ヤンデレ悪役令嬢の前世は喪女でした。反省して婚約者へのストーキングを止めたら何故か向こうから近寄ってきます。

砂礫レキ

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【30】悪霊令嬢、魔女と出遭う

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 自分に都合が悪くなった時に泣き出す人間は苦手だ。

 更に泣いたという理由だけで同情したり庇ったりする人間も苦手だ。

 つまり今この空間は私の苦手なものだらけということだ。

 静かに泣くルシウスは確かに美しい。

 でもその美少年、浮気した挙句婚約者突き飛ばして気絶させた人物なのだが。

 こちらも悪霊のように付き纏っていた過去がある。だからお互いの罪を相殺して縁を切りたい。

 その上でルシウスは豪商の愛娘であるヒロインと婚約し直せばいい。それだけの話だ。

 睦み合うという言い方は過激だったかもしれない。

 でもゲーム内で彼がヒロインの手作りサンドイッチを食べるイベントが存在する。

 そのイベントを発生させる条件は告白イベントとキスイベントをこなすことだ。つまり二人は既にそういう関係だろう。

 ルシウスルートはリコリスとの婚約解消が最終目的だからか恋人同士になるのが他の攻略対象よりも早い。

 婚約解消を先にするべきだというプレイヤーからの意見もあった。このシナリオのせいでヒロインが叩かれたりもしていた。

 私も正直、このルートのヒロインの行動や言動は好きでなかった。ルシウスの事もだ。

 だからつい裏切られた婚約者側に肩入れして感情的な台詞が出てしまったのかもしれない。

 リコリスは狂人だけれど、二人は不実だと。


「……婚約破棄ではなく解消よ。今なら私はまだ貴男たちを許せるわ」


 言葉を吐き出す度に疲労が蓄積される。リコリスの口調を厳密に真似ることすら億劫だ。
 
 泣かないで欲しい。鬱陶しさだけでなく気が滅入るのはルシウスを愛している感情が私の奥底に存在するからだろうか。

 そんな重苦しい空気を無遠慮に破壊するように大声が突如響き渡る。


「ちょっと待ったぁ!美少年イジメはそこまでよぉん!!」

「……え」  
 
「ううっ、ルシウスきゅんが可哀想すぎるわぁん!魅了魔法で心を縛られた上でフラれるだなんてぇ!!」



 余りのうるささに振り返った私の耳に赤信号で突っ込んでくる暴走トラックみたいな台詞が聞こえた。


「……は?」


 魅了魔法で心を縛る?もしかしてそれを私がルシウスにしたと声の主は言っているのか?

 冤罪冤罪大冤罪である。

 
「浮気したと勘違いして嫌がらせした挙句ルシウスきゅんを無理やり虜にするだけで非道過ぎるのにぃ!魅了した上で傷つけて楽しむなんてドエスすぎるわぁん!!」


 職員室中に、いや廊下まで響き渡る声に私は思わず耳を塞いだ。あらゆる意味で痛い。

 しかし特徴的な口調と声量で私は声の主の正体に気づいた。そうか、彼女もこの世界に実在するのか。


「……それはちょっと、言いがかりが過ぎませんこと?アヤナ・ゾディアック先生」


 私は耳から手を離して相手を睨みつけた。視線の先にはいかにも魔女といった帽子を被った妙齢の美女が立っている。

 濃い紫を基調にした帽子とボディコンワンピース。髪はピンクパープルの縦ロール。

 右頬には薔薇のタトゥーが目立つ。年齢不詳の非常勤講師。趣味は美少年観察と縁結び。

 学院内の美少年と、ついでに美青年に詳しい。何故かヒロインを気に入り恋の成就を応援してくれる。

 つまり花スク内の相談役兼お助け便利キャラだ。正体は理事長だったか。

 好感度を上げるアイテムをくれたり、ヒロインのピンチに攻略対象を呼んでくれたり味方なら心強いのだが。

 それ以外の立場からだとこんなにも迷惑な人間に思えるのか。職員室への呼び出しもこの人の企みかもしれない。

 特定の生徒を贔屓するフリーダムな権力者だ。敵に回したら面倒に決まっている。私は小さく舌打ちした。
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