兄と妹のイケナイ関係

星野しずく

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兄と妹のイケナイ関係.01

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 今年になって、兄将貴は一段と身長が伸びた。

 みのりとの身長差はいつの間にか20cmにもなっていた。
 
 みのりは日本人女性の平均より少し高いくらいの160cmだから、特に低い訳ではない。

 だから、将貴が平均より高いだけであって、みのりがチビだとからかわれるのはどう考えてもおかしいのだ。

 それなのに、今日も朝から将貴はみのりのことをチビ呼ばわりして楽しんでいる。


 みのりの本当の父親は彼女がまだ2歳のころ、仕事中不慮の事故で亡くなった。

 だから、みのりの中に本当の父親の記憶は無い。

 みのりが小学校1年生の時、今の父親と母美智子は再婚した。

 将貴は父和彦の連れ子で、みのりとは3つ違いで当時は小学4年生だった。


 今みのりは中学3年、将貴は高校3年で、どちらも受験を控え大変な時期のはずなのに、兄将貴は緊張感の無い様子でみのりをおもちゃにしてくるのだ。

 いつまでも自分を子供扱いしてくる将兄に腹を立てながらも、みのりはの心中は複雑だった。

 ちびとバカにされてもいいから、こんな関係がいつまでも続いてくれたらと願っているのだから。


 いつの頃からだろう、兄将貴を一人の男性として意識するようになったのは。

 それはもう思い出せないけれど、彼はみのりの初恋の人であることを認めざるを得ないと今では思っている。

 なぜなら、みのりは小学校の高学年位になると女の子の間で交わされる○○君がカッコイイだの、誰が好きだのという話題にほとんど興味が持てなかったからだ。

 その頃は自分でもそれが何故なのか分からなかった。

 しかし、将貴が高校生になって彼女が出来たという話を聞いたとき、遅まきながらみのりは自分の気持ちに気づかされる事になる。

 その彼女とはそんなに長くは続かなかったものの、将貴が彼女を家に連れてきた時などは、とても平常心ではいられなかった。

 いくら将貴は自分の兄で恋愛の対象にはしちゃいけないんだと自分に言い聞かせようとしても、彼を思う時のトキメキを止めることはできなかった。

 そんな訳で、長い片思い中のみのりは、そんな彼女の思いなど知る由も無く、お気楽に彼女をからかう兄を嬉しさと悲しさがごちゃ混ぜになった気持ちで見つめるのだった。



 一方の兄将貴の方は、父親に連れられてこの家に来て一つ屋根の下で暮らすことになった時、すでに小学校4年生だった。

 そんな彼は3つ年下の女の子にどう接したらいいのか分からないまま数年を過ごした。

 両親はそのことを気にはしながらも無理に仲良くさせようとはしなかったおかげで、お互い成長するにしたがって、次第に打ち解け、今では本当の兄弟のようにけんかも出来る関係になった。

 そんな将貴だったが、みのりが中学に入り急に女らしさを増してきた頃から、自分の中に抗えない何かが芽生えてきたことに戸惑っていた。

 でも、そんな自分の気持ちには気づかないふりをしてここまで来た。



 将貴の女子受けは物心ついた時からかなりよかった。

 身長は常に平均以上で運動神経も良い、整った顔立ちで頭も切れるとなれば、周りの女子が放っておく訳もなく、告白されることもめずらくなかった。

 みのりへの気持ちを振り切るために、気持ちの無い付き合いをしてみた事もあった。

 とにかく、自分の中では、これは一時的なことで、そのうち好きな女性が出来て、普通に恋愛が出来るようになるのだろうと軽く考えていた。



 しかし、ここに来てそれはそんなに単純なものではなかったことを思い知らされることになる。

 というのも、高校を卒業し、大学に進むつもりでいる彼は、それを機に家を出て一人暮らしをする予定だ。

 大学は家から通える距離ではない。

 自分が家を出る、それはみのりのそばにいられなくなることを意味する。

 ますます女らしさを増した彼女が、いつどこの誰とも分からない男に奪われるかもしれない考えると、いても立ってもいられなかった。

 産みの親は違えど、自分達は兄弟なんだと何度も自分に言い聞かせてみても、そんな言葉はみのりへの思いを消し去る程の力は持っていなかった。

 高校に行けば、男の方も男女の関係を求めるまでそう時間はかからないだろう。

 そんなことを考えると、めまいがしそうだった。

(いったいどうしたら、みのりを自分のものに出来るのだろう。いや、その前に、みのりは自分の事など、むさくるしいおっさんのようにしか思っていないのではないか?)

 みのりがそんな風に思っているとしたら、まともに迫っても、その後の関係がぎくしゃくするだけで、うまいやり方ではない。

 みのりが自分に対して自分と同じような感情を抱いている様子はない。

 

 こんなに近くにいるのに、触れることが許されない、禁断の恋であることを思い知らされる。

 しかし、幸いにもお互い受験生ということで、今年の夏休みは一緒に過ごす時間がたっぷりある。

 将貴は何かが起こりそうな期待を持って、夏休みを迎えたのだった。
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