君を愛することは無いと言うのならさっさと離婚して頂けますか

砂礫レキ

文字の大きさ
3 / 65

3.貴重な証言頂きました

しおりを挟む
「無礼者!」

 シェリアは迷いなくマーベラを平手打ちした。パァンと良い音が響く。
 信じられないような顔をして伯爵家のメイドは廊下にへたり込んだ。

 私も驚いたがシェリアを咎めるつもりはない。
 マーベラは伯爵夫人で元公爵令嬢である私に無礼を働いた。
 勘違いしてるんじゃないですかという発言には明確に悪意があった。

「な、何をするのよ、私が誰だかわかっているの?!」

 衝撃から立ち直ったのかマーベラは顔を真っ赤にしてシェリアに抗議をする。
 私は侍女を手で制して口を開いた。

「ごめんなさい、ちっともわからないわ。貴方が何様なのか私に教えてくださる?」

 様の部分に圧力を込め私はマーベラに問いかけた。
 途端に赤かった顔が青くなる。でも私は容赦するつもりはない。

「伯爵夫人である私に対し勘違いしてると指導できる身分を貴方はこの屋敷で持っているのかしら」
「そ、それは……でも私はフェリクス様の乳母の娘です!」
「だから何だというのです」

 シェリアが冷淡に答える。
 彼女も私の乳姉妹だがそれを笠に着て無礼な態度を他者に取ることは無い。
 主人である私に恥と迷惑をかけると理解しているからだ。

「それならばマリアン様は伯爵の奥方。何故メイドの貴方が上から目線で声を掛けられると思ったのですか」
「う、上から目線なんて私は……」
「勘違いしてるんじゃないですか、でしたか。これが上から目線でなくと何だというのですか!」

 シェリアが厳しい口調で言うとマーベラは助けを求めるようにこちらを見た。
 一見不思議な行動だが思い当たる理由はあった。

 嫁いでからフェリクスに冷淡な態度を取られていたマリアンはすっかり自信を無くしていた。
 そして媚びることにしたのだ。フェリクスだけでなく彼に近い人物たちにも。

 マーベラはその内の一人だ。
 理由は彼がフェリクスの乳母の娘で、メイドだが令嬢付きの侍女のように彼の身の回りの世話をしていたからだ。
 マーベラは恐らくシェリアと同じくらいの年齢だろう。外見は勝ち気そうな美女だ。

 そんな相手が夫にべったりとしているなら普通は嫉妬するだろう。
 しかしマリアンは箱入りお嬢様だったのでメイドと主人がそういう関係になるなんて全く考えなかったのだ。
 
 だからわざとらしい位過保護にフェリクスの世話を焼くマーベラに対し牽制どころか愛想を振りまいた。
 丁寧に接し何度も贈り物をして気に入られようとした。
 フェリクスに対し自分を売り込んでくれないかという下心で。

 だが結果は虚しくマーベラはマリアンを自分より下の人間だと認識した。
 そして小姑のようにチクチクと嫌味を言ったり嫌がらせをするようになったのだ。

「……今までの私の態度も悪かったわね、でも勘違いしているのは貴方よマーベラ」
「なっ」
「多分私が旦那様に対し生意気なことを言ったと叱りに来たのでしょうけれど、貴方は私と彼の関係に口出しする権利なんて無いの……所詮ただのメイドなのだから」

 そう冷酷に告げる。マーベラが鬼の形相になった。
 私を守るようにシェリアが一歩前に出る。侍女の肩越しにマーベラの叫び声が聞こえた。 

「私はただのメイドじゃないわ、取り消しなさい!」
「ただのメイドじゃないってどういうこと?……もしかしてフェリクス様の恋人とか?」
「そっ、そうよ!私の方が貴方よりずっと彼に愛されているんだから!!」

 シェリアが再び腕を振り上げるのを私は止めた。
 そして怒りと興奮で涙目になっているマーベラに笑顔を浮かべる。

「そうなの、ではフェリクス様は貴方という恋人がいながら私と結婚したのね。……我が公爵家には内緒で」

 貴重な有責証言有難う。私の言葉にマーベラは口をパクパクさせた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。 人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。 これでは領民が冬を越せない!! 善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。 『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』 と……。 そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。

初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。

豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」 「はあ?」 初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた? 脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ? なろう様でも公開中です。

理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました

ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。 このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。 そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。 ーーーー 若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。 作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。 完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。 第一章 無計画な婚約破棄 第二章 無計画な白い結婚 第三章 無計画な告白 第四章 無計画なプロポーズ 第五章 無計画な真実の愛 エピローグ

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処理中です...