5 / 5
最終話 勇者の闇落ちは阻止できましたか……?
しおりを挟む
「俺と、結婚してくださいませんか」
「……は?」
飲んでいた紅茶を吹き出す代わりに、カップを取り落す。
硝子の割れるような音がどこか懐かしかった。
この世界に自分が極悪王女として転生してから一か月後、勇者たちは王都に帰って来た。
王女として魔王を倒した偉業を称え、勇者シオンには爵位と王都に土地屋敷を与えた。
聖女との結婚も許そうと思ったが、聖女アデライトが結婚したのは元魔王軍の暗黒騎士とだった。
魔王に滅ぼされた国の王子だった彼は妹姫を人質に取られ、仕方なく魔王城で門番をしていたらしい。
聖女に説得され勇者に加勢して魔王を倒した彼とその妹姫を民として迎えることを聖女アデライトは褒美として求めた。
元々残虐王女だったミリアロゼの立場で反対できる程厚顔ではない。当然許可した。
聖女からは非常に感謝されたが、それよりも勇者に「慈悲深き王女だ」と感激されたことが嬉しかった。
彼からの好感度が高ければバッドエンドの運命が遠のくと思ったからだ。
その後暫くして、勇者シオンからアデライトと元暗黒騎士が恋仲だが結婚を教皇に反対されていることを聞いた。
二人を応援したいという彼に詳しく事情をきいた。勇者に恩を売るチャンスだ。
それにアニメのミリアロゼが酷い殺し方をしてしまった聖女に償いたい気持ちもあった。
過去の所業もだが大きいのは身分差らしい。確かに世界を救った聖女と元敵は難しそうだ。そんな時こそ王女の権力を使おう。
取り合えず騎士として取り立てて半年ほど経過してから処刑した騎士団長の代わりに元暗黒騎士を据えた。
前の騎士団長は児童誘拐殺人の常習犯だったことが勇者の協力で判明したので処刑できた。
それから数か月後に聖女と新騎士団長は式を挙げた。
その時「妹のように大切な存在が幸せになってくれて嬉しい」とシオンは泣いていた。強がりをと思ったが口にしないでおいた。
王女に転生後、処刑したのは騎士団長だけではない。アニメで勇者を殺そうとし殺された連中はやはり極悪王女の命令関係なく外道だった。
国で最強やら最高の頭脳やら言われていた彼らだがあくまで小国での話だ。
罪を咎めた所、逆に王女であるこちらを殺そうとしてきたが勇者が護衛してくれていたおかげであっさり返り討ちできた。
空いたポストは勇者が討伐の旅で知り合った実力者たちを紹介して貰い埋めた。寧ろ血塗られたリストラ実行前よりも国力が上がった気がする。
それに何より有難いのは勇者シオンが祖国とはいえ取り柄のないこの小国に永住してくれそうなところだった。
彼の功績なら大国の将軍としてすぐに迎えられるだろうし、どんな美姫でも娶り放題だろうに。
そんなシオンを将軍に任命したのは今年の春だった。女王即位と同時である。国は大いに沸いた。
この国と王女に我が忠誠を捧げると誓ってくれた彼に「つまり私の娘の騎士となってくれるの?」と意地悪く返したら慌てていて面白かった。
そして一か月前元聖女夫婦に可愛らしい女の子が生まれた。
子供は可愛いなとシオンの前で呟いた記憶はある。別に欲しいと言った訳ではない。まさかあれがフラグだったというのか。
「女王陛下を我が妻と呼ぶ許可を与えてくださいませんか」
「それは、つまり……」
「ただの村人だった俺がこのようなことを願うなど、不敬罪で処刑になる覚悟はできています」
「いやっ、それはしない!絶対しないから!……する筈ない、ですわよ」
勇者を処刑などとんでもない! 忘れかけていたバッドエンドルートを思い出させないで欲しい。
しかし完全に想定外だった。シオンのことは決して嫌いではないし寧ろ気に入って傍に置いていたがまさか結婚を申し込まれるとは。
恋人同士にすらなっていない。そんな甘い空気になったこともない。だって「俺」にそんな趣味はない。
確かに王女時代も、そして女王に即位した後も彼を重用し外出の際の護衛役を頼んだが。
魔族の生き残りに誘拐された時に真っ先に助けに来てくれたシオンに泣いて縋りついたりもしたが。
結婚を断っても闇堕ちはしないだろうが、シオンのことは嫌いでない。恋愛感情は今のところないが。
ううむ、どうしよう。転生してから五年近く経つが元の世界には戻れそうもない。男らしく覚悟を決めるべきか。
身分は問題ないだろう。本来のミリアロゼも勇者と結婚するつもり満々だったのだから。
それに物語の中で勇者と姫が結ばれて終わる話など幾らでもある。
陳腐なご都合主義だろうがハッピーエンドは素晴らしい。
転生してから強くそう思うようになった。
(もしかしてハッピーエンドの難易度を跳ね上げたのは全部王女の極悪さと短絡さが原因なのでは?)
アニメのミリアロゼは強引で身勝手過ぎた。何よりも性急だった。
いきなり結婚を迫って、断られたら即村を焼きます家族惨殺します仲間殺します。
そして勇者本人も処刑しますは破滅RTAが過ぎるというものだ。
大体、お前は魔王を倒した勇者の妻として後世まで崇められたいのではなかったのかと。
その勇者の名誉を貶めて殺してその後復讐されなくてもミリアロゼに何が残ったのだろうか。
一度振られても、その後普通に善良な王女として距離を近づけていたらその内勇者にプロポーズされてたんじゃないだろうか。馬鹿だな本当。
急がば回れとはよくいった物である。
割れたカップの破片に映るミリアロゼがどこか悔しがっているように見えて愉快だった。
でも彼女の場合は完全に自業自得だ。
愛とは押し付けるものでも、拒まれて憎むものでもない。
さて、勇者様からのプロポーズはお受けするべきだろうか?
「私」は少し考えた後口を開いた。
【END】
「……は?」
飲んでいた紅茶を吹き出す代わりに、カップを取り落す。
硝子の割れるような音がどこか懐かしかった。
この世界に自分が極悪王女として転生してから一か月後、勇者たちは王都に帰って来た。
王女として魔王を倒した偉業を称え、勇者シオンには爵位と王都に土地屋敷を与えた。
聖女との結婚も許そうと思ったが、聖女アデライトが結婚したのは元魔王軍の暗黒騎士とだった。
魔王に滅ぼされた国の王子だった彼は妹姫を人質に取られ、仕方なく魔王城で門番をしていたらしい。
聖女に説得され勇者に加勢して魔王を倒した彼とその妹姫を民として迎えることを聖女アデライトは褒美として求めた。
元々残虐王女だったミリアロゼの立場で反対できる程厚顔ではない。当然許可した。
聖女からは非常に感謝されたが、それよりも勇者に「慈悲深き王女だ」と感激されたことが嬉しかった。
彼からの好感度が高ければバッドエンドの運命が遠のくと思ったからだ。
その後暫くして、勇者シオンからアデライトと元暗黒騎士が恋仲だが結婚を教皇に反対されていることを聞いた。
二人を応援したいという彼に詳しく事情をきいた。勇者に恩を売るチャンスだ。
それにアニメのミリアロゼが酷い殺し方をしてしまった聖女に償いたい気持ちもあった。
過去の所業もだが大きいのは身分差らしい。確かに世界を救った聖女と元敵は難しそうだ。そんな時こそ王女の権力を使おう。
取り合えず騎士として取り立てて半年ほど経過してから処刑した騎士団長の代わりに元暗黒騎士を据えた。
前の騎士団長は児童誘拐殺人の常習犯だったことが勇者の協力で判明したので処刑できた。
それから数か月後に聖女と新騎士団長は式を挙げた。
その時「妹のように大切な存在が幸せになってくれて嬉しい」とシオンは泣いていた。強がりをと思ったが口にしないでおいた。
王女に転生後、処刑したのは騎士団長だけではない。アニメで勇者を殺そうとし殺された連中はやはり極悪王女の命令関係なく外道だった。
国で最強やら最高の頭脳やら言われていた彼らだがあくまで小国での話だ。
罪を咎めた所、逆に王女であるこちらを殺そうとしてきたが勇者が護衛してくれていたおかげであっさり返り討ちできた。
空いたポストは勇者が討伐の旅で知り合った実力者たちを紹介して貰い埋めた。寧ろ血塗られたリストラ実行前よりも国力が上がった気がする。
それに何より有難いのは勇者シオンが祖国とはいえ取り柄のないこの小国に永住してくれそうなところだった。
彼の功績なら大国の将軍としてすぐに迎えられるだろうし、どんな美姫でも娶り放題だろうに。
そんなシオンを将軍に任命したのは今年の春だった。女王即位と同時である。国は大いに沸いた。
この国と王女に我が忠誠を捧げると誓ってくれた彼に「つまり私の娘の騎士となってくれるの?」と意地悪く返したら慌てていて面白かった。
そして一か月前元聖女夫婦に可愛らしい女の子が生まれた。
子供は可愛いなとシオンの前で呟いた記憶はある。別に欲しいと言った訳ではない。まさかあれがフラグだったというのか。
「女王陛下を我が妻と呼ぶ許可を与えてくださいませんか」
「それは、つまり……」
「ただの村人だった俺がこのようなことを願うなど、不敬罪で処刑になる覚悟はできています」
「いやっ、それはしない!絶対しないから!……する筈ない、ですわよ」
勇者を処刑などとんでもない! 忘れかけていたバッドエンドルートを思い出させないで欲しい。
しかし完全に想定外だった。シオンのことは決して嫌いではないし寧ろ気に入って傍に置いていたがまさか結婚を申し込まれるとは。
恋人同士にすらなっていない。そんな甘い空気になったこともない。だって「俺」にそんな趣味はない。
確かに王女時代も、そして女王に即位した後も彼を重用し外出の際の護衛役を頼んだが。
魔族の生き残りに誘拐された時に真っ先に助けに来てくれたシオンに泣いて縋りついたりもしたが。
結婚を断っても闇堕ちはしないだろうが、シオンのことは嫌いでない。恋愛感情は今のところないが。
ううむ、どうしよう。転生してから五年近く経つが元の世界には戻れそうもない。男らしく覚悟を決めるべきか。
身分は問題ないだろう。本来のミリアロゼも勇者と結婚するつもり満々だったのだから。
それに物語の中で勇者と姫が結ばれて終わる話など幾らでもある。
陳腐なご都合主義だろうがハッピーエンドは素晴らしい。
転生してから強くそう思うようになった。
(もしかしてハッピーエンドの難易度を跳ね上げたのは全部王女の極悪さと短絡さが原因なのでは?)
アニメのミリアロゼは強引で身勝手過ぎた。何よりも性急だった。
いきなり結婚を迫って、断られたら即村を焼きます家族惨殺します仲間殺します。
そして勇者本人も処刑しますは破滅RTAが過ぎるというものだ。
大体、お前は魔王を倒した勇者の妻として後世まで崇められたいのではなかったのかと。
その勇者の名誉を貶めて殺してその後復讐されなくてもミリアロゼに何が残ったのだろうか。
一度振られても、その後普通に善良な王女として距離を近づけていたらその内勇者にプロポーズされてたんじゃないだろうか。馬鹿だな本当。
急がば回れとはよくいった物である。
割れたカップの破片に映るミリアロゼがどこか悔しがっているように見えて愉快だった。
でも彼女の場合は完全に自業自得だ。
愛とは押し付けるものでも、拒まれて憎むものでもない。
さて、勇者様からのプロポーズはお受けするべきだろうか?
「私」は少し考えた後口を開いた。
【END】
119
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
召喚聖女の結論
こうやさい
ファンタジー
あたしは異世界に聖女として召喚された。
ある日、王子様の婚約者を見た途端――。
分かりづらい。説明しても理解される気がしない(おい)。
殿下が婚約破棄して結構なざまぁを受けてるのに描写かない。婚約破棄しなくても無事かどうかは謎だけど。
続きは冒頭の需要の少なさから判断して予約を取り消しました。今後投稿作業が出来ない時等用に待機させます。よって追加日時は未定です。詳しくは近況ボード(https://www.alphapolis.co.jp/diary/view/96929)で。
ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。
URL of this novel:https://www.alphapolis.co.jp/novel/628331665/937590458
聖女のはじめてのおつかい~ちょっとくらいなら国が滅んだりしないよね?~
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女メリルは7つ。加護の権化である聖女は、ほんとうは国を離れてはいけない。
「メリル、あんたももう7つなんだから、お使いのひとつやふたつ、できるようにならなきゃね」
と、聖女の力をあまり信じていない母親により、ひとりでお使いに出されることになってしまった。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
悪役女王アウラの休日 ~処刑した女王が名君だったかもなんて、もう遅い~
オレンジ方解石
ファンタジー
恋人に裏切られ、嘘の噂を立てられ、契約も打ち切られた二十七歳の派遣社員、雨井桜子。
世界に絶望した彼女は、むかし読んだ少女漫画『聖なる乙女の祈りの伝説』の悪役女王アウラと魂が入れ替わる。
アウラは二年後に処刑されるキャラ。
桜子は処刑を回避して、今度こそ幸せになろうと奮闘するが、その時は迫りーーーー
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる