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それでも俺が好きだと言ってみろ.80
しおりを挟むこれでは桜庭を失うだけでなく、仕事も失うかもしれない。
でも、それならそうで仕方がない。
いずれ決着をつけなければいけなかったのだ。
それが少し早まっただけだ・・・。
仕事は、また探そう・・・。
時間はかかってしまうかもしれないけど、こんな不自然なやり方でいつまでもやっていけると考えていた自分の頭がおかしかったのだ。
桜庭が三村に和香は適任ではないと告げれば、自分は辞めさせられるだろう。
和香は覚悟を決めた。
真ではないけれど、覚悟を決めたら急に気持ちが楽になった。
そのまま家に帰り、食事を済ますと、さっそくPCを立ち上げて、転職サイトを開いた。
翌日からは、これまで感じたことのないくらい、すがすがしい気分で業務に取り組むことが出来た。
「竹内さん、最近顔色もいいし、元気だし、何より楽しそうだね」
昼休み猪俣がそんなことを言ってきた。
「そう?だったら多分猪俣君のおかげだよ」
そう言って和香はお手製の弁当を広げて見せた。
「うわぁ、すごいじゃない!」
「うん、猪俣君を見習って健康に気を付けてみようかなって。その方が仕事にも集中できるし」
「そうだよ。その通り!体が資本だからね。いい仕事をするには健康でなくっちゃ」
そういう猪俣も最近では以前よりおかずの種類も増えて、よりグレードアップしている。
「ほぉ、新人のお二人は手作り弁当か~。いやあ、僕には真似できないなぁ」
妻帯者である三村が言うと、それはそれで事情がありそうで、答えに窮する。
そうでなくても、三村に声を掛けられると、辞令が下るのではないかと、少しだけドキッとしてしまう。
覚悟はしたものの、それを宣告されるのはやはり嫌なものだ。
月曜以来、当然のことながら桜庭からは何の連絡も無い。
今日は金曜日だ。
桜庭が三村に和香は適任ではないと伝えたとしても、事務処理などがあって実際に辞めさせるにはある程度も必要だろう。
辞令が下るのは来週だろうか・・・。
和香はぼんやりとそんなことを考えながら、お弁当の蓋を閉じた。
土日は何もなく過ぎ、月曜日を迎えた。
しかし、三村からは何の呼び出しもない。
そして、何も無いままおよそ一ヶ月が経過してしまった。
もちろん桜庭からは一切の連絡はなかった。
なぜかまだクビになることなく、仕事ができている。
しかし、和香は一度心に居ついてしまった桜庭の存在を消せないまま、結局何の行動も出来ないでいた。
その間に仕事はほぼ通常の量に減り、ようやく助っ人に頼らなくても業務が行える状態になった。
体調を崩して以来顔を出していなかった伊沢が、久しぶりにオフィスを訪れた。
「伊沢君、無理なことを頼んだばっかりに、本当に申し訳なかった」
三村は心から申し訳なさそうに伊沢に頭を下げた。
「やめてくださいよ、三村さん。私がやりたくてやったんです。自分の体力も考えないで気持ちばっかり焦ってた私の責任です。それに、少しの間でしたけど、久しぶりに仕事ができて、本当に嬉しかったんですよ」
「そう言ってもらえると、やっと枕を高くして寝られるよ・・・。本当にずっと心配してたんだよ」
伊沢の屈託のない笑顔を見て、三村もようやく体を起こした。
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