ホストと女医は診察室で

星野しずく

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ホストと女医は診察室で.51

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「僕たちはお洒落なサロンを設計したり、スタッフを集めたり、集客をしたりすることはいくらでもできます。だけど、メディカルとなると医師がいないことにはできませんからね。僕が今から医師免許を取るわけにもいかないし、クリニックにエステをくっつけるっていうのをOKしてくれる医師を探し出すのは結構大変なことなんです」

 聖夜は慶子にウインクをした。

 慶子は目を真ん丸にしたけれど、出来るだけ過剰な反応をしないように自分を戒めた。



「そうでしたか。でも、私も本当にメディカルエステをやってみたいと思っていたところでしたので、ありがたいお話をいただいたと思っています」

「そう言ってもらえると、やりやすいな。やっぱり町田先生のモチベーションが成功するかどうかの要になると思うからね」

「そ、それは任せてください」

 慶子は自分の決心が真剣なものだと分かってもらいたかった。



「じゃあ、あとは二人がざっとこれからの流れを説明します」

 慶子が二人と話している間、聖夜は黙ったまま腕を組んでそのやり取りを聞いていた。

 ひょっとして疲れて寝ちゃった?

 慶子がチラリと聖夜に目をやると、バチっと目が合ってしまい、途端に心拍数が上がる羽目になった。

 ダメだ…、聖夜さんのことを見たら。

 慶子は自分の意思の弱さを呪った。



 二人の説明を聞いて、慶子は自分一人では出来なかったことが本当に実現するのだと改めて実感した。

 ホスト時代にたくさんの人を見てきた聖夜の能力は、スタッフやパートナーを選ぶ時にも十分生かされているのだろう。

 スマートで分かりやすい資料、簡潔で説得力のある説明、どれを取っても不安になる要素が見つからない。



「よく分かりました。私も自分なりにサロンメニューなど具体的なものの勉強をしたいと思います」

「じゃあ、二人はこれで。あとは僕と先生で少し詰めた話があるから」

 聖夜はそう言って二人を先に帰してしまった。



 えっ…、やだっ…、二人っきりはマズい。

 どうしよう…、どうしよう…、どうしよう!

 慶子はとたんにパニックに陥る。



「今これ以上お話することはありません!」

 二人が出ていくのを見届けた慶子は、二階へ続く階段に向かって駆け出した。

「ちょ、ちょっと…慶子さん!」

 聖夜はすぐに後を追ったが、階段の前にある扉にはしっかりと鍵が掛けられている。



「参ったな…」

 仕事のパートナーとしては認めてくれているようだから、完全に嫌われているわけじゃないことは確かだ…。

 だけど、慶子は聖夜と親密になることを過剰に恐れている。

「今日のところは帰るか…」

 聖夜は打ち合わせをしていた部屋に戻ると資料をカバンにしまってクリニックをあとにした。



 慶子は聖夜の車が去っていくのを二階の窓から眺めていた。

 今の自分はこんな子供じみたやり方でしか、気持ちを平静に保つことができない。

 聖夜さん、ごめんなさい…。

 慶子はその分、ビジネスパートナーとしては精一杯協力していく心づもりでいた。

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