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西の空へ。
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西の空からやってくる雨雲が基地を雨で濡らす。
出撃が決定してから3日、天気予報を嘲笑うかの如くこの雨は止みそうにない。今日も出撃は見送られるのかと少し安堵する。私はとんでもない任務に抜擢され、任務を遂行するその時まで待機を続けている。
ちょうど一年前、私の国は不可解な理由で西の国に侵攻を開始、開戦当初は有利に事が進んだが、各国の制裁により徐々に不利な状況に追い込まれる。今では弾薬や燃料や食料が不足し、戦死する者も増えて行った。
国の発表では戦死者は1万人程度と言うが、そんな事は誰も信用していない、噂ではその10倍いや100倍は死んでいると聞く。もはや敗戦は目の前、風前の灯と言うやつだ。
私の任務は至ってシンプルだ、戦闘機に積んだ爆弾を西の国の首都に落とす、それだけだ。問題はその爆弾の中身。
戦術核。
威力は抑えられてはいるが核兵器に変わりはない、投下すれば圧倒的な光を放ち爆風と熱線、放射能で多くの人々が死ぬ事は確かだ。千人か一万人かあるいはもっとたくさん。
そんな物は潜水艦か何かでミサイルに積んで撃てばいいものを、世界各国の制裁により半導体が不足、精密な射撃ができない今、シンプルに戦闘機で近づいて多くの人々が住む都市に直接戦術核を投下する、そんな古びた戦術しか我が国には残されていないのだ。
もはや我が国の大統領は気が触れてしまったのだろう。だが悲しいかなそれが任務なら従うのが軍人、例え私が出撃を拒否した所で他の誰かが出撃する事になる。
幸か不幸か私は離婚して間もないし子どももいない、周りの同僚や後輩には子どもや恋人がいる、天涯孤独な私が適任なのだろう。自分の恋人や子供に核を落として多くの命を奪っただなんて、とてもじゃないが話せるものではない。
私の機体はMiG-31フォックスハウンド、1979年製の骨董品だ。最大速度はM2.8km、速やかにかつスマートに爆弾を運ぶにはもってこいの機体ではある。しかし古いだけあってステルス性が皆無な機体、あっという間にレーダーに捕捉され撃墜される可能性が高い。
暗澹たる気持ちで待機していると上官が駆け足でやってくる。雨はまだ降っている、まさか任務中止か?そんな期待を吹き飛ばす一言が発せられた。
「セルゲイ出撃だ。」
どうやら今から1時間後に雨は止み、出撃可能になるらしい。舌打ちしたい気持ちをグッとこらえて、私は了解と返事をした。
私の出身は首都から1000kmくらい離れた田舎の農家に産まれた。父 母 兄 姉 私の五人家族に犬と猫、裕福ではないが貧しい訳でもない家庭に育った、主に麦を栽培し野菜も作っていた。家族仲も良好でよく旅行にも出掛けた、今でも欠かさず連絡を取り合っている。
学校の成績は普通、運動は出来る方でその当時は女子からモテていたと思う。高校を卒業後に空軍学校に入学、パイロットになる気はなかったが給料が良いという単純な理由で選んだ。
飛行機の訓練はキツかったが、大空で自由に飛ぶ事の素晴らしさを知り、のめり込んだ。卒業後に何度か他国の紛争に参加、敵機を撃墜する事もしばしば、そしていつしかエースになっていた。
妻との出会いは友人からの紹介で、一年の交際を経て結婚。しかし数年後に妻の浮気が発覚、離婚に至る。浮気の原因はシンプルだった、私があまりにも淡白でつまらない男だったからだ。そういえば私は口数も少なく、面白味の無い男である事は自覚していた。今思えば妻には寂しい思いをさせていたのだと申し訳ない気持ちでいる。
それからわずか3ヶ月後、この理不尽な侵攻がはじまった。
1945年8月、日本の広島と長崎に原爆が投下された。あれから77年が過ぎた今現在、一度も核兵器が使用される事は無かった。もし私が投下すれば3度目の過ちを犯す事になる、その後の世界の事など想像もしたくない。
「セルゲイいつでも準備OKだ」
整備士達はいつもの調子だ、この爆弾の中身を知らないのだろう。知れば誰だって拒否したくなる、この基地でこの爆弾が核である事を知っているのはごく僅かだろう。
重い足取りで機体に乗り込みキャノピーが閉まる、一瞬の静寂。不思議なものだ、これから大量虐殺をしに行くというのに、この静寂が私を冷静にさせる。エンジンがかかり、やがて爆音とともにアドレナリンが湧いてくる。
もうどうにでもなれ!クソッタレが!
管制から離陸の許可がおりる。
「セルゲイ神のご加護を」
私は3度目の過ちを犯す。
誰の為に?
出撃が決定してから3日、天気予報を嘲笑うかの如くこの雨は止みそうにない。今日も出撃は見送られるのかと少し安堵する。私はとんでもない任務に抜擢され、任務を遂行するその時まで待機を続けている。
ちょうど一年前、私の国は不可解な理由で西の国に侵攻を開始、開戦当初は有利に事が進んだが、各国の制裁により徐々に不利な状況に追い込まれる。今では弾薬や燃料や食料が不足し、戦死する者も増えて行った。
国の発表では戦死者は1万人程度と言うが、そんな事は誰も信用していない、噂ではその10倍いや100倍は死んでいると聞く。もはや敗戦は目の前、風前の灯と言うやつだ。
私の任務は至ってシンプルだ、戦闘機に積んだ爆弾を西の国の首都に落とす、それだけだ。問題はその爆弾の中身。
戦術核。
威力は抑えられてはいるが核兵器に変わりはない、投下すれば圧倒的な光を放ち爆風と熱線、放射能で多くの人々が死ぬ事は確かだ。千人か一万人かあるいはもっとたくさん。
そんな物は潜水艦か何かでミサイルに積んで撃てばいいものを、世界各国の制裁により半導体が不足、精密な射撃ができない今、シンプルに戦闘機で近づいて多くの人々が住む都市に直接戦術核を投下する、そんな古びた戦術しか我が国には残されていないのだ。
もはや我が国の大統領は気が触れてしまったのだろう。だが悲しいかなそれが任務なら従うのが軍人、例え私が出撃を拒否した所で他の誰かが出撃する事になる。
幸か不幸か私は離婚して間もないし子どももいない、周りの同僚や後輩には子どもや恋人がいる、天涯孤独な私が適任なのだろう。自分の恋人や子供に核を落として多くの命を奪っただなんて、とてもじゃないが話せるものではない。
私の機体はMiG-31フォックスハウンド、1979年製の骨董品だ。最大速度はM2.8km、速やかにかつスマートに爆弾を運ぶにはもってこいの機体ではある。しかし古いだけあってステルス性が皆無な機体、あっという間にレーダーに捕捉され撃墜される可能性が高い。
暗澹たる気持ちで待機していると上官が駆け足でやってくる。雨はまだ降っている、まさか任務中止か?そんな期待を吹き飛ばす一言が発せられた。
「セルゲイ出撃だ。」
どうやら今から1時間後に雨は止み、出撃可能になるらしい。舌打ちしたい気持ちをグッとこらえて、私は了解と返事をした。
私の出身は首都から1000kmくらい離れた田舎の農家に産まれた。父 母 兄 姉 私の五人家族に犬と猫、裕福ではないが貧しい訳でもない家庭に育った、主に麦を栽培し野菜も作っていた。家族仲も良好でよく旅行にも出掛けた、今でも欠かさず連絡を取り合っている。
学校の成績は普通、運動は出来る方でその当時は女子からモテていたと思う。高校を卒業後に空軍学校に入学、パイロットになる気はなかったが給料が良いという単純な理由で選んだ。
飛行機の訓練はキツかったが、大空で自由に飛ぶ事の素晴らしさを知り、のめり込んだ。卒業後に何度か他国の紛争に参加、敵機を撃墜する事もしばしば、そしていつしかエースになっていた。
妻との出会いは友人からの紹介で、一年の交際を経て結婚。しかし数年後に妻の浮気が発覚、離婚に至る。浮気の原因はシンプルだった、私があまりにも淡白でつまらない男だったからだ。そういえば私は口数も少なく、面白味の無い男である事は自覚していた。今思えば妻には寂しい思いをさせていたのだと申し訳ない気持ちでいる。
それからわずか3ヶ月後、この理不尽な侵攻がはじまった。
1945年8月、日本の広島と長崎に原爆が投下された。あれから77年が過ぎた今現在、一度も核兵器が使用される事は無かった。もし私が投下すれば3度目の過ちを犯す事になる、その後の世界の事など想像もしたくない。
「セルゲイいつでも準備OKだ」
整備士達はいつもの調子だ、この爆弾の中身を知らないのだろう。知れば誰だって拒否したくなる、この基地でこの爆弾が核である事を知っているのはごく僅かだろう。
重い足取りで機体に乗り込みキャノピーが閉まる、一瞬の静寂。不思議なものだ、これから大量虐殺をしに行くというのに、この静寂が私を冷静にさせる。エンジンがかかり、やがて爆音とともにアドレナリンが湧いてくる。
もうどうにでもなれ!クソッタレが!
管制から離陸の許可がおりる。
「セルゲイ神のご加護を」
私は3度目の過ちを犯す。
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