はじめての課外授業「女子高生による童貞大学生くんのためのラブレッスン」

星野しずく

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どうしてそうなる?.01

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 啓太は余り身なりを構わないため、持っている服も夏はTシャツに短パン、冬はトレーナーにジーパンというお決まりのパターンだ。

 髪はといえば、大学に入ってからほぼ2年以上床屋に行っていない。

 研究の邪魔になるため、最近では後ろでひとつに結んでいるような状態だった。

 しかし、もう洗うのも乾かすのも面倒なほどの長さになり、さすがの啓太も床屋に行こうと決めた。

 決めたことはいいのだが、地元の床屋とは違いこの辺りではおしゃれな美容室しか見当たらない。

 そんなところは敷居が高くて、どうにも行く気が起こらない。

 啓太は自分の周りにいる友人でいいアドバイスをくれそうな人物を思い浮かべようとしたのだが、結局自分と同類ばかりで全く役に立ちそうにない。  

 困った挙句、そういう分野に明るいであろうさくらに助けを求めることにした。

『髪を切りたいのですが、どこかいいところ知りませんか?』そう打ち込んで送信する。

 さくらの携帯にメッセージが届く。

 それが啓太からのものだと分っただけで、なんだか心がざわめいてしまう。

 ささいな事だが、頼ってもらえるのが何だか嬉しい。

 さくらは早速、この辺りで評判の美容室をいくつかピックアップするが、果たして啓太はそういったおしゃれな美容室に一人で行けるのだろうかという余計な心配をしてしまう。

(しかたない、私がついていってあげるか。)

 そう決めるとさくらは速攻返信のメッセージを送る。

『私がいいところに連れてってあげる。いつがいい?』

『もう、髪がうっとおしくてしかたがないから、出来ればきょうの夕方にでもお願いしたい。』

『オッケー!待ち合わせはこの間のカフェの前でどう?』

『わかりました。5時にそこで待ってます。』

 たった一週間会っていなかっただけなのに、さくらは何だかソワソワしてしまう。

(男の子の扱いなんて慣れてるはずなのに、啓太だと何だか調子が狂っちゃうよ。きっとあいつがウブ過ぎるのがいけないんだ。)

 さくらはそう自分に言い聞かせてみたが、結局ソワソワは収まらないままだった。

 それでも、行き当たりばったりの性格のさくらはそれ以上深く考えることは無く、授業が終わると待ち合わせの場所に一目散に向かっていた。

 待ち合わせ場所のカフェの前では、案の定すでに啓太が待っていた。

「ごめん、待った?」

「ううん。今来たとこ。」

 さくらは、そんな会話もさらっとできるようになったのが何だか嬉しい。

「それじゃ、行こうか。」

「うん。」

「啓太は美容室初めて?」

「うん。今までは地元の床屋だったから。こっちに来てからは髪切ってないんだ。」

「そうなんだ。これから行く美容室はあたしも行ってるところなんだけど、男の人もいっぱい来てるからうまくやってもらえると思うよ。」

「そういうのよく分かんないから任せるよ。」

 電車に乗り2つ目の駅で降りると5分ほど歩いたにぎやかな場所にその美容室はあった。

 啓太はそのおしゃれな外観に一瞬たじろぐが、さくらに引きずられるようにして入店させられてしまう。

「こんにちは~。さっき予約した佐々木さんで~す。」

「お、さくらちゃん、いらっしゃい。なに、今度は年上の彼氏?」

「え~、違いますよ~。ちょっとした知り合いです。」

「ふ~ん。そう?で、今日はどんな感じにしましょう。」

 啓太は今時のファッションに身を包んだイケメンの美容師に尋ねられ、しどろもどろになる。

「えっと、その。さっぱりとしてもらえば…。」

「あ、こんな感じでお願いします。」

 啓太の言葉を遮って、さくらは男性のファッション雑誌を手にしながら、あれこれと美容師さんに指示を出す。

「オッケー。かっこよく仕上げちゃうからね。それじゃ、佐々木さん、こちらへどうぞ。」

「は、はいっ。」

 啓太はガチゴチに緊張した様子で椅子に腰掛ける。

 さくらはソファに座って雑誌を読みながら、おかしそうにその様子を眺めていた。

 しばらく雑誌に夢中になっていると、声がかかる。

「終わりましたよ。」

 椅子から立ち上がりこちらを振り向いた啓太に、さくらは再び目を奪われる。

「ど、どうかな?」

 啓太は不安げに問いかける。

「い、いいんじゃない。」

 さくらは出来るだけ普通を装って答える。

(ちょっとさっぱりすれば多少見栄えも良くなるかな、位にしか思ってなかったのに…。そうだった。啓太は実はめちゃイケメンだったんだった。)

 程よい長さになった前髪、サイドも自然に流れるように短くカットされ、啓太の端整な顔立ちは誰の目にも明らかなものになった。

『啓太を一人前の男にする』というさくらのゲームはうまく行っているはずなのに、心がざわめく。

「今日は、突然だったのに、つきあってくれてありがとう。」

「お礼なんていいよ。あたしいっつも暇だから。友達とテキトーにつるんでるだけだし。」

「いやあ、こんなおしゃれなところ自分一人じゃ絶対入れなかったよ。ホント助かった。美容室って初めてだったけど、美容師さんも気さくで意外と堅苦しくなくてよかったよ。」

「喜んでもらえてよかった。あたしもあの美容室お気に入りなんだ。」

「なんか、水神さんってホントいい人だね。」

 思いがけず褒められて、さくらは動揺してしまう。

「そ、そんな大げさなもんじゃないよ。ただ美容室紹介しただけじゃない。」

「だって、水神さんのお気に入りだからきっといい美容室なんだと思う。」

 どういう理由なんだか分からないけど、啓太はさくらをやけに買ってくれているようだ。

「た、たまたま気に入っただけだと思うよ。それより、時間大丈夫?」

「ああ~っ!まずい、早く戻らないと。それじゃ、お礼は今度するから、今日はこれで。」

 そう言うと啓太はあっという間に研究室へと帰っていった。

(はぁ~、また調子狂わされてる。)

 さくらは、啓太という存在が自分の中でどんどん大きくなっていることに再び戸惑うのだった。
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