ職業に就くことを特に疑問に思ったことはなかった。

 そんな父には世話になるばかりで、恩返しになるようなことは何も出来ていない。

 もちろん、まだまだ現役の父はそんなことを望んではいないだろうし、必要ともしていないだろう。

 だからこそ、父からの頼みとなると慶子としては断ることが難しいのだった。



 父のことだから、無理に結婚させようなどとは思っていないことは分かっている。

 だから、自分が大人しく見合いをすればそれで丸くおさまるのだ。

 聖夜さんとのことがひと段落したと思ったらお見合いか…。

 もう、今は仕事だけで精一杯なのにな。



「あ~あ、今日一日何しようかな」

 ホストクラブという世界を体験した慶子は、自分が今まで生きてきた世界以外に楽しいことが無限にあるような気がしていた。

 そうだ、エステに行ってみようかな。

 慶子のクリニックは一応美容皮膚科の看板を掲げているわけで、その院長が綺麗であるにこしたことはない。

 慶子も最低限の肌ケアは行っているけれど、自分のことより患者さんの方を優先しているのが現状だ。

 自分のことはつい後回しにしていた。

 慶子はスマホを手にすると、早速評判の良いエステサロンに予約を入れた。



 ホストクラブに行かなくなった慶子は、また仕事漬けの毎日に戻っていった。

 変わったことといえば、あれから定期的にエステに行くようになったことくらいだ。

 おかげで、看護師たちから「先生、最近綺麗になりましたね」などと言われるようになった。

 医師の外見が美しくなることは、患者さんにも少なからず影響を与えているようで、以前よりも紹介や口コミで来てくれる患者さんが増えた。

 嬉しい誤算だったが、結果的により充実した日々を送ることができるようになったわけだ。

 そう、本来だったらそれが素直に嬉しいはずだった。

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