3度目の過ち。

おんきゅう

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東の空へ。

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東の空へ向かう雨雲が基地を雨で濡らす。

この雨は天気予報を嘲笑うかの如く降りしきり、もう3日は降り続いている。雨が降れば基本的に敵機はやって来ない、最新鋭のステルス戦闘機が台頭する時代、敵国の戦闘機は今や世界各国の制裁により整備が行き届かず、骨董品ばかりが出撃するはめになり、天候不良だとまともに飛ぶ事ができない。

敵国の理不尽な理由による侵略により、我が国はメチャクチャに蹂躙された。あの侵略から一年、各国の援助のおかげで持ち直し形勢は逆転、徐々に光が見えてきた。

しかし今だに毎日どこかしらでミサイルや砲弾が飛んできて被害が出る。占領された地域は少しずつではあるが取り返している。だがまだまだ元の領土を取り返すにはあまりにも広大で時間がかかる。兵器や食料、人員も十分とは言えない。ライフラインも攻撃により遮断された地域もあるし、毎日100人前後の同胞が戦闘で命を落とす。

そんな中、この荒天は束の間の休息と言って良い、のんびりと寛げる時間を我々に与えてくれた。スクランブルで空に飛び立たねばならない緊張からの解放、本当にありがたかった。このままずっと荒天が続けば、いつのまにか戦争が終わっているのではないか?そんな下らない想像をしてみたり。

「ニコ コーヒーでもどうだ?」

同僚がいれてくれたコーヒーはインスタント、いつもなら取り止めのない味だが、今日は何故か美味しく感じた。

コーヒーを飲み一息ついてからふと過去の出来事を思い出す。私は首都出身で父は私が子どもの頃に、金を稼ぐ為に軍人として参加した他国の紛争で亡くなり、今は母 妹 私の3人家族。団地暮らしでどちらかと言えば貧しい家庭だった。

妹と私は口喧嘩はするものの、比較的仲は悪くなかった。母は仕事で忙しく、本当に苦労をかけさせた。おかげで私は大学まで進学する事ができ、母には感謝してもしきれない。

その後、私は空軍の軍人になるのだが父の死もあってか最初は母に反対されていた。だが無事にパイロットになった事を伝えると素直に喜んでくれた。今では国を守る自慢の息子だと言ってくれる。

彼女とは大学の同じゼミで出会った。お互いフィーリングが合うのか、すぐに仲良くなり付き合いだした。戦争が始まっても毎日欠かさず連絡を取り合っている、一日でも早く会いたい。

コーヒーを飲み終わり一息つくと、徐々に雨が弱まってきた。これくらいなら敵も出撃してくるかもしれないが、本気の戦闘になる事はない。開戦当時は大規模な空中戦もあったが、最近は弾薬不足や燃料不足の影響で威力偵察にとどまっている。敵が国境付近に近づいてきても、こちらが出撃すればさっさと自国の国境まで逃げていく、その繰り返しだ。

私の機体はMiG-29フルクラム、1983年製の骨董品で、主に対空任務にあたる戦闘機だ。開戦当時は敵は最新鋭の戦闘機で攻めてきたが、我が国はこの機体が主力の為、撃墜される事が多かった。今では敵も制裁により古い機体しか運用できず、互角かそれ以上に渡り合えている。

2ヶ月前の作戦中に私は初めて敵の戦闘機を撃墜した。ヘリや輸送機を撃墜した事は何度もあるが、戦闘機は初めてだ。これでやっと一人前の戦闘機乗りになった気がした。同僚も自分の事の様に喜んでくれて、この隊に配属されて本当によかったと改めて感じた。

そんな事を考えていたら、いつの間にか眠ってしまった。30分くらい経ったその時、突然スクランブルのアラートが鳴り響く、このアラート音はどんな深い眠りでも一発で必ず起こしてくれるほど強烈で不快な音だ。

私は素早く準備を済ませてハンガーに急ぐ、ハンガーでは整備兵達が慌しく準備を進めていた。しかしいつもと様子が違う、機体のウェポンベイには明らかに本気の戦闘の際に使用される中距離ミサイルが搭載されていた。

威力偵察ではないのか?一瞬緊張が走ったが、今の私は戦闘機を撃墜した自信もある。やれるものならやってみろと自分を奮い立たせる。コックピットに乗り込み準備を進める、すると管制から連絡が入る。

「敵機はMiG-31一機、首都に向かっている。速やかに撃墜し排除せよ」

たった一機のMiG-31が首都へ?一体何をしに?首都には家族や恋人が暮らしている。何か得体の知れない嫌な予感に襲われたが、今はやるしかない。

管制から離陸の許可がおりる。

「ニコ 神のご加護を」

いつしか雨は止んでいた、雲間から光も射してきた、明日はきっと良い天気になる。私はスロットルを全開にし、東の空へと飛び立った。













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