ホストと女医は診察室で

星野しずく

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ホストと女医は診察室で.63

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 サロンのオープン当日は予想以上にたくさんの予約が入り、大盛況のうちに一日を終えた。

 慶子はクリニックで通常の診察を行っていたため、直接サロンの方に顔を出すことはなかったけれど、スタッフたちが興奮した様子でその盛況ぶりを逐一伝えてくれた。

 そして、その日最後の患者さんが帰ると、慶子はスタッフを集めて、聖夜と入籍したことを伝えた。



 しかしふたを開けてみれば、みんなが余程驚くだろうと思っていたのはとんだ思い違いだった。

 そこは女性の勘とやらで、スタッフたちの間では既に周知のところとなっていたようで、普通に祝福されてしまい、逆に慶子の方が驚かされる始末だった。



 サロンもクリニックも業務を終えたその日の深夜、聖夜は慶子を自分の新居に招いた。

「これからは堂々と慶子って呼んでいいんだよね?」

 改めて聞かれると、そうであっても恥ずかしい。



「…はい」

「慶子、こっちへ来て」

 慶子はロボットの様にぎこちなく聖夜のところまで歩いていった。



「捕まえた。もう離さないから…」

 そう言われ熱いキスをされれば、あっという間に慶子の体温は上昇する。



「せ、聖夜さん…今日は疲れたでしょうから…」

 恥ずかしさのあまり、ついその先の行為を拒む様なことを口にしてしまう。

 しかし、それはそのことに対する期待の裏返しでもあるわけで…。



「あ、俺のことも、そろそろちゃんとした名前で呼んで欲しいな」

 抱きしめられたまま例の甘えた表情で言われれば、拒めるはずがない。



「こ、こ、こ、孝輔さん…」

「ニワトリじゃないんだから…」
 
 聖夜は本気で笑っている。



「ひ、ひどいです…。緊張してるのに…」



 そうなのだ。

 慶子と聖夜はこの一年というもの、お互いのあまりの忙しさに、ほとんどゆっくり会うことができなかった。

 会えても慶子の部屋に聖夜が訪ねて来て、体を重ねたあと、聖夜はまた仕事に戻るという様な慌ただしさだった。

 だから、慶子が聖夜の部屋を訪れたことは一度もない。

 つまり、慶子は今日初めて聖夜の部屋に招かれたのだった。



 しかし、少し落ち着いて部屋の中を見回してみると、どうも様子がおかしい。

 家具は聖夜好みの雰囲気というより、どちらかというとファミリー向けのナチュラルテイストだ。

 そして極みつけがベッドだった。

 こういうのをキングサイズというのだろうか?

 どう考えても一人で寝るのには大きすぎる。



 こ、これは…。

 慶子は自分が勝手に想像を膨らませていることに気づかれたくなくて、見なかったことにしようとしたが遅かった。



「慶子、今エッチなこと考えただろ?」

「か、か、考えてません!!」

「いいから、いいから、夫婦なのに今さら恥ずかしがることないじゃん」

「考えてませんし、恥ずかしくありません!!」

 そう言っても既に真っ赤になった顔ではまったく説得力がない。



「もう、どこまで可愛いんだよ…、初夜だから優しくしようと思ってたのに、出来なくなるでしょ?」

 聖夜の言葉に、慶子の頭はボンッと噴火する。



「しょ、初夜って…」

「まあ、これまでにしちゃってるからあれなんだけど、一応夫婦になって初めての特別な夜でしょ」
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