ホストと女医は診察室で

星野しずく

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ホストと女医は診察室で.62

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 聖夜はホストクラブ、キャバクラ、スペインバルなど、サロン以外にも様々な店舗を展開していった。

 慶子は相変わらず仕事に追われ、それでもエステやネイルは自分へのご褒美として欠かさず続けた。

 そんな忙しい二人が出会えるのは、二週間に一度くらいの打ち合わせの時と、ごくたまに聖夜の仕事が早く片付いた日の深夜だけだった。



 しかし、そんな切ない日々ももうすぐ終わりを迎える。

 待ちに待ったメディカルエステサロンがいよいよ明日オープンを迎える。

 事前に行った内覧会の評判も上々で、早くも予約がかなり入っている。

 慶子はサロンがオープンするのは勿論嬉しいのだが、同時に聖夜が越してくることの方に自分の気持ちが動いてしまっていることが恥ずかしい。



「遅くなった…、ごめん」

 聖夜がようやく仕事を終えて、慶子の所にやって来たのは午後の十時を回っていた。

 これでもいつもの聖夜にしては早く終わった方だ。



「ご飯は食べたんですか?」

「ああ、夕飯食べながらの打ち合わせだったから」

「い、いよいよ明日ですね…」

「ああ、そうだな…、長かった~」

 聖夜の声は心の底から絞り出しているようで、慶子は少し笑ってしまった。



「なに?おかしい?慶子さんは余裕だな…」

「ち、違います…。余裕なんかないです…」

 まったく、どう転んだらそうなるのだろう。

 聖夜なんかより、はるかに経験が少ない自分に余裕などあるはずがないのに…。



「でも、嬉しい…これでやっといつでも慶子さんを独り占めできる」

「ひ、独り占め…」

 慶子の顔はカーッと真っ赤になる。



「あ、あのっ…」

「なに?」

 ドキドキが止まらない自分とは違って、聖夜は普段と変わりないように見える。

 やっぱり聖夜の方が余裕じゃないかと言いたくなる。



「きちんとしておきたいと思ってるんです…」

「ん?どういうこと」

 聖夜は慶子の言いたいことがよく分からない。



「わ、私の考え方は古いのかもしれませんが…、その、スタッフのこともありますし…、あの…ちゃんとした形でスタートしたいというか…」

 慶子はモジモジと的を射ない言葉を重ねるだけで、一向にその意図するところをハッキリさせない。



「え、マジで?慶子さん、それって逆プロポーズ??」

 聖夜に強く抱きしめられ、慶子は頭から蒸気が噴き出しているかのように真っ赤になる。

 しかしそれはYESという答えでもあって…。



「いやあ、慶子さんってホント時々大胆だよね…。俺の方がびっくりしちゃうよ」

 そ、そんなこと言わないで欲しい…。



「そ、そんなつもりはないんです…。ただ、変な噂を立てられるのが嫌なだけで…。聖夜さんのこと真剣に思ってますから…」

 そんなことを言ってはさらに墓穴を掘ってしまうのに、言わずにはいられない。



「そんなに思われてるなんて、俺幸せだな~」

「え、えっと…、あの…」

 今さら違うと言っても聞いてもらえそうもなくて、慶子は言葉を続けることを諦めた。



「じゃあ、明日婚姻届出しに行こう。いやあ、忙しい一日になりそうだな~」

「…はい」

 慶子は頬を染めながら答えた。
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